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噛み合わない会話2 ジュリアスside


数日後――


漸く、父上がジェニーと会ってくれる事になった!

これで彼女との結婚が整う。

勿論、結婚式はジェニーが大学を卒業してからになるが、婚姻届けは父上の許可次第でいつでも出せるのだ。


王宮の一室。

そこには父上だけでなく、何故か記録係の役人と数名の大臣がいた。


「ジュリアス。改めて、そちらの女性を紹介してもらおう」


挨拶もなしに父上が急かす。

礼儀に煩い父上らしからぬ態度に少し驚くも、相手は貴族令嬢ではない。その事を憂慮してのことかもと深くは考えなかった。


「はい。こちらの女性はジェニー・グレン。王宮侍医の御令嬢で、王立大学に通う才媛でもあります。頭脳明晰で、心優しい、純粋な女性なのです。

身分の問題はありますが、彼女にはそれを補って余りある才能の持ち主なのです。既に六ヶ国語を習得しており、諸外国の歴史や文化にも造詣が深く、政治や法律にも長けております。

彼女なら、外交も内交も難なくこなすでしょう。王家に嫁ぐことに何の問題もありません。もし彼女の身分が足りない事が問題だと言うのならば、貴族との養子縁組をしてから王子妃に迎えたいとも考えております。

彼女の優秀さなら、どこの貴族でも養女に欲する事でしょうから。問題ないはずです。愛する女性と共に国に貢献していく所存。どうかご理解のほどお願い申し上げます」


「…そうか」


眉一つ動かさない父上とは反対に、役人の顔色が悪くなった。大臣たちもこめかみを押さえている。

何か間違った事を言っただろうか?

横にいるジェニーに視線を移すと、嬉しそうに目を輝かせて私を見つめている。

間違ってはいないはずだ。


「ジェニー・グレン。そなたは、どうだ?」


「…私もジュリアス殿下をお慕いしております。確かに私には誇れる身分も財産もありません。ですがそれを補う頭脳を持っていると自負しております!

必ずや王家に、延いてはこの国のため()()()として粉骨砕身力の限り尽くさせて頂きます。決して後悔はさせません。身分と財しか持たない女性よりも私の方が如何様にも価値ある存在のはずでございます。ジュリアス殿下と手を携えて王国を盛り立ててゆく次第であります。

全ては愛と忠誠心ゆえに、どうか認めてください!」


「……なるほど。二人そろってここまで()()()だとは思わなんだ」


父上?

非常識とは?


「ジェニー嬢は一庶民。王家の事情を知らないのは無理もないが…。ジュリアス、そなたが己の立場を理解出来ていなかったとは…。常々、言い聞かせてきたはずなのだが。そなたたちが婚姻することは何も難しくはない。ジュリアスが平民の身分になればいいだけの話だからな」


「…へ、平民? 父上いったい…」


「…その様子では、自分の立ち位置さえも理解していないようだな。側妃はどんな教育をしてきたのだ? ジュリアス、そなたの母は子爵家の出だ。本来なら、伯爵家以下が側妃になる事はない。それは知っておるか?」


「はい、先の戦での功労によって特別に認められたことだと…」


「そうだ。そなたの母方の祖父にあたるルルア子爵は、十年戦争の英雄の一人だった。だが、それ以上にクロール侯爵家の恩人でもあったのだ。先代クロール侯爵は命の恩人であるルルア子爵に大変恩義を感じていたのだ。その恩人の娘が、当時、王太子である私の元へ嫁ぎたいという願いを叶えるため、私の側妃として推薦してきたのだ。戦は終わったとはいえ、財政難に苛まれていた王家は、王国有数の資産家であるクロール侯爵家の推薦を無下にする事は出来なかった。なにしろ、子爵家の令嬢が側妃になれば、クロール侯爵家からの莫大な結納金が王家に入るのだからな」


「……」


初めて聞く話だ。

母上はそのような事は仰らなかった。

父上が母上を見初めたのだと、何時も言っていたから。


「当初は、クロール侯爵家の養女にしてから後宮入りを果たす予定であったが、侯爵家の親族一同がそれに反対して、子爵令嬢として異例の後宮入りとなったのだ」


「何故、クロール侯爵家は母を養女に迎えなかったのですか?」


「先代クロール侯爵としては、養女に迎え入れるつもりだったそうだが、奥方を始めとした他の者達からの反発があったと聞く。

だが、それも当然だろうな。クロール侯爵家には歴とした息女がおり、幾ら恩人の娘とはいえ、養女にさせるほどのメリットもない存在だ」


「……」


「そなたの母は確かに美しい。だが、言い換えればそれだけだ。妃に相応しい教養も聡明さもない。

側妃は、ただの妃ではない。王妃を立て、王妃の仕事の補佐をする存在でもあるのだ。そなたの母にはそれが出来なかった。

これで己の立場を考え、控えめに徹していればまた違ったかもしれんが、相手によって態度を変える浅ましさだ。そのうえ、長年、王妃や他の妃達に悪態をつく始末だ。

クロール侯爵家の奥方達は側妃の本性を知っていたのだろう。身内に迎え入れるのを頑なに拒んだのが良い証拠だ」


「……」


初めて聞く話だった。

その様な事は母上から一度も聞いた事がなかった。父上の寵愛が厚いため、他の妃達から嫉妬されると。嫌がらせを受けないために自分の宮殿から出ないのだと伺っていた。

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