ep. ロデオside
兄が死んだ。
優秀で優しく、完璧な兄は、生きていれば後継者となったはず。そんな兄を溺愛していた母は壊れてしまった。
バレットは魔術師としての適正が弱いことから、捻くれて後継者どころの話ではなくなった。
兄に向かっていた母の執念と言う名の怨念が、全て私にのしかかるのを感じる。
努力を重ねた。出来うる限り、全てを費やした。
私の努力か、母の執念か、後継者の座は他の後継者の脱落によって、私の足元に転がり落ちて来た。
地獄はそこから加速した。
全てを捧げても、兄のようになれるとは到底思えなかった。
魔術師としてはそこそこ実を結んだ。けれど、それだけ。
相手を手玉に取り、自らの利益を勝ち取る。軋轢を最小限に、最大限の利益を得る。
タヌキやキツネばかりの巣窟で、隙を見せることなく優位に立ち回る。
決定的に、向いていなかった。
そして何より、人を惹きつける何かが、私にはなかった。
どこへ行っても、優秀な兄と比べられた。表面上のおべっかの裏で、常に嘲笑われているようだった。
それでも、逃げることは出来ないと、歯を食いしばって耐えた。
耐えていたのに、アレが後継者候補になった。
耳を疑った。
ひどい冗談、ひどい裏切り。足元が崩れ落ちていくようだった。
言いようのない絶望、屈辱、怒り。その裏で、納得できてしまった自分自身に、1番腹が立った。
アレの技量はいとも容易く私を抜いた。貴族でもないくせに、貴族にも遅れを取らない立ち回り。
侮蔑、嘲り、日夜嘲笑が聞こえて来る。
出来損ないの生き残り。私生児にも劣る貴族。
兄の亡霊にも、アレにも勝てず、舐められ、見下され、嘲られて後ろ指を指され、ますます歯車が噛み合わなくなっていく。
嘲りは常に、私の心の闇を代弁するかのように、少しずつ邪悪さを増して行った。
正常なのに正常でない、異常さを抱えたまま揺蕩うように日々を繋ぐ。
アレを排除しろと、耳元で囁く悪魔のような声を聞きながら。




