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荒神既に帰す  作者: 王圏 庵
4/7

~四章~

初投稿作品となります。

更新速度、文章、内容等至らぬ部分はあるかと思いますが

温かい目で見守って下されば幸いです。

コメント等励みとなりますので

宜しくお願い致します。

パズズが打ち取られ、

俺はベンチで僧正坊と名乗る老人と隣同士で座っていた。

黒丸という少女は少し離れた所に立っている。


「さて、儂等が何者かじゃが……先にお前さんについて教えてはくれんか?

 儂等も誰構わずものを話すわけにもいかんでのぅ」

「俺の事……ですか?」

「うむ。おぬしはどうして竜巻の中におったのじゃ?」

「分かりません……。気が付いたら周りを囲まれていて」

「そうか……。おぬしの縁戚に何か不思議な力を持ったものはおるか?」

「不思議な力って?」

「こう、予知が出来るとか、霊体が見える者はおったか?」


親や親戚でそんな話は聞いたことがない。

俺が感じる事もみな半信半疑で笑い話程度に聞いていたくらいだ。


「親戚にはいないと思います。ただ、俺が少し感じるくらいで……」

「感じる?見えはしないのか?」

「見えたことはありません。……今日以外は」

「なるほどのぅ。迷い込んだ訳ではなさそうじゃのぅ」

「迷い込む……」

「先ほどの竜巻はパズズの領域じゃ。そういった領域に入るにはそれなりの資格が要るのじゃよ」

「資格?俺にその資格が?」

「もしかすると知らぬ所で繋がっとるのかもしれんのぅ」

「繋がる?」

「かつては人間にもその資格の力を持つ者はそれなりにおったのじゃ。

 そういった者と血の繋がりがあれば、突然力が目覚める者も出るかもしれん」

「じゃあ俺の先祖にその力を持った人が居たってことですか?」

「それは調べれば分かる事じゃ。意外と有名人かもしれんぞ?ほっほっほ」


老人はいたずらっぽく笑った。


「おぬしが資格があるのが分かった所で儂等が何なのかを教えてやろうかのぅ。

 儂等は何じゃと思う?」

「天狗と……」


俺は少女をちらっと見た。


「天狗と天狗じゃよ。正確には黒丸は烏天狗じゃがな」

「からすてんぐ?」

「我ら天狗に準ずる者達じゃ」


準ずる……手下みたいなものか?

