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剪定部隊の機械竜

作者: 笑う三角州

 育てたり採掘しなくても資源のほうからちょくちょく攻めてくるので気楽に持続可能な戦争を出来る世界。

 少年が跨る希少なドラゴンロボットが、5mの森林伐採用人型兵器と一緒に、モンスターとなった無人機を排除しながら、陸上を進む移動拠点を守り、未開の地を強行突破する。

 目的は、世界を滅ぼそうとするもう一体のドラゴンロボを阻止すること。

 彼らの進む先には先行する者たちが交戦した痕跡が残り、進んだ後には他の勢力を導く道が出来る。

 時々先行する別勢力の防衛部隊と戦ったり、追い付いた味方から追加兵装を受け取ったり、超大型モンスター相手に全勢力が協力したりもする。

 栄華を極めていた古代文明の崩壊が、遥か昔のおとぎ話として語られる時代。

 人類は暴走する二つの古代兵器『リョクカ(拡大する深い森)』と『ハチ(自立し増殖進化するドローン群)』に生存圏を脅かされながらも、逆に際限なく増殖を続ける古代兵器を狩ることでそれなりに繁栄を続けていた。

 人々はハチの強固な外骨格からメインフレームを削り出してモーターを繋ぎ変え、そこにリョクカから切り出した木の装甲を取りつけたアシストアーマー『動力甲冑』を身にまとう……或いは巨大な動力甲冑に搭乗することで、古代兵器から勢力圏を守り、国家同士の戦争を続けていた。



 リミテッド帝国とディスコード諸国連合が争い続ける中央大陸の主戦場。

 そこから遠く離れた辺境の海を渡れば、その先に人の築いた文明の痕跡は残っていない。

 人類の排除された南大陸は海から見れば断崖のように建ち並ぶ巨木によって視界を断ち切られ、空から覗こうにもリョクカの木々が排出する健康増進効果に満ちた霧によって何も観測することが出来ない。

 霧より上に出ている物は、各地に幾つか存在するリョクカの中心地、成層圏まで到達した植物群による絶対防衛領域『世界樹』だけである。


 全土をリョクカに飲み込まれたこの南大陸に派遣されたリミテッド帝国の第十二特殊剪定部隊は、海をも渡って増殖せんとするリョクカの森を鎮静化するためにやってきた、全長三十メートルの歩行型輸送艦『ヒアブ』と五mクラスの巨大な搭乗型動力甲冑三着を擁する強行伐採部隊である。

