噛み合わない会話3 ジュリアスside
「理解したか?」
「はっ!?」
何をだ?
父上が母上を愛していなかった事か?
「…分かっていないな。恐らく、私がそなたの母を愛していなかった事を説明したとでも思っておるのだろう」
違うのか?
「子爵家出身者の側妃には後ろ盾がない。そのための措置として、クロール侯爵家のアリシア嬢と婚約が整ったのだ」
「…あっ…」
「理解出来たか。今までそなたが王族としての面子を保ってこれたのは、クロール侯爵家がいたからだ。
他の王子達同様の教育を受け、生活出来たのは、アリシア嬢と婚約していたからだ。そうでなければこのような待遇は受けられぬ!
そなたは本当に母親にそっくりだ。嫌になるほどにな!」
「……」
「兎に角、これで嫌でも理解出来たであろう! アリシア嬢によってそなたの立場は確立出来ておったのだ!」
「…クロール侯爵家のお陰で私や母上が王族として暮らしていけた事は感謝しております」
「ほぉ~~~。今の今まで知らずにいた奴からの感謝の何と軽々しい事か」
「……」
知らなかった事は本当だから何も言えない。
でもそれは私だけの責任か?初めから教えてくれていれば良かったではないか!
「そなたの事だ。誰かが言ってくれていればこんなことはしていない、とでも思っておるのだろう」
ギクッ。
どうして分かったんだろう。
「言っておくがな、こんな事人に教えられて知る様な事ではないぞ。普通に察するものだ」
「…申し訳ありません」
「ここまで聞いて何か思い当たる事はないか?」
「えっ?」
何の事か分からなかった。
まだ何かあるのだろうか?
恐らくそれが表情に出ていたのだろう。父上が深い溜息をついた。
「先に申したであろう? 平民になると。王妃の息子でないそなたには王位継承権は無い! だからこそ先代クロール侯爵が立場の弱いそなたの後ろ盾に正式になるように尽力してくれたのだ! その恩を仇で返しおって!!!」
「……王位継承権が…ない…?」
「そうだ! 非嫡出のそなたは所詮『庶子』でしかない!!!」
「……そ…それでは…わ、私は……」
「教育係から幾度も言われたであろう! 次期侯爵になるアリシア嬢と協力し支え合わなければならないと!」
「それは……」
確かに口酸っぱく言われていた。アリシアと支え合うのだと。だがそれは王子妃になるため、私を支えるためだと思っていた。
「もう理解したであろう。アリシア嬢との婚約は全てそなたのためだ。成人後に王族から離れるそなたのための措置であった。庶子に生まれた王族は成人すれば王族から籍を外され、母親の実家に籍を移されるのが決まりだ。実家が持つ爵位の一つを貰い受けて貴族として生活する。だが、そなたの母の実家は子爵家でしかない。余っている爵位などないのだ。そうなれば平民になるしかない!」
「で、ですが…王太子殿下に何かあればジュリアスが次の王になるんですよね?」
王家の事に詳しくなかったジェニーが身を乗り出して聞くが、それは国王に対して失礼に当たる行為だった。相手が貴族ではなく平民である事も考慮し、父上は不問にするようだ。
「……残念だがそうはならん。万が一、王太子に大事が起こったとしても跡を継ぐのは第一王女だ。
我が国の王位継承順位は正妃の血を引く嫡出にしか持ちえない。仮に正妃の子供に何かあったとしても、大公家がある。大公家から養子を貰って即位させることになるだけだ。運が良い事に我が国の大公家は三つある。全員、跡取りに困っていない」
父上はダメ押しするかのように首を横に振った。
「それでも、大公家に後継者がいない状態になれば…」
必死に言いつのるジェニーに対して父上は冷ややかな目を向ける。
「大公家に何かあったとしてもジュリアスに王位がまわる事はない。そうなれば王家の血を引く者が優先される。もちろん、正妻腹の者がな。
先代の王が子沢山だったものでな。嫁いだ王女や婿入りした王子に事欠かん」
「そ…そんな」
絶句するジェニー。
私もショックを隠せないでいた。
その数ヶ月後、私は成人し、王家から追い出されるように婿入りした。ジェニーの家に。
それによって側妃の母も後ろ盾を失い、数日後に離宮に移され、実家の子爵家は没落した。