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【完結】前世の男運が最悪で婚約破棄をしたいのに、現れたのは王子様でした?  作者: 月にひにけに
第一章 婚約相手は王子様?

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13.魔法と魔術と呪いと

「あー、多分それはガチ呪いでないか?」


「ガ……ガチ呪い……ですか?」


「シルフィア先生、生徒に対して何て言葉づかいですか」


「あー……外に行こうかルーウェン令嬢」


 淑女学校の教職員室の一角。雑多に積まれた書類に埋もれたシルフィア先生の机をチラ見しつつ、思わず言われた言葉を復唱する。


 遠くからは耳ざとくシルフィア先生の言葉づかいを聞きつけた副校長が、分厚い眼鏡を押し上げながら苦言を呈している。そちらを見もせず、シルフィア先生は面倒くさそうに教職員室の出口を私に促した。


 シルフィア先生は淑女学校の白魔術関連を専門としている30歳ほどの女性教師だ。ふんわりとパーマがかかった濃い茶髪を肩ほどのラインで全体的に短く揃え、甘くていい香りを周囲に漂わせている。


 先ほどからこちらを睨み付け、小言を言い続けているおばあちゃん副校長の指示か、いつも地味めな白いブラウスに、スリットの入った黒のロングスカートを身に着けている。が、同性としても羨ましいメリハリのある豊満な体型は、清楚な教師からは縁遠い色気を醸し続けていた。


「立ち話で悪いね。あの副校長うるさくて話も出来やしないよ」


「あ、いえ、こちらこそお時間頂いてありがとうございます」


 慌ててぺこりと頭を下げるも舌打ちが聞こえ、そろりと様子を伺う。教職員室の副校長がいたあたりをバッチリ化粧で睨み付けるシルフィア先生は、ふんと鼻をならす方が忙しそうな様子だ。


 貴族令嬢を教育する淑女学校という空間で、学校側からするとシルフィア先生は中々に異端児なのであろうと普段から感じる。正直その言動や見た目はほかの教師とは異質だ。とはいえその美貌とスタイルから数少ない男性教師陣からの人気は熱烈であり、表裏のない新鮮な態度などで生徒からの人気もそこそこ高かったりする。


「こんがらがっていそうだから、話を一回整理させてもらうよ。よく混同されやすいんだが()()()()の違いはわかってるか? ルーウェン令嬢」


 よく教員試験に受かったな……。とかぼんやりと考えていたところで急に本題に戻り、慌てて質問されたことに考えを巡らせる。


「えと、魔法は火や水など自然的な事象を魔力で操り、魔術は道具などで呪いや召喚を行う……とかですかね?」


「まぁ大まかに言えばそんな感じだが、もっと根本的に違うことがあるよ」


 魔法と魔術の違いなど考えたこともなく、言うなれば読み方を変えただけくらいに思っていた。


「簡単なことだ。魔法はその才がある者しか操ることはできないが、魔術は下手をすればどんな者でも行使が可能な()()ということだ」


 うーんと二の句が継げない私を見かね、シルフィア先生はさっくりと解説する。


「……誰でも……」


 シンプルで明快なシルフィア先生の言葉に猛烈に頭を打たれた気がした。


 昨日から黒魔術の本を大量に読んでいる中でごちゃごちゃしていたが、誰でも行使できるのが魔術であるのならば、私でも呪いを解くことができるということであろうか。


「ここら辺をはき違えているとそのうち試験で痛い目みるから、しっかり認識し直しときな。とはいえ魔術の歴史の中でも黒魔術はさらに深く混沌としていて、底が見えない分野だ。中途半端に首を突っ込むものではないよ」


 ぱぁぁぁと晴れた心を察知しているかのごとく、ぴしゃりとシルフィア先生は言い放つ。湧いた希望は一瞬で叩き潰された気がした。


「話を戻すけど、黒魔術の中で”呪い”はその中核だ。第三者が呪いを宿らせた道具――魔具を使うものは比較的初心者向け。その魔具そのものを作ったり、道具や魔方陣などの媒体を介して自ら呪うのが中級。悪魔的な異界の者を呼び寄せるのが上級と一般的にはこんな感じで分けられる。呪いの内容によって、難易度もピンキリだから一概には言えないが、だいたいはこう思っておけば目安にはなる」


 ふむふむとシルフィア先生に聞いた話を手帳に走り書く。勉強熱心な生徒は好ましいのか、最初よりも話し易い空気を感じる気もする。


「ーーそれを踏まえて、呪いを解きたい場合、白魔法の場合はその力量がモノを言う。どんなに初級の呪いでも、対象の呪いに対する魔法の会得と、その呪いを上回る力量が無ければ解くことはできない。しかし、白魔術ならその力関係をひっくり返すことができる場合もある」


「……つまり、魔術の方が何かと便利ですよね。誰でも使えて、本来なら力の及ばない呪いとかにも効果を発揮できると言うことですから」


「簡単に言えばそうだが、勿論デメリットもある。黒にしろ白にしろ、魔術は基本的に金銭的負担が大きい。魔法は一度覚えれば本人の魔力が枯渇しない限り好きなだけ使用できるから、一度覚えてしまえば無尽蔵だ」


「なるほど……」


 同じ効果なのに、その都度費用が発生する魔術。対して自身の修練で一度習得した後は、休息で回復する魔力がある限り無尽蔵な魔法。魔法の使い手が重宝される訳である。


「そしてもう一つ。自身で発動した魔法は自身で発動を取り消せるが、魔術は発動した後はどうにもならない」


「……どうにもならない?」


 私は思わず、シルフィア先生の言葉を繰り返した。

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