幻影城
二日後、シオン達は『幻影城』が見えると噂される場所についた。
平原地帯で、北に森がある。
地図によると西には小さな村があるそうだ。
シオンは箱馬車から降り立ち、平原の上に立つ。
クレアとペイモンもそれにならう。
暫くの間、シオンたちは周囲に視線をくばり観察した。
「特に何もありませんね」
クレアが、長い銀色の髪を指で梳きながらいう。
エルフのクレアの高い視力をもってしても特に異常を見いだせない。
「普通の平原にしかみえないのですぅ~」
ペイモンが、翠緑色の瞳を左右に動かして観察する。
「確かに何もないな」
シオンも肯定した。
シオンの目から見ても特に何もない普通の平原地帯だ。
地面には草花が生い茂り、晴れ渡った空にはツバメが飛んでいる。
牧歌的な光景が広がり、妖しげな所は何もない。
「冒険者ギルドからの説明によると確かにここで間違いないのだがな」 シオンは、収納魔法から地図を取り出した。
冒険者ギルドでもらった地図だ。
場所を確認するがここで間違いない。
この場所で時折、城が幻のように浮かび上がるという。
そして、蜃気楼のように現れて、一定時間すると消えるらしい。
「依頼は、ここから西にある村が出したそうだ」
幻の城、『幻影城』を見つけたのも村人で、木こりや、羊飼いなどが、よく見かけるそうだ。
「冒険者ギルドへの依頼は有料だ。噓をわざわざ村人がつくとは思えない」
噓をついて冒険者ギルドに金を払うメリットは村人にも村にもない。
金が発生する以上、村人が『幻影城』を見たのは事実だろう。
(数日、野営して幻影城とやらが現れるのを待つか……)
シオンがそう思った時、シオンは碧眼に鋭い光りを宿した。
黒髪碧眼の少年は、感知魔法を展開した。
シオンの鋭敏な感知魔法がレーダーのように周囲の空間を偵察する。
(空間にわずかな揺らぎがある)
シオンは無言で右手を軽くあげた。
クレアとペイモンに臨戦態勢を取るようにという合図である。
クレアとペイモンが、即座に戦闘態勢をとる。
シオンが、集中して感知魔法の精度を上げた。
やがて、シオンは空間の歪みを発見した。
その空間の歪みはあまりに小さく、シオン以外の魔導師では発見できなかっただろう。
「クレア、ペイモン。俺は今から空間をこじ開ける。警戒を怠るな」
シオンが、鋭く言う。
「承知致しました」
「警戒するのです」
クレアとペイモンが、答える。
シオンが、両手を前にかざした。
シオンの両手の先に積層型立体魔法陣が展開する。
眼前にある空間。
その空間の奥に張り巡らされた時空間魔法を解析する。
数瞬で解析を終了して、シオンは空間をこじ開けた。
シオンの両手の掌から先が、魔力光で青く光り輝く。
同時に、周囲の景色が突如として変わった。
「なんですか、これは?」
「お城?」
クレアとペイモンが、同時に驚きをあらわにする。
白い瀟洒な城がシオンたちの目に映り込む。
小城だが美麗な装飾が施され、王族の別荘といった趣だ。
城のまわりには畑や花壇、噴水がある。
「シオン様、あれはなんでしょうか?」
クレアが、黄金の瞳をむける。
畑で動く人影のようなものがいた。
それは鉛色をしており、人間と似た形状をしていた。そして、クワを持ち、農作業をしている。超合金で作られたロボットのような外見だ。




