悲劇の王女たち
舞台の上に魔法の明かりが投射され、スポットライトのようになった。 そこで一人の壮年の俳優が出て来て、一礼し、今夜の演目について話し始めた。
歌劇俳優だけあり、美声である。
第一の演目は、『ローランの火竜退治』。この国では誰もが知っている古典的名作である。
英雄ローランが、火竜を退治する物語だ。
第二の演目は、『シュトラウス王国の双姫』
こちらも有名な演目だ。
パリス王国では、誰もが知る悲劇の話。
シュトラウス王国という今は滅びた王国の美姫たちの話。
アンネローゼ王女とエレンディア王女という二人の姉妹に訪れた悲劇の物語だ。
「どうぞ、皆様、今宵は当劇場が織りな夢の世界をご堪能下さい」
歌劇俳優が、一礼する。
同時に闇が落ちる。
劇場が完全な闇になる。
刹那、舞台前のオーケストラの団員達に光りが当たり、舞台にも光りが当たる。
第一の演目。『ローランの火竜退治』が開始された。
(想像以上に面白い)
とシオンはわずかに身を乗り出した。
古典的な作品だが、俳優達の演技が素晴らしいので、劇に引き込まれる。火竜は、木材と金属で出来たハリボテだと理解しているが、男優、女優、双方ともに演技レベルが高いので、ハリボテの火竜が本物に思えてきた。
男優の衣装、女優の衣装。双方ともに豪華だが、女優の衣装は特に良い。
薄い生地で、肌の露出が多い。
股間にわずかな布地しかない美女の姿などは全裸よりもエロチックである。
特に火竜の生贄にされて鎖で縛り付けられる姫君は、美しく官能的である。
両手両足を縛られて、下半身はかろうじて局部のみを覆う腰の布地。上着は所々、破れていて色々、チラチラ見える。
美女が緊縛されて、官能的に腰をふり、苦痛に喘ぐ。そして、その度に苦悶で身体を震わしながら歌う。
そして、身体が震えるとチラチラを局部をおおうフンドシのような衣装がゆれる。
たまらん!
第一の演目。『ローランの火竜退治』は満足のうちに終わった。
観客が拍手する。
休憩が入った。
そして、20分ほどで、第二の演目、『シュトラウス王国の双姫』が、開演した。
舞台はシュトラウス王国という国だ。
百年以上前、シュトラウス王国には二人の美姫がいた。
名はアンネローゼ王女とエレンディア王女という。
二人は姉妹で、姉のアンネローゼ王女は10歳。妹のエレンディア王女は9歳。二人とも幼いが、母親譲りの美貌を受け継いでいた。
やがて、シュトラウス王国に暗雲が立ち込める。
王国に伝染病が蔓延したのだ。
王族、貴族、国民の多くが病に倒れ、人々は絶望に喘ぐ。
アンネローゼ王女とエレンディア王女は、土着の精霊に人々の病気の平癒と被害の沈静を祈る。
ある日の夜。
アンネローゼ王女とエレンディア王女の寝室に精霊が姿を現した。
古代からこの地に棲む土着の精霊で、その精霊は強大な力を持っていた。
精霊は二人の姫君に囁く。
「お前達二人の命と引き換えに国から疫病を除いてやろう。もし、国と民を救いたければ私が与えた短剣で自らの胸を刺して死ぬが良い」
土着の精霊は、二人に美しい短剣を渡した。そして、姿を消す。
朝になると二人の姫君は、父王に謁見し、事の次第を告げた。
そして、二人の姫君は自死する事で、国を疫病から救いたいと願い出る。
二人の姫君を溺愛する父王は、
「そのような事は許さぬ。お前達二人の命より貴きものは、この世にない」
と言い、二人の姫君に死ぬことを禁じる。
だが、その夜、アンネローゼとエレンディアは精霊の短剣で自殺した。
アンネローゼは妹のエレンディアの胸を短剣で突き刺した。
そして、エレンディアも姉のアンネローゼの胸を短剣で突き刺した。
互いの心臓を姉妹で突き刺し合って死に、ベッドが血で染まった。
翌朝、二人の姫君が死んだ事を知った父王は嘆き悲しむ。
だが、その日以降、シュトラウス王国から疫病が奇跡のように消えた。
精霊が、二人の姫君の命と引き換えに疫病を消滅させたのだ。
そして、国民は二人の姫君を讃えて祈り、父王もアンネローゼとエレンディアの冥福を祈る。
そして、舞台は終わった。
観客席から万雷の拍手が鳴る。
シオン、クレア、ペイモンも心から拍手した。
ストーリーは単純で暗い。
だが、演出が巧みで、俳優たちの演技が素晴らしかった。
二人の幼い姫君の悲壮な覚悟に、胸が熱くなる。
俳優達が全員、舞台の上に立ち、観客席からさらなる拍手の渦が巻き起こる。
クレアとペイモンは、うっすらと感動の涙を流していた。
シオンも涙腺が緩むのを必死で抑えた。
やがて、照明が変わり、劇場が非日常から、日常の空間に戻った。
舞台の幕が下りた。歌劇の終了だ。




