祝福を願う少女
マリアは教会の祭壇で神に祈っていた。
誰もいない深夜であるため他に人影はなく外の虫の鳴き声が壁を通して聞こえてくる。
普段この時間は施錠しているのだが彼女はここのシスターとして管理を任せているため出入りすることができた。だがこの時間に礼拝をすることは今日が初めてであった。
細い両手の間に生まれた頃から使い込んでいる純銀製の十字架を握り締めて必死に祈り続けた。十字架の下の方は赤く染まっているり
「お願いします。お願いします。お願いします」
今夜罪を犯してしまったのだ。
1時間ほど前、この教会での戸締りを終えてすぐ近くにある借りているアパートまで帰っている途中に彼女は襲われた。
相手は自分より一回り大きい男で全身を黒で覆っていた。後ろからいきなり抱きつかれ身動きを封じられてしまった。
一瞬にして恐怖が体中を巡った。頭の先から指の先までひんやりとして暖かい血液が急激な勢いで流れたのが分かった。
彼女は必死に身体を揺さぶって抵抗したが相手の腕力はか細い彼女を捉えるのには十分でなかなか解けなかった。
ふとその手に当たるものがあった。それは首にかけた十字架だった。
彼女はそれに気付いた瞬間やるべきことが分かった。それを握り一番長い部分を男の左目に突き立てた。
かなり奥まで到達したのだろう。男の体は細かく痙攣しながら動きを止めてしばらく立ち尽くした後尻から崩れて仰向けに倒れた。
マリアは未だに収まらない呼吸を深呼吸して落ち着かせながら静かに男の方を振り返る。心臓がバクバクと音を響かせている。
倒れながらも腕は倒れる前の形のまま姿勢で前に突き出したままだ。近付きながら顔を見ると顔面に刺さった十字架は深く刺さっていた。
顔から徐々に視線を下にずらす。すると胸が動いていることに気付いてしまった。まだ息がある。
しまったと思った。心臓がまたもや胸の中で暴れ出す。マリアは刺さった十字架を力の限りに引っこ抜き走り出した。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
謝りながら必死に走る。目的地は教会である。目からは涙が溢れ出てくる。呼吸で必死な口は唾を留めることはできず外に流れていく。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
先ほどの男が脳裏を過ぎる。苦しみを与えてしまってごめんなさい。
そして我が神を仰ぐ。哀れな男を裁かず申し訳ありませんと。