 海峡を渡ろうと、リョクカは海岸線に多様な植物群を並べる。

 種子を飛ばすために大砲を模した花や、大量の種子を詰め込んだ気球型の実。

 飛行型のハチを集めて株ごと海を渡らせる一部の植物は、もっとも危惧すべき成功率の高い渡りとして、沿岸警備専門の部隊を各国に作らせたほどだ。

 これらを迎え撃つだけでは効率が悪いので、直接上陸して海岸の清掃を行うのが剪定部隊の仕事であり、森を怒らせない程度に刈り取るのが腕の見せ所である。

 部隊用に設定された通信帯域では、誰が会話しているのか判別できない勢いでどうでもいい雑談が繰り広げられている。


「種を飛ばさない木だけを残していけば、リョクカの活性化も帝国への侵略も遅らせることが出来るのか。昔の人はよく考えたものだな」

「新人、高い木を森側に倒して他の木を巻き込め。リョクカに同士討ちだと誤認させるんだ」

「言われて簡単に出来たら苦労しませんって」

「可愛げのねえガキだなあ!」

「誰か替えの樽を持ってきて下さい。リョクカの霧が濃厚で回復液が勝手に溜まっちゃう」

「もう深呼吸するだけで健康になりそうだ」

「熊発見です! モーターとフレームを傷つけないように急所を狙って停止させられますか!? 可能だったら外装も持ち帰って臨時収入に!」

「無茶を言うな! 立ち上がったら搭乗型より大きそうな個体じゃねえか」

「だからこそですよ!」

「艦長、上空にハチが増えてきました」

「手の空いた者は飛んでるハチに除草剤を投与した渡り株を渡すように。海を渡って帝国に辿り着く頃にはどちらも程よく弱って、それを民間業者が狩って行く」


 おおよそこんな感じで、部隊は気楽ながらも滞りなく作業を進めていく。

 剪定が進み砂浜の白さが見えるようになり、森の中に部隊が進んだ頃。

 安全を確保した剪定部隊の整備班が巨木の間でヒアブの脚部装甲を外して内部調整を始め、搭乗型動力甲冑が高所の種子を叩き落とし、動力甲冑の隊員がその中身を叩き割る。

 その上空を、戦争の相手国であり航空技術で世界をリードするディスコード諸国連合の超巨大な飛行要塞が、爆撃をしながら通過した。


「なんて奴らだ! 戦場外での環境対策には人類が共同で対応するのが国際ルールのはずでは?」

「ここに監視の目はないからな。俺たちだってチャンスがあったら同じことをするさ」

「バカ言ってないで後退! 森が戦闘モードを起動しています!」

「最悪だ! 今のヒアブは重力装甲が外れてるんだぞ!?」


 飛行要塞は減速せずに南大陸の中心……植物が成層圏まで到達した人類未踏の区域『第九世界樹』の方角へ向かい、霧の中に消えた。

 広範囲に爆撃を受けたリョクカの森は異物の破壊に動き出し、悲鳴のような軋みを上げてうねる巨木が絡み合ってヒアブの逃走ルートを塞ぐ。

 それを搭乗型の一機がレーザーソーで叩き切る。

 他の木々も幹を打ち付けてくる中を後退するヒアブ。


「搭乗型はヒアブの脚を守って!」

「もうやってる!」

「現時刻を持って本艦は戦闘態勢に移行、各員全ての攻撃を許可する!」

「緊急用レーザーソーの使用が許可されます! 何とか持ちこたえて!」

「許可が出る前から使ってる! 発言記録消しといて!!」


 海に逃げ込もうとするヒアブであったが、リョクカの警報を聞きつけて集まった水中戦特化型のハチの猛攻を受けて海岸で足止めされる。


「これ以上は下がれない! 海面は水が一割で残りは全部鰯だ!」

「くそっ蛸が上がってくるぞ! 取りつかれる前に防御スクリーンを展開しろ!」

「陸に戻れ! 動けなくなったら終わりだぞ!」

「海岸線を走って蛸から逃げるんだ! リョクカの反撃エリアを脱出できれば!」

「重力制御のない今の脚力では……直撃!? ヒアブの膝が!」

「神様……!」


 もはや逃げ切ることも不可能となった剪定部隊であったが、全員が防御スクリーン内部に追い込まれ、徐々に包囲網をせばめる動く木々と総金属製海産物。

 だがヒアブの真上に降ってきた熱線が防御スクリーンで捻じ曲げられ、至近距離で大爆発が起こりヒアブの周辺一帯が吹き飛ばされる。

 直撃を逃れたヒアブも衝撃で傾く。


「……何が起きたんだ? 外の奴らは?」

「甲冑負傷率に致命傷無し、全員無事です……神様!」

「外の奴らを急いで……いや回頭急いで船体を盾にさせろ、空に何かいる」

「また何か来やがったのか……?」


 剪定部隊が見上げると、上空では赤と青の光を放つ、二機の巨大な翼を持つドラゴンタイプのハチが争っていた。

 青いハチが連発するホーミングレーザーが敵に反射されて森と大地を貫き、赤いハチの放つ強大な熱線が敵に回避された先で森と海を焼き尽くす。

