~六章~
初投稿作品となります。
更新速度、文章、内容等至らぬ部分はあるかと思いますが
温かい目で見守って下されば幸いです。
コメント等励みとなりますので
宜しくお願い致します。
俺たちは駅に向かって歩いている。
あれ以降会話は無く、ただ気まずさだけが俺の心を支配していた。
正直この少女に聞きたいことは山ほどある。
だが、会話が上手く成立しなかったら……怖すぎる。
昔からそうだ。
俺は昔から女性に話しかけるのがこの上なく苦手だった。
何を言ったら喜ばれて、何を言ったら嫌われるのか
このラインの見極めが分からず、いつも言葉が出てこない。
その為、基本的には女性と深く関わらないよう心掛けて生きてきたし
関わるとしても事前に脳内シミュレーションを十分に重ね、
準備を整えてから会話を行うようにしてきた。
つまり、こんな予想もしていなかった状況は予行練習もしていないわけで
会話なんて出来るはずもないのだ。
とはいえ気まずい。非常に気まずい。
女性と並んで歩いている上、相手は恐らく年下に見える。
この組み合わせが周りからどう思われているかも気になってしまう。
……ん?年下?
彼女の事を見た目の幼さから勝手に年下で人間で言うとこの高校生くらいだろうと
思い込んでいるが、実際はいくつなのだろう?
意外と見た目以上にいっているのかもしれない。
ましてや相手は妖怪だ。
下手をすれば俺より上なんじゃなかろうか?
それなりに敬う必要があるのかもしれない。
しかし、いきなり敬うように接した結果、
見た目通りに年下だった場合、イヤミっぽくなってしまう……。
やはりここは今のうちにはっきりさせておいた方がいいのではなかろうか?
いや、でもなんて聞けばいい?
いきなり『御歳はいくつですか?』と女性に聞くのは失礼な気がする。
女性に年齢の話題はタブーだとテレビでもやっていた。
だとするとなんて聞けば年齢が分かるのだ?
……そうだ!小さい時の出来事を聞けばいい!!
小さいころ何があったかを聞いて、会話の流れでその時いくつだったかを聞ければ
逆算して大体の年齢が分かるではないか!
これなら直接年齢を聞くわけじゃないから失礼にもならないはずだ!
世紀の大発見に俺は少し興奮していた。
「あのさ、黒丸ちゃんが小さい時、日本で何があったか覚えてる?」
「……なんでそんなこと知りたい?」
まさかの返しだった。
俺は自分の頭から血の気が引く音が聞こえた気がした。
冷静に考えればその通りだ。
話の流れで聞くならまだしも
いきなり過去の事を聞かれても『なんの詮索だ?』と疑うのはもっともだ。
今更自分が混乱のあまりおかしな思考を巡らせていた事に気が付いた。
「いや、その……特に理由はないんだけど……」
取り繕うことも出来なかった……。
「黒丸が幼いころはまだ日本は荒れていた頃だった。
その頃は天狗達も人間の層には行かないようにしていたようだ」
荒れていた?
昔、荒れていたというと不良文化が盛んだったころか?
スケ〇刑事とかビー〇ップハイスクールとかの頃?
だとしたら俺の親世代くらいの年にならないか……?
やはり妖怪は見た目じゃ分からないんだな……。
てか、わざわざ来ないようにしていたなんて妖怪はヤンキーが怖いのか……。
気持ちは分かるがなんか意外だな。
「どう荒れてたの?」
「黒丸も詳しくは知らない。
だが、人間に紛れて活動していた妖怪もかなり巻き込まれたと聞いた」
「今でも怖いもんね……」
「巻き込まれた妖怪の中には人間と一緒に死んでしまった者もいる。
人間は愚かだ」
「死んだ!?」
俺も親からその時代の事はよく聞いていたが
人が殺されるような時代だったか……?
「妖怪もいっぱい死んだんだ……」
「いっぱい……?」
ここで俺は若干話が嚙み合っていない事に気が付いた。
「あの……なんでいっぱい死んだの?」
「カンザキは歴史を学んでいないのか?
人間同士で争いをして日本でも沢山人間が死んだのだろう?」
争い?もしかして……戦争の話をしているのか?
だとしたら太平洋戦争だとしても80年も前の話だぞ?
黒丸ちゃん祖父母より年上ってことにならないか?
妖怪って、そんなに生きるの……?
「……黒丸ちゃんって、何歳?」
「なんだ急に。黒丸は大体90年くらい生きている」
「90歳!?」
「天狗の中ではまだまだ若い方だ。基本的に妖怪は長寿な者が多いが、
中でも天狗は特に長生きなんだ」
「ってことは僧正坊の爺さんは……?」
「僧正様の御歳を詳しくは知らないが、
確か、義経記という人間の書物に書かれているのは自分だと自慢されていた。
その頃は鬼一と名乗られていたそうだ」
ちょっと待て、義経記は知っている。
俺は歴史に強いんだ。確かゲームで見たことがある。
義経記は源義経について書かれた伝記のはずだから、
それが本当だとしたら源平合戦の頃には生きていた事になる。
800年以上も前だぞ……。
しかも、鬼一って義経の師匠的な人じゃなかったっけ?
「爺さんってもしかして相当すごい天狗だったりする……?」
「僧正様は日本中の天狗をまとめておられる方だ。偉いに決まっている」
「あの爺さんってそんなにすごい天狗なんだ……」
今度爺さんに会ったら直接聞いてみよう。
とんでもないことが分かるかもしれない。
正直話の内容が衝撃的過ぎて、当初の出かける目的などどうでもよくなっていたが
我々は目的地である駅前の本屋に到着した。