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荒神既に帰す  作者: 王圏 庵
5/7

~五章~

初投稿作品となります。

更新速度、文章、内容等至らぬ部分はあるかと思いますが

温かい目で見守って下されば幸いです。

コメント等励みとなりますので

宜しくお願い致します。

僧正坊の爺さん達に協力することとなったが、

今すぐ何かあるというわけでは無い様で

後日また会いに来ると言い残し、二人は去っていった。

俺は一気に緊張の糸が切れ、その場で脱力してしまった。

公園には西日が差し込み、辺りには帰り道を急ぐ人影が見える。

思えば朝から異常な日だ。

会社で濡れ衣を着せられ、頭に来て上司に告訴するも裏目に出て即刻クビになり、

途方に暮れていると謎の化物に襲われかけて、天狗と協力する羽目になった。

今日の事を腑に落とすだけでも時間が必要そうなのに

今後の課題も山積みになっている。

とりあえず再就職か……。

今後も怪物と関わることになるのだろうか……。

妖怪の手助けとは何をさせられるのだろうか……。

……とりあえず、考えるのを止めることにした。


日も沈み始めたので夕飯を調達して帰路についた。

少しでも自分を励まそうとコンビニで寿司とビールを買った。

いつもはがっつりとした肉系の弁当を好んで買うのだが、

あんなことがあった後で肉を食べる気にならなかった。

ビールは下戸なので普段なら絶対に飲まないが、

酒の力でも借りないと眠れそうにない気がしたので一応買った。

玄関を開けると一人暮らしのワンルームの静けさがいつもより少し怖く感じた。

しかし、自分の部屋への安心感からかどっと疲れが出た。

ゾンビの様な足取りで着替えもせずにベッドに倒れこみそのまま眠ってしまった。


ピピピピ、ピピピピ……

アラームの音で飛び起きた。

携帯の画面には8:30と書いてある。

寝ぼけてスヌーズを5回もスルーしている!!

俺は慌てて飛び起きた。

顔を洗おうと洗面台の鏡を見て自分がスーツを気ままなことに気づき、

今日から会社へ行く必要がない事を思い出した。


「そっか……俺、クビになったんだよな……」


ふらふらとベッドに戻り、横になった。

寝直す気分でもない為横になったまま携帯を弄ってみたが、

特に用事もなくすぐに起き上がった。

とりあえずスーツのままでは気持ちが悪かったので部屋着に着替え、

昨日買った寿司を食べることにした。

せっかくなのでビールを開けるかどうか迷ったが、朝から酒を入れるのもどうかと思い

冷蔵庫にしまっておいた。

朝食を済ませた後、テレビをつけた。

いつもなら見ることのない時間帯のニュース番組はすごく新鮮な感じがして

若干の背徳感があった。

グルメ特集の後、昨日の出来事が報道された。

画面には上空からの映像であの公園が映し出され、


「昨日、市内で突如として強い竜巻が発生し、

 公園の周辺に植えられていた樹木が数本折れるなどの被害が発生しました。

 今のところ近隣住民への被害はないとの事です」


と、アナウンサーが原稿を読み上げていた。

その後視聴者提供の文字と共に竜巻の映像が流れ、

中の様子が確認出来ない程の竜巻の様子に

スタジオのタレントなどが驚いた様子を見せ、

専門家が竜巻のメカニズムを解説していたが、

俺は、まさか中で化物退治が行われているとは誰も思ってもいないだろうなと

呑気に画面を見つめていた。

専門家は特集の最後に


「あれだけの規模の竜巻で住人に被害が出なかったのが幸いですね」


と締めくくった。

その時、昨日僧正坊が言っていたことが頭をよぎった。

『おぬしら人間が言う天災のほとんどは層を抜け出した怪物によるものじゃ。』

それが本当なら黒丸がパズズを倒していなければどれだけの被害になっていたのだろう……。

20年前の震災も怪物が原因だとしたら、なぜ討伐されなかったのだろう……。

被害が出る前に討伐されていれば父さんと母さんは……。

そう思ったとたんとてつもなくやるせない気持ちになると共に

誰に対するでもない怒りが湧いた。

討伐出来なかった何か理由でもあったのだろうか?

僧正坊達以外に討伐をする妖怪はいないのだろうか?

あの時人間の協力者が必要だったんじゃなかろうか?

ふと、20年前何も出来ずに立ち尽くして泣いていた自分と

昨日、恐怖で動くことも出来なかった自分が重なった。

途端に自分の無力さに嫌気が差した。

また、今後同じことが起こった時に自分は責任を感じずにいられるだろうか?

そんな不安にも駆られた。


考えれば考えるほど落ち込むので外に出ることにした。

退職届を書くための一式と再就職の為の履歴書を用意しなければならない。

俺はとりあえず本屋に向かうことにした。


本屋は駅前にある為、昨日の公園の前を通る。

公園の一部にはカラーコーンが立てられ、倒壊した樹木に近づけないようになっていた。

ニュースで取り上げられていたこともあり、数人の人だかりが出来ていた。

その中に見覚えのある後ろ姿を見つけた。

服装は昨日と打って変わりシンプルなTシャツに短パン姿だったが、

腰まである長い黒髪は群衆の中でもひと際目立って見えた。

場違いな存在に俺は思わず声をかけた。


「黒丸……ちゃん?」


少女は呼ばれるのが分かっていたかのように振り返り、

こちらの姿を確認すると声を発した。


「カンザキ、調子はどうだ?」


相変わらず感情の分からない声色だが

心配をしてくれているような質問に少し驚いた。


「大丈夫だよ。おかげで何ともない。

 それより、なんでここに?」


質問に答える為か黒丸が人気の少ない方へ移動をする素振りを見せたので

それに従った。


「怪物は災厄を起こした時に痕跡を残すことがある。

 それを確認しに来た」

「痕跡?」

「自らが引き起こした災厄か分かるようにする為だ」

「動物のナワバリ争い的な?」

「似たようなものだ。だが、今回は無かった」

「もし、あったとしたらどうするの?」

「消さなければならない。普通の人間は気づくことはないが、

 カンザキの様に特別な奴なら気づく可能性がある」


事情を知らない人間が気づくと不味いって事か……。


「あと、カンザキの様子も見に来た」

「……意外と優しいんだね」

「いや、僧正様に行けと言われたから」


なんだ……爺さんのお使いか……。


「カンザキはどこかに行くのか?」

「あー、必要なものを買いに行こうかと……」

「そうか。なら黒丸も行こう」

「はい?」


え……?来るの?


「なんだ?不満か?」

「いや……いいけど……」


少女は無表情に俺との並走を続けた。

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