 炎に包まれた地獄のような戦場で、空に手の届かない剪定部隊は二機の戦闘を観察するしかない。


「あれは……ハチ同士が戦っているのか?」

「ドラゴンタイプって神話の魔王じゃないですか……すごいな」

「くそっなんて奴らだ。俺たちが遠征した理由がキレイさっぱり消し飛ばされちまった」

「明日から期限まで遊んで暮らすか、もっと奥まで伐採に行って特別給与を狙うか……難しい問題だ」


 そんな中、整備班の一人が言う。


「こっちに興味ないみたいだし、今の内にヒアブの脚を修理できるな」

「動力甲冑の修理にも何人か回して下さると助かります」

「どう動くにしても中心はヒアブなんだから甲冑は後でいいだろ! お前も一緒に来い!」

「そんなぁ……流れ弾が来たらどうするんですかぁ」


 今が好機と立て直しに勤しむ剪定部隊の中で、なおも上空の戦闘を警戒していた隊員が声を上げる。


「あのハチ、人が乗ってません?」

「いやまさか…………うん、両方乗ってるな」


 よく見れば、縦横無尽に空を舞うハチの背中にはどちらも全身鎧の戦士が跨っており、相手のハチに銃のようなものを向けて攻撃しているのが見て取れる。

 双眼鏡を覗いて、船長が乗り手の姿を確認する。


「なるほど。青いのは国旗を背負っているからフォルン聖国の騎士だな。赤いのは帝国の硬質装甲を装備しているが、あんなハチは見たことが無いんで協力関係の何処かだろう」

「アレがウチの新兵器って可能性はないんですか?」

「我らが皇帝陛下が、人が乗れるドラゴンのハチなんて夢みたいな兵器を完成まで自慢せずに隠せると思うか?」

「ああ……確かに。負の信頼はありますよね、あのお方」


 各々がこの場で出来る対応に動く中、上空の戦闘に決着。

 赤ハチの体当たりを受けた青ハチの騎手が、バランスを崩して転落したのだ。

 転落した騎手を追った青ハチは、赤ハチの熱線から騎手を守りつつ落下、墜落地点は熱線で爆発を起こす。

 爆炎の周囲をグルリと旋回していた赤ハチだったが、諸国連合の飛行要塞を追いかけるように霧へと消えていった。

 植物も無人機も消し飛んだ焼け野原に残されたのは、脚部を損傷して傾いたヒアブと、青ハチの墜落地点だけであった。

 そこに艦長の無線が響く。


「各員! 聖国ハチの墜落地点へ向かうぞ」

「艦長、聖国は敵陣営の協力国ですよ?」

「この状況で敵も味方もあるか! 騎手が死んでいれば全ての技術を掻っ攫い、生きているようなら手厚く治療して帝国の誠実さを宣伝する広告塔として聖国に送り返すんだ! どっちに転んでも得する楽な仕事だろうが!」

「成る程、本当に敵も味方も関係ない……」


 救援の信号旗を掲げながら接近した隊員たちが見たのは、骨折はしているが命に別状は無さそうな聖国の騎手と、それを守るように包み込むドラゴンタイプの青いハチであった。

 騎手とハチをヒアブに収容してある程度の治療(リョクカの霧が回復薬)も終わった頃には、船体の修理も残りは回収した重力装甲の補強程度になったので、部隊のほぼ全員が格納庫に集められた。

 自己修復を終えたドラゴンタイプ前に聖国の騎手である少女が杖で立ち、状況の説明を始める。


「話は一〇年ほど遡る。当時の教皇様は長引く戦乱を憂いており、戦況を大きく変化させるために、神話にて神の使いが眠ると記された竜の墓所を発掘するという英断を下された」

「神話を理由に全ての竜の墓所の発掘を禁じたのは聖国では?」

「しーっ!」


 重箱のスミをつつく空気の読めない少年の肩を、先輩がギュッと掴んだが話は続く。


「その際に、世界を平和に戻す一助になればと協力を申し出てくれたのは、ライアビリティ商業組合だった」

「フォルン聖国は商業組合を戦乱を呼ぶ邪神の使いとして国内から追放したし、帝国の協力組織との取引には厳罰が課されるはずでは?」

「黙って!」


 いちいち話の腰を折ろうとするガキを、オペレーターが叱りつけて話は続く。


「聖国と商業組合は密接な協力の下で秘密裏に発掘を進め、研究を重ねた結果、ハチを支配する上位者たるハチ、伝説のドラゴンタイプを再び世界に誕生させることに成功したのだ」

「待って、ハチの支配は古代文明を滅ぼした技術だから研究禁止って広めたのは聖国ですよね?」

「誰か! このうるさいガキを放り出せ!」


 艦長命令で追い出されるガキ。話は続く。


「我々は二機のドラゴンタイプをそれぞれ一機ずつ引き取って人類の友としての教育を施したのだ」

「へっへっへ、それは素晴らしいですね! さすが聖国のお方は考えることが洗練されてやがる」

「それもそれで腹立たしい合いの手だが、まあいい。商業組合のドラゴンタイプは騎手を選ばず良く従う良いハチに育ったが、聖国の引き取ったコイツは飛んだじゃじゃ馬に育ってな」


