死霊司祭
「そうだ。もちろん計画的に行動する魔人族もいるが、この城塞都市ゼリアは、魔人族の気紛れ、遊戯感覚で滅ぼされた。城塞都市ゼリアの衛兵。戦士、冒険者、女子供老人を含む非戦闘員に至るまで全て皆殺しにされた。魔人族どもは、人間族の死体の山を見ながら酒を飲んで狂笑し、やがて何処かに消えた」
シオンが淡々と解説する。
クレアとペイモンが、美貌に恐怖の表情を浮かべる。
凶悪極まりない魔人族の所業に、全身が冷たくなる。
「よく覚えておけ、魔人族と人間族は宿敵だ。どちらかが滅びるまで戦いは続く。これは未来永劫変わることのない真理だ。『殺すか、殺されるか』その二つしか無い。魔人族を見つけたら躊躇無く殺せ」
シオンが、静かな語勢で二人の近衛侍女に諭す。
「シオン様の仰せのままに」
「了解なのです」
クレアとペイモンが、強い決意とともに答える。
シオンが、二人をこの滅びた都市に連れてきたのは、魔人族の脅威を強く認識する事。そして、魔人族を倒す覚悟を身につけさせる為だ。
戦闘中には一瞬の躊躇が命取りになる。
戦いには、精神的な覚悟も重要なのだ。
「今日はここで野営する」
シオンが、命じた。
クレアとペイモンは、主人の命令に、
「「はい」」
と言って答えた。
夜の帳が下りた。
闇夜が、世界を覆い尽くし、フクロウの声がどこからか聞こえてくる。
夜風が、廃墟の都市に吹き付けている。
シオンが、この場所をわざわざ野営地としたのは、クレアとペイモンの教育のためだ。
魔人族への脅威を強く認識させる事。
そして、今ひとつの思案が、シオンにはあった。
シオンは、いつも通り、食事をつくり、クレアとペイモンにふるまった。
シオンの得意のクリームシチューである。
ビアンカに教わった得意料理で、シオンたちにとってはお袋の味のようなものだ。
食事が終わり、満足した後、シオンたちは食後の休憩をした。
一時間後、変異がおきた。
「予想どおり来たな」
と、シオンが独語した。
シオンは立ち上がり、廃墟の都市の奥に美しい碧眼をむけた。
「何事ですか?」
クレアが、異変を察知して立ち上がり、弓を構える。
ペイモンも、油断なく細剣を構えた。
「クレア、ペイモン。特別授業の開始だ。〈死霊司祭〉と、死霊系の魔物の大軍のお出ましだ」
シオンが、自身の黒髪を手で撫でつけながら言う。
シオンの視線の先に、青白く発光する魔物があらわれた。
クレアとペイモンが、全身に緊張のさざ波をたてる。
死霊司祭は、幽霊のように半透明だった。
顔は髑髏に似ており、聖職者のような衣服をまとい、右手に杖を持っている。人間に似ているが足がない。
宙空に不気味に浮かぶ様は、まさに幽霊だ。
死霊司祭の背後には、死霊が、百体ほどいた。
死霊〉もまた半透明で、宙空に浮かんでいる。
死霊司祭や、死霊のような死霊系の魔物は、幽霊系とも言われる。
人間の怨念、悪意、怨嗟などが、具現化したのが、死霊系の魔物である。特に〈死霊司祭〉は、死霊系でも高位の魔物で知能が高く、魔法が得意で多くの〈死霊〉を従えている場合が多い。
城塞都市ゼリアのような人が多く死んだ廃墟では、このような死霊系の魔物が発生しやすいのだ。
そして、それこそが、シオンがここに野営しようと決めた理由の一つだ。
クレアとペイモンに、死霊系の魔物との戦闘経験を積ませるのが目的である。
死霊司祭は死霊たちを従えて、シオンたちを半包囲した。
「死霊系の魔物は数多いが〈死霊司祭〉は実体がほぼなく、攻撃しにくい。クレア、ペイモン。お前たち二人だけで戦ってみろ」
シオンが、クレアとペイモンに命じる。
クレアとペイモンは無言で頷いて、前に出る。
死霊司祭の髑髏の眼窩の奥には赤い光が宿っていた。
その眼のような赤い光が狡猾に光る。
やがて、死霊司祭は後退して死霊たちの背後に隠れ、死霊たちに指令を下した。
百体の死霊たちが、一斉にクレアとペイモンに襲いかかる。
死霊たちは氷の魔法を発動した。
〈氷精の矢〉の魔法を唱えて、クレアとペイモンめがけて撃ち放つ。
五百を超える槍のように尖った氷が、クレアとペイモンめがけて宙空を走る。
ペイモンが、クレアをかばうように前に出て、〈結界魔法〉を無詠唱で発動させた。
ペイモンが、得手とする結界魔法は攻防ともに使える汎用性の高い魔法である。
瞬く間にペイモンの結界が展開し、宙空に翠緑色の円形の盾が出来た。
死霊たちの放った氷の矢が、ペイモンの結界魔法の盾に衝突して、宙空で爆ぜる。
氷を打ち砕く破裂音が連続して響き、氷の矢が破壊されて霧散した。
クレアが、ペイモンの結界魔法の盾を飛び越えて、死霊たちに躍りかかった。
閲覧ありがとうございます。
「面白い」「続きが気になる」と少しでも感じたら、ブクマ登録ならびに評価をして頂けると嬉しいです。ヤル気がでます。
下の画面の☆☆☆☆☆で、ポイントをつけて評価を出来ます。
宜しくお願い申し上げます。




