貴族の義務
一年前のある日。
クレアとペイモンは、シオンの祖父エルヴィンに呼び出された。
そして、エルヴィンは、クレアとペイモンに、
「旅の間に、シオンに貴族の嫡男としての自覚を持つように諭して欲しい」
と懇願されたのだ。
ヴァーミリオン伯爵家には、現在、エルヴィンと孫のシオンしかいない。
シオンが、結婚して子をなさなければ、ヴァーミリオン伯爵家は断絶してしまう。
よってエルヴィンとしては、シオンが婚約者たるクレアとペイモンを正妻として娶り、子を作ることを心から望んでいる。
また、クレアとペイモンだけでなく、他にも幾人か正妻を娶って子を作って欲しいと考えていた。
ヴァーミリオン伯爵家は、病気で早逝する者が多い。
正妻がクレアとペイモンの他にも数名いれば、エルヴィンとしては安心である。
「そなたら二人にしか出来ぬ事だ。どうか、この老骨の頼みを聞いてやってくれ」
と、エルヴィンはクレアとペイモンに哀願したのだ。
◆◆◆◆
「そういうことか……」
シオンは、クレアの説明を聞き終えると、黒髪を後ろに撫でつけた。
そして、胡座座りのまま少し後ろに身体を仰け反らせて、天井を見る。
(祖父の言い分にも一理ある)
とシオンは思う。
シオンは、ヴァーミリオン伯爵家の一人息子なのだ。育ててくれた祖父エルヴィンには返しきれない恩義がある。
それに「貴族の義務として妻を娶り、子を作れ」、というのは正当な要求だ。ヴァーミリオン伯爵家が途絶えるかどうかの問題だとあっては、祖父エルヴィンが、必死になるのも当然だろう。
ふと、シオンはクレアとペイモンに碧眼をむけた。
「クレアとペイモンに質問がある」
「なんでしょうか?」
「なんでも聞いて欲しいのです」
クレアとペイモンが、ネグリジェ姿のまま答える。
「俺が、クレアとペイモン以外の正妻なり側室なりを迎えても二人は構わないのか?」
「もちろんです」
「貴族なのだから、それが普通なのです」
クレアとペイモンが、即答する。
「それに……、私は一人っ子でしたし、もちろん、ペイモンが、いましたけど……。母しか家族がいませんでしたので、家族は多い方が嬉しいです……。正妻同士は大切な家族でもありますので……」
クレアが、照れたような微笑を浮かべる。
「ペイモンも、正妻が沢山いる方が賑やかで楽しいし、嬉しいのです」
ペイモンが、朗らかに言う。
正妻同士は、夫を助ける仲間であり、家族でもある。
正妻同士が、姉妹のように仲良く暮らしている家は多くある。もちろん、その逆に正妻同士や側室同士の仲が悪い家もあるが……。
「シオン様」
クレアの声でシオンは思惟から引き戻った。
「どうか、私とペイモンを正妻として認識する事、そして、正妻候補を幾人か見つけることを前向きにお考え下さい。ことはヴァーミリオン伯爵家の浮沈に関わること。パリス王国建国以来の名家たるヴァーミリオン伯爵家五百年の歴史を絶やさぬように伏してお願いいたします」
「お願いするのです」
クレアとペイモンが、同時に頭を垂れた。
「……分かった。考えておく」
シオンは肩を竦めた。
自家の浮沈に関わるとまで言われると、シオンとしても真摯に受け止めるしかない。
(しかし……)
シオンはふとクレアとペイモンを見る。
銀髪金瞳のエルフの少女クレア。
亜麻色の髪と翠緑色の瞳をもつ人間族の少女ペイモン。
二人の美少女は、ベッドの上に座り、薄いネグリジェ姿でシオンに肌を晒している。ネグリジェの生地が薄いので、下着をつけていない胸と腰の下着が、ハッキリと透けて見える。
男の俺の前にこんな姿を晒して無防備でいるクレアとペイモンに、子供を産む行為がどういうものなのかちゃんと認識しているのか疑問だ。
だが、口に出してはシオンは、
「今後、真剣に検討する。今夜はもう寝よう」
と言った。
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