ep. バレットside
人の目を避けるように、夜の闇を動き続ける。指名手配によって表立っては動けないことから、行動が制限されてやり辛いことこの上なかった。
2つの頭を持つ魔物それぞれに残り少ない肉をやりながら、月あかりの中でぼんやりと考える。
ロデオの死亡は、風の噂で聞いた。
優秀な長男。適当な自分。その間にいたロデオ。
優秀な長男が死んだあの日から、後継者への羨望からただでさえ狂気じみていた母親の狂気が、全てロデオへと向かった。
ロデオは甘ちゃんで、生真面目で、不器用で、弱い。魔術師としての腕はあっても、当主、ましてやヴァーレン家の当主が務まる器でないことは明白だった。
けれど、母の狂気はそれを許さない。
亡き優秀な長男と、家族から他人まで全てにおいて比べられ、真面目が故に擦り切れていくロデオを知っていた。
知っていたし、わかっていながら、巻き込まれたくない故に見ない振りをした。
「代わってやれば……良かった……」
魔物の使役という、ヴァーレン家当主としては正当に認められない力。それ以外に秀でた力がないことで、白羽の矢を免れたことは、同時に不必要と言う烙印と同義だった。
「お前は必要ない。ヴァーレン家の面汚しだ。どこへでも行けばいい」
立て続けに一族の子どもが襲われるようになった頃、ロデオに告げられた。
その言葉が拒絶ではなく解放だと、何となくわかっていた。わかっていたのに、気づかないフリをして逃げた。
「助けてくれって、そう言えば良かったんだ。2人なら、亡霊に勝てたかも知れないのにーー……」
肉の取り分で不穏な空気を漂わす魔物を宥めながら、バレットはその体毛に顔を埋めた。
「ーー違う……俺が逃げ続けてたから、アイツが俺を頼れなかっただけだ……」
安全圏から、全部押しつけて時折り気にかけたふりをしていただけ。
「まさかお前に助けられるとは思わなかった」
「アンタらしくないことしてんな」
「そうかな」
「そうだろ。昔から生真面目だけが取り柄なんだから」
「ーーもう、疲れたんだ。聴こえてくる声にーー……」
様子を伺う2つの頭を荒く撫でて、腹を決めた。
「悪いな、美味い肉、しばらく食わせてやれないかも知れない」
2対の瞳が、俺を見る。
「アイツには逃して貰った恩があるからさ、骨……拾ってやりたいんだ。……付き合ってくれるか?」
伺い聞いた問いに返事をするように、両の頬を少し生臭い、ザラリとした舌で舐められた。




