廃墟の都市
翌日の朝。
シオンたちは、城塞都市ライオスの冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドに入ると、依頼の紙が貼り付けてある場所に行き、依頼を見ていく。
依頼の内容は、『魔物退治』『迷宮にある魔導書を探して欲しい』、『薬草採取』、『要人の警護』、『剣術指南役募集』など様々だ。
「存外、色々な依頼があるのですね」
「ペット探しまであるのですぅ~」
クレアとペイモンが、興味深そうに依頼を見ている。
「軽い依頼でもやってみるか」
シオンが、呟く。
シオンとしては、特に冒険者としてのランクアップにも、業績を上げることにも興味はないが、それなりに活動した実績が欲しい。
「何か面白い依頼でもないかな」
とシオンが言うと、クレアが黄金の瞳を一つの依頼書にむけた。
「シオン様、不思議な依頼があります」
クレアが指をさす。
シオンとペイモンが、依頼の張り紙を見る。
その張り紙には、
『幻影城の探索』
と書いてあった。
「幻影城?」
シオンが、心中で小首を傾げる。
読んでみると、城塞都市ライオスの北西に、時折、幻のように優美な城が現れる。その城は、砂漠の陽炎のように一定時間が経過すると消えるらしい。
非常に不気味で、付近の農村の住民が怖がっているそうだ。
今の所、被害はないそうだが、万が一、魔人族や魔物の仕業だとすると思わぬ災害が引き起こされる可能性がある。
よって調査をして欲しいという。
「幻の城だから、幻影城ですか」
「ロマンチックなのですぅ~」
クレアとペイモンが、なぜかウットリとする。歌劇の影響がまだ残っているのだろうか。少し、ロマンチストになっているようだ。
「ま、取り敢えずこれにするか」
シオンはそう決定した。
◆◆◆◆
シオンたちは食料の買い込みを終えると、すぐに『幻影城』の調査のため、城塞都市ライオスから進発した。
箱馬車に乗り、北西を目指す。
目的地の『幻影城』は城塞都市ライオスから、北西に箱馬車で四日の距離である。
石畳の道の上を、シオンたちを乗せた箱馬車が進んでいく。
地球の古代ローマ街道のように三層の石で舗装され、場所用と歩道用に分かれてある道は、非常に快適であり、馬車の走行が非常にスムーズである。
このような舗装された街道は、大陸全土にある。
過去の来訪者たちの叡智の賜物であり、同時にパリス王国の国力の強大さを示すものだ。
二日後の夕刻。太陽が西に沈みかけた頃。
ふとクレアが、何かに気付いた。
そして、黄金の瞳に驚愕の表情を浮かべる。
エルフの優れた視力で、遙か遠方にある光景を視認したのだ。
「シオン様、あれは一体なんですか?」
クレアが、驚きをあらわにして尋ねる。
やがて、人間族のペイモンにも遠くに見える光景が瞳に映り込む。
「大きな廃墟があるのです」
ペイモンが、翠緑色の瞳に怯えたような色をよぎらせる。
やがて、シオンたちの眼前に広大な廃墟の都市があらわれた。
曇天の空の元、淡い陽光が、巨大な廃墟の都市を照らし出す。
塔、城、城壁、住居、街路に至るまで全てが破壊されている。
人間の骨があちこちに散乱し、苔があらゆる場所に生えている。
「魔人族に滅ぼされた城塞都市だ」
シオンが静かに告げた。
シオンが実家で読んだ本に書いてあった。
今から八年ほど前に、突如現れた魔人族の集団によって、この城塞都市は滅んだ。
この都市の名は、『ゼリア』。
魔人族の集団によって、一夜にして滅ぼされた都市だ。
「こんな大きな都市が一夜で滅んだのですか……」
クレアが、端麗な顔に恐怖の表情をよぎらせた。
「シオン様ぁ~。どうして、魔人族はこの都市を襲ったのですか?」
ペイモンが、問う。
「理由はない。魔人族にとって人間族の都市や街、村を滅ぼすのは遊戯にすぎない」
シオンが、説明する。
魔人族は、生まれつき人間族を遙かに超える魔力と身体能力を有している。そして、その性格は、残忍非道である。
魔人族は人間族を侮蔑し、敵視しており、時折、衝動的に人間族の都市や街を襲い、そこに住む人間族を皆殺しにする遊戯をする。
衝動的に人間族の都市や村を襲うので、逆に奴らの計画を読みにくく、人間族側としては防衛の対処が遅れて街ごと滅ぼされるケースが多々ある。
「都市を遊戯で滅ぼすのですか?」
クレアは戦慄した。




