表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/66

愛ではなく嫌ってくださいませんか!?

「私、もうその花に飽いてしまいまして。なのでドライフラワーにしてしまいましたの」


「…………」


 ああ、我ながらなんて薄情な女なのかしら!

 贈っていただいた立派な薔薇を、早々にドライフラワーにしてしまうなんて!


(さあ、ルキウス。せっかくの贈り物をぞんざいに扱われて、悲しいでしょう? 腹立たしいでしょう!?)


 なんて無礼なことをと、怒ってくれていいのよ!

 そうして私を嫌になってくれれば、めでたく婚約破棄に――。


「ええと、念のための確認なのだけれど」


 ルキウスはどこか躊躇うように頬を掻いて、


「このドライフラワーは、これから捨てられるのかな?」


「へ? いえ、他のドライフラワーと共に、冬の暖炉に飾られるはずですわ」


「……飽きちゃったなら、捨ててもよかったんだよ?」


「それではこの花に失礼すぎますわ。まだ充分に、美しい姿をしていましたもの」


「そ、か」


 耐えきれない、といった風にして、ルキウスが噴き出す。

 どころかあろうことに、楽し気にクツクツと喉を鳴らし始めた。


(え!? なんでどうして!?)


 想定外の反応に絶句していると、息を整えたルキウスが「本当に、マリエッタは可愛いなあ」とドライフラワーをそっと撫で、


「キミのそうした、花にも敬意を払う律義さが愛おしくてたまらないよ。マリエッタはいつだって心も美しいよね」


「~~~~っ! わ、私は別に、そういうつもりでは……!」


「いやあ、まさか自分の贈った花に嫉妬する日がくるとは思わなかったよ。マリエッタの恩情を受けられて、よかったね、おまえは」


 羨まし気な笑みでえいやと花をつついて、


「ねえ、マリエッタ。僕もキミに捨てられたくはないのだけど、この花みたいに乾燥してしまえばいいのかな?」


「な!? なりません! 人は乾燥しましたら、死んでしまいますのよ!?」


「そうなんだけどねえ、僕なら気合でなんとかいけそうかなって。マリエッタへの愛は誰にも負けないからね!」


「愛があろうが気合があろうが、無理なものは無理です! 絶対に、おやめください!」


 勢いよく立ち上がり、ぜえはあと肩を上下させる。

 ルキウスはそんな私を見上げて「マリエッタがそう言うのなら」と微笑みながら、立ち上がった。

 ついでとばかりに机上に飾られた紫の桔梗の花を手に取り、私の隣まで歩を進め、


「いっそ、僕が死んでしまったほうが、キミは自由になれるのにね」


「な……っ!」


 つい、と。優しい手つきで私の耳元に、ぷつりと茎を折った花を挿し、


「うん、この花もよく似合うね」


 にこやかに笑むルキウス。

 私は離れていく手をとっさに掴み、力一杯にらみつけ、


「そういったご冗談は、私、大嫌いですの」


「……そうだったね、ごめん。僕が悪かったよ」


 ルキウスはバツの悪そうな顔をしながらも、流れるような仕草で、私の指先に口づける。


「枯れずとも側に置いてもらえるように、もっと頑張るね。愛してるよ、麗しきマリエッタ」


「~~~~っ!」


 そうではなくて!!

 婚約破棄をしてほしいのだけれど!?


(なんか余計にやる気ださせてしまったような……!?)


 勝者、ルキウス。

 次よ、次っ!!!!


***


「ルキウス様、あのお店にも行きましょう!」


 場所は王都。この国で一番に華やかな通りで、私はルキウスと買い物に勤しんでいる。

 そう。楽しんでいる、のではなく、勤しんでいる。

 なぜならこれももちろん、「ルキウスに嫌われて婚約破棄作戦!」の真っ最中だから。


「あ、ルキウス様。あちらのお店も素敵ですわ! 行きましょう!

 ぐいぐいと腕をひいて催促する私に、ルキウスが「そんなに急がなくとも、店は逃げないよ」と肩を竦める。

 よしよし、これはなかなかの好感触……!


 それもそのはず、だってルキウスは元々のんびりを好む性格で、私と出かける時も、歩く速度から内容まで、どれをとってもゆったりとしていた。

 だからこそ今日は王都について馬車を降りるやいなや、私はくるくると場所を変え店を変え。

 とにかく、自分でも目が回りそうなほどに忙しなく動き回っている。


「やっぱり隣のお店も気になりますわ。覗いてみましょう!」


(どう!? こんなに慌ただしいんじゃ、私といても疲れるだけでしょう!?)


 疲労を訴えてくる両足を必死に動かしながら、私は胸中で「今日こそは婚約破棄よ!」と勝利を確信する。

 だって私は今、ルキウスをあれそれと連れ回している以上に、とんでもない悪事を働いているのだもの。


 注目すべきは、ルキウスの両手。彼の右も左も、私が買い込んだ荷物でいっぱいになっている。

 対して私の両手は、そう! 何一つ持っていない、完全自由!

 つまるところ私は今、ルキウスに荷物持ちをさせている……っ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