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お相手探しのお茶会には婚約者色のドレスで

 一言に"王城の庭園"といっても、その場所は様々で。


(白薔薇、本当にすべて枯れてしまったのね)


 すっかり緑となってしまった白薔薇の木々を横目に、私は王城のさらに奥の庭園へと案内された。

 そこにはすでに色とりどりドレスで着飾った、ご令嬢方が多数。

 私の到着と共にさっと集まった視線は品定めをするそれで、けれどもすぐにその目は私から剥がれた。


 おそらくは、私は"婚約済"だから。

 ライバルにはならないと、判断されたのだと。


(アベル様はいったい、何をお考えなのかしら……)


 手の内の招待状は、アベル様から贈られてきたもの。

 まるで私が出した手紙の返事ともとれるこの招待状に、応えないわけにもいかず。

 数日前から遠征任務にあたっているルキウスには、手紙でこのお茶会に参加する旨を知らせた。


 爺やから「どうにもアベル様も、難しいお立場のようですな」と教えらえたのは、昨日のこと。

 いわく、このお茶会に招待されているのは、有力貴族をはじめとする貴族階級のご令嬢方ばかり。

 それも、ほとんどは婚約者を持たない方だという。


「国民には伏せているようですが、近頃"紫焔獣"の動きも活発化しておりますようですし。現国王の直系はアベル様のみゆえ、お相手探しだけでもということでしょうな」


「アベル様の、お相手探し……」


 これまでの私なら、ならば必ずやその座を射止めなくてはと、自分磨きにやっきになっていただろうけれど。

 ルキウスへの想いを自覚した今は、どうか素敵なお相手に出会って頂きたいと。

 あの方の幸せを願うと共に、はたして私が参加して良いものなのだろうかという、不安のほうが強い。


(爺やの話によれば、有力貴族のご令嬢は婚約者があっても招待されているようだし……)


 我がウィセル家も、貴族議会に顔を並べる侯爵家のひとりだもの。

 私もきっと、その枠だということよね。

 そうでなければ。先日の無礼を公衆の面前で追及するための、呼び出しだったり……。


(いえ、アベル様に限ってそんなことは……。けれど、明確な手紙のお返事はなかった点を踏まえると、やっぱりお怒りになられている可能性だって捨てきれないわ)


 ルキウスから届いた手紙には、「気を付けていってらっしゃい」と書かれていた。

 その言葉は、先日無礼を働いた私の背景を汲んでくれたものなのか、アベル様へ想いを寄せている私の邪魔はしまいと考えているからなのか。


 ともかく早いところ、「好き」だと。

 想いを伝えなければと思うのに、ミズキ様に背を押してもらった日から今日まで、一度も会えていない。


(やっぱり、こうした大事な話は直接つたえたいもの)


 私は願うようにして、ミズキ様に頂いたブレスレットにそっと触れた。


「早く、お会いしたいものね」


「誰に早く会いたいんだい? マリエッタ」


「!?」


 耳後ろで落とされた声に跳ね返る。と、


「ルキウス様……っ!?」


(ちょっ、ちょっと待って! 早く会いたいとは思っていたけれど、こうもいきなりでは心の準備が……!)


「い、いつこちらにお戻りに……っ」


「昨日の夜に、ね。そしたら休みもなく今度はこっちって、ホント、人使いが荒いよね」


「ル、ルキウス様もアベル様のお茶会に招待されましたの……?」


「ううん。僕がここに来たのは、マリエッタに会うためだよ……って、言えたらよかったのだけれど。僕の気持ちに違いはないのだけれど、護衛任務もしないとでね。けれどこうしてやっとマリエッタに会えたことだし、今日ばかりは騎士団長に感謝かな」


 にこりと笑むルキウスは、よく知る"いつも通り"。なのだけれど。


(うっすらだけれど、目の下に隈が……)


 初めて見るそれに私はそっと指先を伸ばし、彼の頬に触れた。


「マリエッタ……?」


「お疲れですのに、ありがとうございます。私も、ルキウス様とお会いできて、とても嬉しいですわ」


 ルキウスが目を丸める。

 それから穏やかに目を閉じると、頬を擦り寄せるようにして私の手を取った。


「うん。こうしてマリエッタが甘えさせてくれるなら、たまには長期任務も悪くないかな」


「え……? せっかく戻ってらしたのに、また長いこと王都を離れますの?」


「どうだろう。こればっかりは、僕は振り回される側だから。……僕もマリエッタとは離れたくはないのだけれどね」


 ルキウスはすっと開いた瞳で私を眺めながら、手に取った私の指先を自身の口元に引き寄せた。

 ちゅ、と軽いキスを優雅に落として、


「そのドレス、今日、着て来てくれたんだ」


 揶揄する言葉に、ドキリと心臓が鳴る。

 聖女祭でルキウスにアベル様色のドレスをばっちり見られてしまったところ、ミラーナの懸念通り、ルキウスの対抗心に火をつけてしまったようで。

 後日訪ねてきたルキウスは、懇意にしているブティックから大量のドレスを取り寄せていた。


「そういえば、僕からドレスを贈ったことはなかったよね? 好きなだけ選んでいいよ。マリエッタの好みに合うものがなければ、オーダーでもいいし」


 有無を言わせない笑顔に、私は頷くしかなく。

 いくつかの押し問答を繰り返した結果、一着だけ贈っていただくことにした。


 淡いグレーを主体にした軽やかな生地に、散りばめられた金糸の刺繍。ルキウスのいろ。

 このドレスをアベル様のお茶会に着てきたのは、私なりの決意の現れなのだけれど……。


「……せっかく贈っていただいたドレスですもの。着なくては勿体ないですし、お店の方にも失礼ですわ」


(もーーーーどうしてルキウス相手だと、こんなにも可愛くない言い方になってしまうの!?)

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