~七章~
初投稿作品となります。
更新速度、文章、内容等至らぬ部分はあるかと思いますが
温かい目で見守って下されば幸いです。
コメント等励みとなりますので
宜しくお願い致します。
駅前の本屋はテナントビルの一階から三階を使用しており、
雑誌や漫画、参考書など多種多様な書籍を始め、
文房具や事務用品なんかも取り揃えている何かと便利なお店で
会社勤めの時は何かとよく利用していた。
最近では三階の一角にコーヒースタンドスペースも増設され、
若いOLがお茶をしていたり、
大学生が参考書を片手に勉強に勤しんでいる姿も見て取れる様になっていた。
俺はというとこの手のコーヒースタンドに食わず嫌い的な苦手意識があり、
利用したことはないが、内心寄ってみたい気持ちはかなりあったが
一人で入る勇気も無く、遠目に観察するのみだった。
「ここは何の店だ?」
「本屋だよ。本がいっぱいあるでしょ」
「これが人間の本か……」
「妖怪の世界って本無いの?」
「書物はある。だが黒丸は巻物や竹簡しか見たことがない」
巻物って……やっぱ文化が古めなんだな……。
「じゃあ、こうゆうのも無い?」
俺は入口近くに陳列されていた女性向けのファッション雑誌を手に取り
答えの分かり切った質問をしてみた。
彼女の反応を見たかったからだ。
「これは……なんだ?人が写っている……」
「女の子向けのおしゃれを紹介してる本だよ。
人間の女の子はこうゆうのでおしゃれを学ぶんだ」
「おしゃれ……」
「服装とかお化粧の事だよ」
「服装!確かに人間はみんな変わった格好をしているな!」
黒丸のテンションが思った以上に上がったのに
俺は少し面食らっていた。
おしゃれに興味があるのか……。
やっぱり女の子なんだなぁ。
「服に興味があるの?」
「そんな……ことは……ない……。
だが、人間に紛れる為にも人間の見た目を学ぶことは大切だ!
だから……気になっただけで……別にその……」
もじもじしながら虚勢を張る彼女を見て不覚にもドキッとしてしまった。
いや、こんな見た目だが90歳だぞ……。
年長者には敬意を持たなければ……。
「気になるなら色々見てみたら?
他にも似たような雑誌がいっぱいあるからさ」
「そうだな!!……あっ……いや、あくまでも……勉強の為だから……」
「俺は上の階に用があるから終わったらまた声かけるよ」
「分かった」
そう言って俺は上の階へ続く階段へ歩き出した。
彼女の様子を見たくてすぐ振り返るとすでに同じ場所に姿は無く、
隣の棚の前で目を輝かせながら雑誌の表紙を眺めていた。
なるべくゆっくり用事を済まそうと思った。
文具は二階で取り扱われていた。
最新の文具から昔から使われている有名文具まで
老若男女を対象とした豊富な品ぞろえがここのウリらしい。
正直文具にさほどこだわりもなく、興味も薄い俺は
目的の便箋、封筒、筆ペン、履歴書を手に取って早々に文具コーナーを離れ、
三階へと向かった。
俺にとってはこの本屋で一番興味のある階層はここだ。
元よりオタク気質のある俺にとって
漫画や文庫本が所せましと並ぶこの三階は
テーマパーク並みにテンションが上がる空間だった。
社会人になり、第一線を離れたとは言え
最新の漫画や小説の動向はなるべくチェックしているし
気になる物があれば手に取る様にもしている。
最近はweb版もかなり便利になり、俺も愛用しているが
紙には紙の良さがあるものだ。
とはいえ、保管場所の制限がある以上気軽に買い集める訳にもいかないのは
つらい所だった。
新発売の漫画を一通りチェックした後、気に入っている出版社順に棚を見て行く。
今回は現在進行形で追っている漫画の最新刊一冊のみ購入することにした。
大分時間も使っただろうと思いながら二階への階段へと向かうと
コーヒースタンドコーナーの前で
眉にしわを寄せながらメニュー表を凝視する黒丸がいた。
両手で一冊の雑誌を大事そうに抱きかかえている。
無視するわけにもいかないのでこちらから声をかけることにした。
「どうしたの?」
「カンザキ、これは何だ?」
黒丸はメニュー表の一角を指さす。
そこには季節限定の見てからに甘そうで女子ウケしそうな飲み物が写っていた。
「流行りの飲み物だよ。……飲みたいの?」
「いやっ、そんなことはないけど……。
……人間はこうゆうのを好んで飲むのか?」
「人によると思うけど、若い子はよく飲んでるんじゃないかなぁ」
「そうなのか……」
初めの頃のポーカーフェイスとは打って変わり
怒られた後の子犬の様な分かりやすい顔で葛藤する彼女を見て
流石に情が湧いてしまった。
「分かった。入ろうか。商品の会計を済ませてからじゃないと入れないから少し待っててくれる?」
ぱあっと晴れるような表情を見せる彼女は年頃の人間の少女そのものだった。
「分かった!あ……これも持って入ったらダメなのか?」
黒丸は抱きかかえていた雑誌を俺に見せて、また不安そうな顔をした。
「そりゃ、お会計済ませてからじゃないと」
「そうなのか……」
「お金あるの?」
「……ない」
「……分かったよ。それも買ってあげる」
「いいのか?」
「今回だけね」
「カンザキ、ありがとう!」
満面の笑みでの感謝は俺の胸にとてつもない衝撃を与えた。
やばい……これは癖になりそうだ……。
これは、繰り返してはいけない……ダメ、絶対。
俺は雑誌を受け取り、階段近くのレジで手早く会計を済ませると
コーヒースタンドの前で待つ彼女の元へと急いで戻った。