伯爵家子息は公爵家令嬢をゲットする
新作を投稿します。
かなりご都合主義の話ですが、読んでもらえたら大変嬉しいです。
「ハイチ殿下がルネビア嬢との婚約を破棄をしようとしています」
私はシャド伯爵家三男クロカゲ。
実は皇家の影である。
第一皇子ハイチが男爵家令嬢と深い仲だという噂が流れたので、調査と監視をしていたら、どうやら婚約破棄を目論んでいるみたいだった。
「お前でも冗談を言うのだな」
「冗談ではありません」
「いくらハイチでもそんな愚行は犯さないだろう」
その事を皇帝に報告したのだが、全く信じなかったので、私は多少ムカついた。
「それならハイチ殿下が婚約破棄をするか、しないか賭けをしませんか」
意趣返しとして賭けを持ち掛けた。
「賭けだと。面白い」
「賭けの報酬は私とルネビア嬢の婚約で良いです」
「ルネビアとの婚約だと。それは駄目だ」
「陛下の報酬は精力剤と増毛剤一年分です」
「・・・・良かろう」
「それでは賭けは成立ですね」
皇帝はあっさりと了承してしまい、賭けは成立した。
「私はルネビアとの婚約を破棄する」
第二皇子アガルの誕生日パーティーでハイチが婚約者のルネビアとの婚約を破棄すると宣言した。
「理由は真実の愛に目覚めたからだ」
理由は真実の愛とかいう、馬鹿馬鹿しい内容だった。
「そしてフレアと新たに婚約を結ぶ」
そしてフレアと新たに婚約を結ぶという戯れ言を吐いた。
「ハイチ様、嬉しい」
ハイチの隣に居た桃色髪の少女が歓喜に満ちた表情でハイチに抱き付いた。
あちゃ~、本当に婚約破棄しちゃたよ。
でも賭けは私の勝ちだな。
クロカゲは呆れると同時に歓喜した。
愚弟め、やらかしおったな。
ラストは大きな溜め息を付いた。
ルネビア嬢との婚約を破棄するなんて、兄上は何を考えているんだ。
アガルは呆れてしまい、冷たい眼差しでハイチを見つめた。
「あの恥知らずな令嬢は誰なの」
「確かボツラ男爵家のフレア嬢だ」
「公爵家令嬢との婚約を破棄して男爵家令嬢と婚約するなんて、ご乱心なされたのかしら」
「皇子にあるまじき失態だな」
「これで皇太子は第二皇子のアガル殿下に決定したな」
「それはどうかな。第一皇女のラスト殿下かもしれないぞ」
「どちらにしてもラバン公爵家次第だな」
「おそらくラバン公爵家はハイチ殿下を支持する派閥からは撤退するだろうしな」
「そもそもラバン公爵家が後ろ楯だったから皇太子レースに参加出来ていたのにな」
「我々もハイチ殿下を支持する派閥からは抜けよう」
「泥舟なんかに乗っていられない」
周囲の反応は冷やかだったが、自分達に酔いしれる二人は気付かなかった。
「ルネビア、お前はフレアに数々の嫌がらせをしただろう」
更にルネビアがフレアに嫌がらせをしたと戯れ言を吐いた。
「私は嫌がらせなど行っておりません。そもそもボツラ男爵家令嬢とは初対面です」
「デタラメを言うな」
「嘘です。素直に罪を認めて下さい」
ルネビアが否定しても、ハイチはフレアは聞く耳を持たなかった。
「ハイチ殿下、発言をお許し下さい」
「クロカゲ様」
「何だ貴様は」
「シャド伯爵家三男クロカゲと申します」
「シャド伯爵家の者か。良かろう。発言を許す」
唐突にクロカゲが発言を求めてきたので、ハイチは取り敢えず発言を許可した。
シャド伯爵家は皇帝のお気に入りだったからだ。
「ありがとうございます。さてとボツラ男爵家令嬢にお尋ねします。ルネビア嬢に嫌がらせされたのは、いつ頃からですか」
「三ヶ月くらい前からです」
「三ヶ月くらい前ですか。間違いありませんか」
「はい、間違いありません」
「変ですね。三ヶ月くらい前ならルネビア嬢に嫌がらせは出来ません。何故ならルネビア嬢は半年前から隣国に留学していて、七日前に帰国されたばかりです」
「「・・・・」」