 そういってドラゴンタイプの顔をなでる少女。

 ドラゴンはその手を甘噛みしてブンブンと。


「……まあこんな感じでな。資格のない私では、鎧無しに触れることも出来ない」

「資格ですか」

「ああ。コイツは『アタシに乗るのはカッコいい少年がいいわ。アタシは夏の初めに出会った少年と旅に出るの。旅の中で二人の距離は徐々に近づいていくけれど、夏の終わりに最後の戦いでアタシは敵と相打ちになって。悲しむ少年の前でゆっくりと目を閉じて息絶えるアタシは、彼のひと夏の思い出に深い爪痕を残して消えるの。最高だと思わない?』……と、言っている」

「い、今のは?」

「ドラゴンタイプのハチは、資格無き者を乗せる代わりに、搭乗者を傀儡に変えるんだ。口調は私が軍に入る前の話し方を気に入ってしまっただけなので、深くは考えないでやってほしい」

「口調は忘れますが……では、今の貴方のほうは……大丈夫なんですか?」


 恐る恐ると尋ねる声に、少女は肩をすくめて笑った。


「私はコイツの慈悲でまだ洗脳されていないし、基本的には自由だよ。商業組合のドラゴンタイプはコイツと違って無口で従順で、人を操ったりしない良い子だった。でも本性は違ったようでな。今じゃ向こうの騎手は操られるどころか、すれ違いざまに見えた彼は敵に銃を向けるだけのミイラになってしまっていたよ『あの子は馬鹿みたいに仕事熱心だから、どうせ滅ぼす人間と交流する意味なんて無いと思ってるんじゃないかしら』」

「……その物言いですと、青いドラゴンタイプさんも、最終的には人類を滅ぼすお考えで?」


 誰かの質問にドラゴンタイプは少女の口を介さず、ただ竜の口で嗤った。

 そこに少女が語る。


「少なくとも、今のコイツに人を積極的に害する考えはないと思っていいだろう。先週になって突然反旗を翻した商業組合のドラゴンタイプが考えていることを教えてくれたのは、コイツなんだ」

「その~、それが本当だって証拠とかは……?」

「ない。だが状況はコイツの意見が正しいと示しており、もしもコイツが向こうのドラゴンタイプと示し合わせて我らを謀っているのなら、世界はもうすぐ終わるのだろうな」


 少女の最後の言葉に、世界が終わるという発言にざわつく格納庫内。

 そこに艦長の声が上がった。


「それで結局、あの赤ハチの目的は何なんだ?」


 少女はドラゴンタイプを見る。

 ドラゴンタイプは、再び笑うが少女を見つめ返すだけだった。

 それを確認して、少女が口を開く。


「現在の古代兵器はどちらも自己の破滅を回避することのみを目的にしている、言わば待機状態なのだが、上位のハチは世界樹を使えば全古代兵器への最終命令を指示できるらしい」

「その、最終命令とは?」

「ハチに対しては、総数を維持しようとする安全機構の停止と、後を顧みない全戦力での突撃。これは全世界が団結すれば、どうにか対応できるだろう」

「いや無理では?」

「リョクカに対してはもっと無理でな。最終命令は海水を忌避する安全機構の停止だが、大気中の酸素濃度も指定できるそうだ。ゼロから百パーセントまで」


 一同が沈黙するが、やはり打破するのは艦長。


「なら、君はこんな場所でのんびりしている暇はないんじゃないか?」

「時間はある。リョクカとハチは対人戦闘では協力体制にあるけど、リョクカの全権をハッキングして乗っ取ろうとするドラゴンタイプは世界樹と敵対関係にあるから……世界樹が倒される前に、商業組合のドラゴンタイプを倒せれば」

