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【完結】前世の男運が最悪で婚約破棄をしたいのに、現れたのは王子様でした?  作者: 月にひにけに
サイドストーリー

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ep. クラウンside

 昔から、人形あそびが好きだった。


 良い家柄に恵まれ、蝶よ花よと育てられ、いつでも自分が1番。無理矢理ねじ込んだ良家との縁を周囲に羨ましがられ、他の夫人を差し置いて侯爵の寵愛を手にする。


 そんな夢物語のお姫様。近からず遠からず、そんなストーリーを想い描いていたであろう世間知らずで愚かな母。


 そんな女が、あんな飼い殺しのような境遇に堪えられないのは、火を見るよりも明らかだった。


 黒魔術師の最たる家門に嫁ぎながら魔法の才はない。学もない。品性や教養も疑わしい。


 教養や学をしっかりと学んだ第一夫人。才は及ばずとも共に学ぶ覚悟で子の教育に奔走するような第二夫人。才を見込まれて嫁いで来た第四夫人たちに、そんな女が勝る面などあるはずがない。


 そんな現実からは目を背け、いつもイライラと使用人に自身の境遇を嘆いては周囲に当たり散らすことしか出来ない哀れな女。


 そしてそんな哀れな女にすら身下げられる哀れな子どもが、僕だった。


「人形遊びばっかり」


 いつだって、ひどく醜悪な顔で見下ろされていた記憶しかない。


 兄弟同士の年齢差があることで一概には言えないが、分かりやすい黒魔法の才や力量は、他の兄弟に敵わなかった。


 僕から贔屓目に見たとしても、第一夫人と第二夫人の長男は、所謂エリートと言われる程に出来が違い、第四夫人の子どもは幼いながら明らかに才が飛び抜けていた。


 どうにもならない現状を打破する一縷の希望。その子どもが女の期待に届くことは敵わず、手も目もかけられずにゴミでも見るかのように扱われた。


 そしてそんな醜悪な女から侯爵が遠のくのは、分かりきったことだった。


 人形遊びが、好きだった。


「気持ち悪い……っ」


 パーツごとに、更にはもっと細かく切り刻んだ溢れんばかりの人形の海。その中で人形に成り切った断末魔の悲鳴を上げる僕を、あの女が見下ろした。


 無感情に見上げた僕の笑みの先で、女が畏れを抱くのを感じた。


 人形遊びが、好きだった。


 人を本質から変えることなど、出来はしない。それこそ圧倒的な恐怖や権力であっても、相手を都合よく本質から反感なく変えることなど不可能だ。


 相手も意志ある人間である限り、不可能だ。不可能。不可能。不可能。不可能。


 ーー本当に?


 人が変わる時はどんな時か。それは自身で()()決めた時だ。正確には、()()()()()()()()()()()()()()()に、人は変わるための行動や努力をする。


 ならば()()決めたと思わせられれば、僕の人形になるのではーー?


 僕の能力は表向き傀儡操作だと思われていたし、僕もそう思っていた。人形を手駒として操る力。使い道も広く便利ではあったが、大したことがないと形容される力。


 命令に忠実に、自動で動く身代わりの傀儡は誰よりも近くで僕を守ってくれる。呪いも凶刃も、僕に届かせはしなかった。


 7を数える頃には、身の回りのことから全てを傀儡に囲ませて、女は元より血の通う全ての人間と距離を絶った。


 人形屋敷で人形に埋もれる僕を気にするものなど、自動で動く人形以外にはいない。


 好都合だった。


 不満、怒り、嫉妬。捌け口が無ければ無い程に、すんでの所にある均衡はささいな事で瓦解する。


 自身の成長と実験の機会を待てば、その時はすぐに訪れた。


 いつにも増して怒り狂う女に、溢れる笑みが堪えられなかった。


 一度は姿を消したはずの遊女を、コブ付きで連れ戻したに飽き足らず、他の高貴な貴族出身の夫人たちと同等の屋敷や護衛まで与えたと来たら、黙っていられる訳がない。


 直ぐに女を追い立てた。真っ向からではなく、たまたま小耳に挟んでしまったというように、女にその立場の危うさを植え付けていく。


 意志のない傀儡を操ることは容易いが、その対象が生き物となると話は別だ。意識のない使用人を利用して、噂を流布させ追い詰める。


 効果は的面、事件は直ぐに起きた。黒魔術師一家の夫人が外部に呪いを依頼するなど笑えたが、小物なりによくやったのだろう。


 1人高揚を隠し切れない女は痛いにも程があった。けれどそれも長くは続かない。


 理由は簡単。哀れな女が手を血で染め上げた所で、侯爵の愛が哀れな女に向けられる訳がないからだ。


 いっそのこと、遊女にうつつを抜かして一族を顧みもしない侯爵を狙った方がまだ救いがあったのではないかとすら思うが、もう遅い。


 女は徐々におかしくなっていった。所詮、自分よりも下の者にしか当たれないような小物では、その重責に耐えられなかったのだと、ボロキレのようなその姿を僕は冷ややかに見下ろす。


 人形遊びが、好きだった。


 次期侯爵の座も、権力も、力も、名声も、命さえも、別に何も要らなかった。


 強いて言うのなら、母というものに守られたあの不遇な子どもと代わってみたかったのかも知れない。


 眼下の女に、一際古くてボロボロのぬいぐるみを放り投げて背を向ける。


 意識のある生き物を操ることは制約も多い上に骨も折れたが、どうでも良かった。


 目的も何もありはしない。あるのはただの暇つぶし。


 さぁ、人形遊びを始めよう。





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