クロカゲの指摘により冤罪を仕掛けようとしたのがバレてしまい、二人は真っ青になってしまった。
「クロカゲ様、ありがとうございます」
密かに思いを寄せていたクロカゲに冤罪を晴らしてもらい、感謝の言葉を述べた。
「そこまでだ」
威厳に満ちた声が会場に響き渡った。
「「陛下」」
「父上」
「・・・・」
クロカゲとルネビアは直ぐに臣下の礼を取ったが、ハイチとフレアは呆けたままだった。
「ハイチの処罰についてラストとアガルの意見を聞かせてくれ」
皇帝がラストとアガルにハイチの処罰についての意見を求めた。
「暫く謹慎させるのはどうですか」
「皇籍剥奪とボツラ男爵家への婿入りが妥当だと思います」
「アガル、厳し過ぎではないのか」
「姉上、そんな事はありません。ルネビア嬢への非礼を考慮すれば妥当な処罰です」
「分かった。アガルの意見を参考にさせてもらう」
皇帝はアガルの意見に賛同したみたいだ。
四人は皇帝の執務室に呼ばれ、詳しい事情を説明した。
ハイチがルネビアとの婚約の意味を理解していなかったとはな。
皇帝は事情を聞いて、ハイチを完全に見限る決心をした。
「分かった。ハイチとルネビアとの婚約破棄とボツラ男爵家令嬢との婚約を認めよう。但しハイチの皇籍を剥奪して、ボツラ男爵家に婿入りとする」
皇帝が婚約破棄の承諾とハイチの皇籍剥奪を宣言した。
「父上、何を言っているのです」
「黙れ。反論は認めぬ。ハイチ、お前には失望した。ハイチとボツラ男爵家令嬢は直ちに退出せよ」
ハイチが文句を言い出したが、皇帝は撤回しなかった。
「父上、ご再考下さい」
「皇籍剥奪なんてハイチ様が可哀想です」
「もう決定した事だ。衛兵、ハイチとボツラ男爵家令嬢を退出させよ」
ハイチとフレアが再考を願い出たが、皇帝はあっさりと却下した。
ハイチとフレアが退出後に人払いをしてから、ルネビアの今後についての話し合いとなった。
「陛下、約束は守って下さいね」
「分かっておる。あんな約束するのではなかった」
「あんな約束?」
「実は」
「その約束は何なのですか。冗談にも程があります」
ルネビアが約束の内容を知って、物凄く激昂してしまった。
約束の内容はハイチが婚約破棄という愚行を犯すかという賭けの話だった。
どうやら皇帝が婚約破棄をしない方に、クロカゲが婚約破棄する方に賭けたらしい。
しかも賭けの報酬がルネビアとクロカゲとの婚約だという。
「本当に済まん。ついコイツの口車に乗せられてしまったのだ」
「陛下、それでは私一人が悪いみたいじゃないですか。陛下だってノリノリだった癖に」
「ずいぶん仲が良いみたいですけど、お二人の関係は何なのですか」
「陛下、打ち明けても良いですか」
「まぁ、ルネビアなら構わん」
「実は私は皇家の影なんです」
クロカゲが皇家の影だという秘密も打ち明けられた。
尋ねなければ良かった。
ルネビアは好奇心で尋ねた事を心の底から後悔した。
「婚約はお断りします」
「待って下さい。ルネビア嬢が激昂されるのも当然ですが、社交界では婚約破棄が話題になるのは確実です。夜会では色々な視線に晒されますよ。ルネビア嬢に次々と婚約の申し込みが殺到するでしょう。それでも良いのですか。私との婚約はそれらを回避する唯一の方法です」
「コイツは物凄く腹黒だが、かなりの優良物件だぞ」
「物凄く腹黒は余計です」
「・・・・」
「もちろん仮婚約で構いません。一年後に婚約が嫌ならば、婚約は解消します。それでも納得してもらえませんか」
「分かりました、一年間だけ仮婚約します」
「ありがとうございます。必ず私に惚れさせてみせます」
「自信過剰ではありませんか」
「そんな事はありません」
「そうですか」
ルネビアは一見冷たい表情だが、内心は歓喜していた。
つまり彼女はツンデレだった。
こうしてクロカゲはルネビアをゲットした。