「世界樹がドラゴンを倒して終わる可能性はないのか?」

「向こうのドラゴンタイプは何かの準備が完了したから動き出したんだ。これで失敗するなら笑い話に終わるが、放置するのは危険すぎる」

「確かに放ってはおけないか……で、その猶予はどれくらいあるんだ?」

「それは……『準備期間が一年あるとして、アタシなら世界樹を折るのに二週間は欲しいかしら』だそうだ」

「なるほど」

「奴を阻止するために、最も機動力のあるコイツと騎手の私が最低限の準備で飛び出した結果が、このザマだ」


 それが少女の語る現状であった。


「あと数日で後続もここに到着するだろう。ここで三日ほど休ませてくれれば、後は私がコイツと共に世界を救うさ」


 艦長は、少女の視線を受けて考えた。

 ヒアブの移動速度、機関の耐久力、世界樹までの距離、聖国の部隊編成、その他諸々。


「一日五百キロ進めれば、一週間で世界樹まで行けるか……?」

「毎日全力稼働での強行軍を、リョクカとハチが許してくれれば、ですね」


 艦長の無謀すぎる計算に誰かが答えた。

 頷く艦長は、その無謀に少しの夢をトッピングして少女を見る。


「でもドラゴンの制圧力でルートを確保してくれれば、この船の速度でも世界樹までたどり着けそうだと思わないか?」

「それはどう言う『確かにこの先はあの子の制御下に入った無人機が全部敵になるから、少しでも奥に休憩場所があるのは助かるかも』……そうか。確かに聖国には森を走れる小型船タイプの移動拠点はないからな」

「ではこの船は君に全面協力するとして、後続を待つも早速進むも君の意見を尊重しよう」

「提案はありがたいが、さすがにそこまで世話になるのは『アタシは気にしないわ』……お前はそうだろうな」

「そうすれば、聖国は我々帝国の助力で世界を救ったとなるわけだ」

「えっ」

「よしっみんなこの娘を逃がすな! 後続の介入まで全力でおもてなしして帝国の素晴らしさと我々の善意を聖国に広めていただくぞ!!」

「えっ?」

「うるさいガキを連れてこい! 性格が悪くても顔はいいからドラゴンさんの副騎手として帝国の救世主に仕立て上げるぞ」

「えっ?『いいわね! あの少年は資格あると思うし声帯ちゃんがサブに格下げね』えっ?『ちょっと真面目に、ごほん、ここからは真剣に勧誘させてもらうぞ』えっ?『あー、あー。おい、もう少し低い声は出せないのか』ムチャ言わないで!?」


