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12.揺れる想い

 花凛は悩んでいた。

 正司の部屋から綺麗な女の人が出て行くのを見て以来、ずっと悩んでいた。


(やっぱり私みたいな子供じゃ正司さんには相手にされないのかな。あの綺麗な人みたいじゃなきゃ……)


 明らかに自分より年上の女性。名前も顔も知らないが正司と、只ならぬ関係であることは間違いない。



(正司さんに会いたい。またご飯を作ってあげて、そしてあの笑顔が見たい。あの笑顔があればどんなに辛くても生きていける)


 そうは思うものの、それは一方的な思い。

 正司には正司の人生があり、それを邪魔するのは本望ではない。



(でも、正司さんの人生に、私が登場する事って……)




「花凛っ!!」


 そこまで考えていた時、親友の由香里が声をかけた。


「由香里?」


 由香里が花凛に近付いて言う。


「どうしたのよ~、そんなに暗い顔して?」


 大学のキャンパスの隅にある椅子。そこでひとり黙って座る花凛に気付いて由香里が声をかけた。



「暗い顔? そう、そうなんだ……」


「ほら~、やっぱり暗い!! どうしたのよ」


「うーん、何でもないよ……」


 由香里が隣に座って言う。



「恋の悩みでしょ?」


「え? な、なんで急に……!?」


 図星の答えに戸惑う花凛。由香里が更に言う。



「橘さんでしょ?」


「ええっ!? ど、どうして……」


 更に言い当てられ顔を真っ赤にする花凛。ふたりの可愛い女の子が座る椅子に、通り行く男子学生の目が集まる。由香里が言う。



「そりゃ分るよ~、花凛素直だし、それに……」


 ただ聞くだけになっていた花凛が恥ずかしそうに下を向いてそれを聞く。



「それに、ふたりってまるで夫婦みたいだったよ」



「え?」


 顔を上げて由香里を見つめる花凛。暗かった花凛の顔が一気に明るくなる。


「本当に? 本当にそう思った??」


「思ったよ。もう息ぴったりだし、なんか新婚さんって感じ」


「きゃー、ほんとっ? ほんとにそう思ったの??」


「思ったって。しつこいぞ」


 花凛は何度も頷きながら喜ぶ。由香里が尋ねる。



「で、何があったわけ? 聞くよ」


「あ、うん、あのね……」


 花凛は正直に今の気持ちと、正司の部屋から出てきた女性のことを話した。由香里が言う。



「そうだね。花凛はずっと自分の料理を食べてくれる人を探していたもんね。橘さん、どういうわけか知らないけどあんなに美味しそうに食べてくれてたし。花凛にとってはずっと探していた人、って訳よね」


「うん、そうなの。もう正司さんの食べる顔見てるだけで、私、白米3杯は行けそう!!」


 花凛は本当に幸せそうな顔で言う。



「はいはい、分かったわよ。で、その女の人なんだけど……」


「うん……」


「あんまり気にしなくていいんじゃない?」


「そうなの?」


 友人も多く、彼氏持ちの由香里の言葉はやはり説得力がある。



「だってまだ花凛の気持ちって伝えてないんでしょ?」


「うん、そんなの恥ずかしくて……」



「脈あると思うよ」


「本当に!?」


 花凛が目をピカピカさせて尋ねる。



「だってさっきも言ったけど、ふたりってまるで夫婦みたいだったよ。取りあえず気持ちだけでも伝えて見たら?」


「う、うん。でも恥ずかしいな。彼女さんいたら迷惑だろうし……」


 由香里がため息をついて言う。



「またそんなことを言うー。だから当たって砕けろって言うでしょ? それかせっかく隣に住んでいるんだから、()()()()作っちゃえば?」


「既成事実? 何それ?」


 由香里が首を左右に振って言う。



「はあ、花凛は真面目だからねえ~、要はね、()()()よ、エッチ!!」


「え、エッチ!?」



「しーっ、声が大きい!!」


 大きな声を出した花凛の口を塞ぐ由香里。花凛が真っ赤な顔をして言う。



「わ、私、まだそんなこと考えたことないし、どうしていいのか……」


「なにも難しく考えることはないって。好きなんでしょ、橘さん?」


「うん……」



「甘えたいんでしょ?」


「うん」



「ぎゅっ、とかして欲しいんでしょ?」


「うん、して欲しい……」


 そう言いながら顔どころか手の先まで赤く染まる花凛。由香里が言う。



「相手は年上。そう言うところは甘えさせてくれるよ~」


「そ、そうかな……?」


 花凛は恥ずかしいと思いながらも、嬉しそうな顔をして応える。由香里が言う。



「とにかく橘さんは私が認めたんだから自信持って口説きなよ!! おっさんだけどね」


「えー、そんなことないよー!! 全然大丈夫だからっ!!」


 花凛は由香里が友達でいてくれて本当に良かったと思った。






(はあ、とは言えやっぱりそんなこと簡単にする勇気ないよな……)


 花凛は夜、ひとりになった部屋で抱き枕を抱えながら思った。


(考えてみれば正司さんからそんな思わせぶりな言葉聞いたことないし、いつも『美味しい、美味しい!!』って言ってるだけだし……、くすっ)


 そう思いながらもそれが自分が一番聞きたい言葉だったと花凛が笑う。



(でも女の子ってわがままなんですよ。『美味しい』の後はもっと違う言葉が聞きたくなるの。それは……)


 そう思いながら顔を真っ赤にする花凛。同時に浮かび上がる正司の部屋に来ていた綺麗な女性。花凛が思う。



(あ、あの女性とも、え、えっちなことしてたのかな……、『私を食べる』とか言ってたし……)



「はあ……」


 一気にため息モードに切り替わる花凛。悪いことを考えればそれはそれで止まらなくなる性格。花凛がカーテンを開け隣の部屋の様子をうかがう。



(まだ帰って来てないんだ。どうしたんだろ? 今日は遅いな……)


 閉じられた窓。暗い部屋。

 いつも入るはずの部屋の主がいないことを示している。



(正司さん、遅いな。どうしたんだろう……)


 花凛はキッチンに置かれたふたり分の料理を見てため息をつく。正司が帰ってきたら一緒に食べようと用意していたものだ。






「橘さん、橘さん!! 大丈夫ですかっ!!!」


 正司は会社の近くの病院のベッドで意識を失ったまま寝かされていた。

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