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王子様に実力行使で止められてしまいました

 すると、ご令嬢のひとりがうるると瞳を潤ませ、


「羨ましさからマリエッタ様を悪女としていた自分が、許せませんわ。マリエッタ様はこんなにも聡明で、慈悲の心を併せ持った献身的なお方ですのに……!」


「それに、立派な勇気もお持ちですわ!」


「忍耐力だって!」


 口々に叫ばれる内容に、「あ、あのっ」と戸惑いながらも顔が熱くなる。


(ど、どどどどどうしたらいいのかしら!?)


 正直、嬉しい。

 嬉しいけれど、褒められ慣れていないせいで、どう反応するのが正解なのかがわからない……!

 あたふたとしていていると、「とにもかくにも、ですわ」と初めに頭を下げてくれたご令嬢の声に、周囲が止む。


「私達、マリエッタ様に気づかされましたの。自分たちも、この国の貴族の一員なのだと。私達に適切な魔力はありませんが、それ以外についてはお手伝いさせてくださいな」


「もちろん、マリエッタ様に身を粉にして治療にあたれと申しているわけではありませんのよ?」


「私達にもこの国を守らせてください!」


 私を見つめる数々の瞳は、力強く、温かで。


「皆様……。ありがとう、ございます」


 ねえ、ルキウス。信じられる?

 あなたに置いて行かれまいと必死に磨いた魔力が、こんなにも、新しい未来を切り開いてくれたの。

 今までも、これからも。きっと社交界では、ひとりぼっちなのだろうと思っていたけれど。

 あなたが導いてくれたおかげで、私にも共に戦ってくれる人たちができた。


(ルキウス。今すぐにあなたに会って、直接話したい)


 けれど、今は。

 こみ上げてきた衝動に滲む目尻を拭って、私は彼女たちをしっかりと見据える。


「一人でも多く、救いましょう。どうか共に戦ってくださいませ。皆様の傷も必ず、治してみせますわ」



 ご令嬢方のサポートが入ってそう経たないうちに、ホール内の雰囲気が不思議と変わり始めた。

 命に関わるだろう重症患者が徐々に治療され、浄化を受けているせいもあるのだろうけど……。

 なんというか、悲壮と哀愁漂う陰鬱さが薄まり、国への忠義を尽くさんと奮闘する活力が溢れているというか。


「……なかなか、しつこいですわね」


 ぽそりと呟いたご令嬢の声に、私は開かれた扉を見遣る。

 運ばれてきたのは騎士団の隊服をまとった、新たな負傷者。どうやら紫焔獣との闘いは、まだ決着がついていないよう。


 治しても治しても後が絶たない現状に、私はというと、傷の全快ではなく自然治癒を期待できる範囲までの治療を指示されていた。

 ひとりでも多くの負傷者を救うために。


「マリエッタ様、そろそろ一度お休みをされたほうがよろしいのでは?」


 おずおずと訪ねてくるご令嬢の顔には、多分の心配。私は「いえ、まだ平気ですわ」と笑んで、次の患者の治療にあたる。

 これまで運ばれてきた負傷者の中に、ルキウスの姿は、ない。アベル様も。

 つまりまだ、必死に戦ってくれているのだろう。それに。


(ロザリー……きっと、無事なのよね)


 怪我なく避難が間に合った人は、別の部屋にいるのだとご令嬢方に聞いた。

 このホールにはいないようだから、つまりはそちらにいるのだと思う。

 出来ることならば、ちゃんとこの目で無事を確かめたい。そのためにも、まずはここの負傷者たちを早く安心できる状態にして――。


「アベル様っ!」


 誰かのざわめきに振り返ると、開け放った扉からアベル様が歩を進めてきた。

 やはり彼も戦闘に加わっていたのだろう。出て行った時と比べ、衣服も明らかに消耗している。


「国内の医師に緊急招集をかけている。迎えも出しているから、まもなく到着し始めるだろう。医療物資もだ」


 早口で看治隊の人へ告げ、止めていた足を動かし始める。

 刹那、ばちりと目が合った。途端に険しくなった眉間に、戸惑う。


(え? 私、なにか間違えてしまったかしら?)


 大股で近づいて来るアベル様に、患者への治癒魔法を施しながらあたふたと戸惑っていると、


「マリエッタ嬢……っ」


 患者に向けていた掌が掴まれ、苦々しく眉根を寄せたアベル様の顔が近づく。


「アベルさまっ」


「まだ治療を続けていたのか。まさか、俺が出て行ったあと一度も休まずだなんてことは……!」


「い、いえ、ちゃんとお休みさせていただいておりますわ。それに、皆さまにも気遣って頂いておりますし――」


「駄目だ」


「きゃっ……!」


 思わず声を上げてしまったのは、アベル様に横抱きで身体を抱えあげられたから。


「アベル様!?」


 近い顔、伝わる体温。

 なによりも彼に抱きかかえられているだなんて、ほんの少し前の私だったならば、恥ずかしいやら嬉しいやらで胸が締め付けられていただろうけれど。

 ルキウスへの想いを自覚した今は、ただただ驚愕と焦燥だけが先行していて。


(こんな姿、他のご令嬢方にどう思われるか――っ)


「お、降ろしてくださいませ……っ!」


 周囲の目などものともせず、スタスタと扉に向かって歩いて行くアベル様は前方を捉えたまま、


「だがこうでもしなければ、キミは治療を続けてしまうだろう。言ったろう、決して無理はするなと。治療を続けたいのなら、まずはしっかり休んでから――」


 その時だった。

 開かれた扉。傷を負い、損傷した隊服をまとう数名の中央に立つのは。


「ルキウス様……っ」

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