 全員乗り気で少女を置いて進められる準備。

 諸先輩方による格納庫の清掃、少女のお化粧、ドラゴンタイプ外装の磨き上げ。

 都合のいい情報だけ教えられて「ハイって言っとけ」と命令されて、整った薄暗い格納庫に引っ立てられる少年に二機の搭乗型がスポットライトを当てる。

 奥で同じようにライトで照らされて待つドラゴンタイプが、少女の声帯を借りる。


『突然ですまないが、少年。私と共に世界を救う気はないか?』

「えーと、僕も彼女みたいに口を操られたりするんですか?」

『悲しいことだがこの子には資格が足りなかったんだ。だが君は違う』

「その資格って、どのような……」

『すまない。それを私の口から告げることは、不可能だ』


 真剣な目で少年を見据える青のドラゴンタイプ。


『だが、信じてほしい。この子を解放するためにも』

「私はこのままでもかま『ちょっと黙っててくれないか』……すまん」


 ドラゴンタイプの頭を撫でながら困ったような微笑みで返答を待つ聖国の少女。

 照明の外では諸先輩方の期待するまなざし。

 少年も手柄を求めているので、実は拒否する気なんて最初からない。

 そんな内心を隠してドラゴンタイプに近寄る少年、一つになる照明。


「分かりました。世界のため、共に戦いましょう!」


 少年の返答と同時にフロア全点灯。歓声。駆け寄る諸先輩方。

 少年の物語が始まる。


 ……が、その前に少年が尋ねた。


「ところで、ドラゴンタイプ出現の前に我々を爆撃しながら通過していった、諸国連合の飛行要塞は何だったんです?」

「そういえば、アイツらもいたな」

「えっ?『えっ?』」


 どうやら知らなかったようで、同時に驚く少女とドラゴンタイプ。

 船長がそれを見て言った。


「なんだ、アンタらも知らないのか? なら諸国連合の最強兵器は何を目的にこんな辺境まで……なあ、これは本当に後続を気にする余裕があるのか?」

「ど、どうなんだろう……?」

「……各員! 発進準備に入れ!」


 赤のドラゴンタイプが状況を攪乱するためにディスコード諸国連合の本部を襲撃してから南大陸に入った事実を、この場にいる誰も知らない。

 赤ドラゴンを見失った怒れる諸国連合が、目標を追い抜いて南大陸に到着していることは赤ドラも気づいていないが、それを見ているこの場の人間は諸国連合の目的を知らない。

 赤ドラを追うフォルン聖国とライアビリティ商業組合の戦艦は、まだどちらも海の上にあり。

 リミテッド帝国は諸国連合の空中要塞が戦場から消えた事実を素直に喜んでいるが、南大陸の情報が伝わるのはこれからである。


 既に状況は全ての関係者が想定外とする方向に転がり始めている。



登場した人物

 少年 主人公。半端に博学。少女とイイ感じになったり英雄になったり

 少女 前任者の騎士。竜の声となり少年と二人乗りしたりするヒロイン

 艦長 みんなを引っ張る

 諸先輩方 にぎやかしとかオペレーターとか


登場したドラゴンタイプのハチ

 青 翼開長一二m。ホーミングレーザー。自分たちが世界に敵対しなくても何億年かすれば全部消えるのに今動く赤が理解できない

 赤 翼開長一五m。熱線が強力。今回は上手くやれる準備をした


登場した国家と勢力

 リミテッド帝国 硬い特化 指導者は愛でられるタイプの人気者

 ディスコード諸国連合 飛ぶ特化 枝が届かないのでリョクカに強い

 神聖フォルン聖国 そこ発掘禁止って君が言ったんだよ

 ライアビリティ商業組合 まさか聖国が何も知らないとか想定してない


登場した兵器

 動力甲冑 パワーアシストをつけた作業着は全部これ。運動会で禁止される程度に普及している。

 五m級搭乗型動力甲冑 市街地じゃ大きすぎるけど、この森で無人機と戦うには程よい大きさ。中盤に追い付いた商業組合の物資で強化イベント。


登場した船舶

 輸送艦ヒアブ 四つの脚で亀みたいに歩く全長三十mの硬い箱。帝国の輸送艦は整備中じゃなけりゃ蛸と鰯を無視して海を泳げる。重力制御中の最高速度は時速八十キロ。

 飛行要塞偉大なる議長閣下 諸国連合の超大型で、ドラゴンごと侵入して暴れられる全長千m以上。次に出会う時は飛行艦隊に護衛されて登場する、巨大儀仗兵や巨獣狩り部隊などまだ見ぬ兵器と愉快なステージギミックが満載の箱。


ハチ(暴走無人機)

 この星を助けたい(近隣の星のように全ての生命を根絶したい)

 協力者を作れる思想ではないので上位種が現れても他勢力に排除され、個の能力と数では最強なのに纏まれなくて勢力として最弱。

 様々な生物を模倣したメカで、自己の初期状態を複製可能。

 長年の現地改修によって型番が同じでも形状や装備、大きさも地域で異なる上に、森の奥で自己改良を繰り返した旧式は元の面影ゼロのモンスターばかり。

 先代の上位ハチがリョクカの弱点に気づき、世界樹を一つ乗っ取ろうと襲撃したら重要拠点から追い出されたので、次は上手くやるために現状維持で和解した。


リョクカ(貪欲な植物)

 この緑の星を守りたい(植物だけあれば他は抜きで景観は守れる)

 植物を改造して迅速な環境改善の一助とする緑化計画で何か不測の事態があって、その影響が世界に広がった。

 リョクカの集合体である世界樹の役割は軌道エレベーターであり、周辺植物の集合的知性も発生するのでコレが人やハチと意思の疎通を図る場合がある。

 現時点で唯一宇宙へと進出して他の惑星から資源を輸送しており、行動は全て植物のためだが結果的に人類が生存できる環境を維持している。

 軌道エレベーターは一基で十分なのに示威行為で乱立してたら世界樹同士で喧嘩すると世界が滅ぶ脆弱性に気づいた。

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