同じ天狗でも階級があるのか……。

そう思い、再度横目に少女の姿を盗み見た。

少女はしきりに周りをキョロキョロと見まわしている。

何か警戒でもしているのだろうか……。


「烏天狗だから姿が違うのですか?」

「うむ、本来烏天狗は名の通り烏の様な頭をしておる。

 だが、最近の若いのはどうもその姿が気に入らんようでのぅ。

 黒丸も常に姿を変えておる」

「姿を変えられるんですか?」

「左様。このようにな」


そう言って僧正坊は顔を幅広の袖で隠したかと思ったら

すぐに腕を下した。

するといつの間にか僧正坊の顔からは赤みが消え、鼻も普通になっている。


「我らの様な存在は妖怪と呼ばれておる」

「妖怪って……のっぺらぼうとかトイレの花子さんみたいな?」

「うむ。のっぺらぼうは我らと同じ妖怪じゃが、花子さんはただの都市伝説じゃな」

「……都市伝説?」

「つまりのっぺらぼうはどこかにおるが、花子さんは作り話という事じゃよ」

「のっぺらぼうって居るんですか?」

「おるぞ。しかし人間とは違う層で生きておる故会うことはないじゃろうな」

「違う層?」

現世うつしよにはいくつか層がある。

 妖怪の層、怪物の層、そして人間の層といったようにのぅ」

「怪物?」

「さっきのパズズの様なもの達を怪物と呼んでおる。

 妖怪は自らの意思を持ち戒律を守りながら存在しておるが、

 怪物は自らの本能の赴くままに行動をし、妖怪や人を襲うこともある」

「人を襲う……。でも層が違うはずでは?」

「力を持つものは層を超えることが出来る。

 妖怪の中には自らの意思で層を超える者がおるが、怪物はそうはいかん。

 しかし、たまに理を破り層を抜け出す者がおる」

「ってことは怪物が他にも人間の層にいるってことですか?」

「左様。しかし、普通の人間には怪物の姿は見えん」

「姿も見えないものに襲われるんですか?」

「姿は見えんがやつらはその力で回りに影響を及ぼす。先ほどの竜巻の様にのぅ」


あの竜巻はパズズが出したものだったのか……。


「おぬしら人間が言う天災のほとんどは層を抜け出した怪物によるものじゃ。

 規模が大きければ大きいほど力の強い怪物によるものという事になる」

「天災が……怪物によるもの……」


その時俺は20年前に起こった大震災を思い出した。

俺の最も嫌な記憶だった。


20年前、当時俺が家族と共に住んでいた地域で大きな地震が起こった。

その地震によって引き起こされた津波によって

俺等の両親は命を落とした。

当時5歳だった俺は何が起こったのかさえ理解が出来ないまま保護され、

母方の親戚の元に預けられた。

後に聞いた話では両親は役所勤めで避難の案内をしている最中に津波に流されたらしい。

二人揃って、同じ場所で。


「天災で何かあったようじゃのぅ」


僧正坊は俺の表情からすべてを読み取っているようだった。


「……20年前の震災で親を失いました」

「そうか……。あの震災に関わっておるのか……」

「……あの震災も怪物によるものですか?」

「うむ……」


僧正坊は口をつぐんだ。

話し始めて初めての事だった。

その様子に俺はそれ以上聞くことが出来なかった。


「……これも縁なのかもしれん……。

 おぬし、名は?」

「簾です。神崎簾」

「カンザキ……。神を割く……か。面白いのぅ。

 簾よ。儂等に力を貸さんか?」

「力を?」

「儂等は層を出た怪物を討伐して回っておるのじゃが、

 我らの様な妖怪が人間に溶け込み生活するのは難儀なことが多くてのぅ。

 人は寿命が短い分世の流れが速くてついて行けんのじゃ。

 黒丸も人の街に慣れておらぬしのぅ。

 故におぬしの様な人間の助けが欲しいのじゃ」

「なるほど……。」

「……もし力を貸してくれるのであれば、20年前の震災について儂が知っておる事を教えてやろう」

「震災について……」


親が巻き込まれた震災に原因があるのだとしたら知りたいとは思う。

しかし知った所で何だというのだろうか……。

そもそもあの震災を引き起こした怪物はまだ存在しているのだろか?

もし居たとしても敵討ちをしてやろうなんて思えない。

むしろそんなこと不可能だ。あんな化物に人間がかなうはずがない。

それならいっそ知らなくても……。


「ちなみに断ってくれてもよい。

 その時は今の話を全て忘れて貰うがのぅ」

「忘れるって、どうやって?」

「それは儂も記憶を消したことがない故分からん。

 色々と試してみるしかないのぅ」


なんだそれ怖い……。

実質拒否権なんてない様なもんじゃないか。

さてはこの爺さん最初からそのつもりで話したな……。


「わかりました。協力します」

「おぬしならそう言ってくれると思ったぞ」

「でも一つ条件があります。怪物対峙はあなた方だけでやってください。

 人間がかなう相手ではないので」

「ふむ……。まあよかろう。そのうち考えも変わるかもしれんでな」


変わるわけないだろ。

あんな怖い思いは二度とごめんだ。


「では改めて、簾よよろしく頼むのぅ」

「よろしくお願いします」

「ほれ、黒丸も何か言わんか」


少女の方に顔を向けると

少女の目はまっすぐこちらを見ていた。


「烏天狗黒丸です。よろしく」


その表情と声からは感情を全く読み取れなかったが

沈み始めた夕日に照らされた彼女の髪はひと際黒く

まるで人形のようだと思った。

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