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隠されていた破滅の運命

「確認したいのだが」


 アベル様の緊張をはらんだ低い声に、全員の目が向く。


「なぜ、そのような重要な品を持っている。全てを信じたわけではないが、王室の書物に記載のない事情も詳細に知り得ているなんて……いったい、何者だ」


「なあに、そんなに警戒するような理由ではないさ」


 ミズキ様はしゃらりとカンザシを揺らす。


「言ったろう、王には知られたくはなかったって。彼女はね、新たな聖女の誕生と同時に、そのブレスレットの存在を隠すことにしたのさ。考えた彼女は、信頼ある相手にそれを託すことにした。そして選んだのは、かつての恋人だったある男。風変りで、"運命"を見ることが出来ると噂される……私の、師匠だった人さ」


「! ミズキ様の、お師匠様……!?」


「嘘は許さん」


 即座に発したアベル様は、鋭く目尻を吊り上げ、


「初代王の統治時代は数百年も前の話だ。貴様の師匠がブレスレットを直接受け取ったとしたのなら、どうしたって計算が合わない」


「おっしゃる通りさ、アベル様。けれどもね、誓って嘘ではないのだよ。なぜなら私は東国で"魔女"と呼ばれる存在の血を引いた、長命な一族のひとりだからね」


「なに……!?」


「――そう。そういうワケだったんだ」


 静かに呟いたのはルキウス。彼はじっと、感情の読めない顔でミズキ様を見つめ、


「ミズキと出会ったのは十の歳を迎える前だったのに、その容姿はあの頃から変わらない。歳を、取っているようには見えなかったんだ、ずっと。僕の違和感に違いはなかったんだね」


「おや、気になっていたのかい? そんな素振り、一度だって見せやしなかったじゃないか」


「別に、年をとっていようがとっていまいが、ミズキはミズキだから。それに、"年齢は秘密"だといっていたから、触れられたくないんだろうなって」


 途端、ミズキ様が面食らったように目を丸めた。

 それから仕方なさそうな苦笑を浮かべ、


「まったく、お前さんは相変わらず、妙なところで律儀だねえ」


 ともかく、と。ミズキ様は視線をアベル様に移し、


「信じろというほうが酷なのはわかっているさ。なんたって、にわかには信じがたい話だし、証明する術もないからねえ。ご判断は、アベル様ご自身でいかようにも。ってことで、そろそろね」


 ぱっと笑みを咲かせたミズキ様が、アベル様へと歩を進め、その背を押す。


「なにを……!」


「私に聞きたいことはまだあるだろう? 私もね、あの時の赤子とこんなにも言葉が交わせるなんて、嬉しくてたまらないのさ。続きは部屋を移してからにしようじゃないか。なんたって、ねえ?」


 ミズキ様はにやりと私達を流し見て、


「二人は婚約者同士なんだ。積もる話もあるだろうからねえ。いい加減、気を利かせてやらないと。そんじゃあ、お二人さん」


 ごゆっくり、と。

 半ば強制的に、ミズキ様がアベル様を連れて部屋から出ていく。


(積もる話って……)


 そりゃ、ルキウスに話したいことは色々とあるけれど。


(でも、こんな急に……!)


 戸惑っているのはルキウスも一緒なのだろう。

 シン、と静まり返った空気がなんとも気まずい。


(ど、どうしよう、ともかく何か話を……!)


「あ、あの、ルキウス様。私、お紅茶のおかわりをお持ちして……」


「マリエッタ」


「!」


 そっと握られた掌に、思わず息を詰める。

 跳ねるようにして隣のルキウスを見遣ると、彼はしなやかな眉をへりょりと下げ、


「改めて、お礼を言わせて? 助けてくれて、ありがとう。それと、"聖女の力"を使わせてしまって、ごめんね」


「そんな……! 助けていただいたのは私のほうですわ。ルキウス様が守ってくださったからこそ、私は今、この場にいれるのです。いくら感謝をしてもしたりないですわ。それに……ごめんなさい、ルキウス様。私が愚かだったがために、取り返しのつかないことを……あなたの命を、奪ってしまった」


 実感を伴った恐怖に、唇が強張る。

 ルキウスに包まれた指先も、きっと震えているに違いない。


「謝って許されることではありませんが、本当に……助かって、良かったですわ」


 涙を溢れさせた私に、「マリエッタ……」とルキウスが気遣わしげに呟く。

 ぎゅっと力を込められた掌は、きっと宥めてくれたのだろう。そっと壊れものに触れるようにして頬に伸ばされた指先が、とめどなく落ちる涙を拭ってくれた。


「マリエッタ、キミに責任などなにひとつないよ。すべては"運命"が、キミの"人柱"化と破滅を望んだが故に起きた"不運"だったんだ。僕が一度命を落としたのだって、僕が、定められていた"運命"を捻じ曲げてしまったから。僕がキミと……"運命の人"を、引き離そうとしていたから」


「ルキウス様……? いったい、なんのお話を……」


 と、ルキウスは怯えの混じった苦笑を浮かべ、


「マリエッタ。僕の罪を、聞いてくれる?」


 それからルキウスは、幼い頃に見た夢の話を始めた。

 成長した私とアベル様の婚約に、聖女への心移り。婚約破棄と、私の"人柱"化。

 そしてアベル様による討伐に……私の、破滅。

 ルキウスが私との婚約を望んだのは、そんな私の運命を、阻止するためだったと。


(そんな……それじゃあ)


 心臓の内側が、嫌な予感に冷え行く。


「ルキウス様は、私を好いてくださっていたから、婚約を望んでくださったわけではなかったと……?」

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