揚げドーナツ
シオンたちは四頭立ての箱馬車に乗り、グライアの街を出た。そして、城塞都市ライオスに向かった。
途中で魔物に遭遇する事もなく順調に進み、三日後の朝、城塞都市ライオスに到着した。
今回は奮発して、最上級の宿屋に泊まることにした。
ダンジョンで相当量の黄金を手に入れたし、牛頭怪物の財宝も手に入ったからだ。
箱馬車を宿屋の店員に預け、豪奢な石造りの建物に入る。
シオンたちの泊まる部屋は広く、10人は楽に泊まれる広さがあった。
実家のヴァーミリオン伯爵家の城と比べれば、調度品も家具類も劣るが、十分に豪勢な部屋だ。
シオン、クレア、ペイモンは部屋の中央部に丸いテーブルについた。
シオンは椅子の背にもたれながら、城塞都市ライオスの観光名所案内を見ながらどこを観光するか考えた。
歌劇場が、シオンの目にとまった。
(歌劇か……)
悪くないな、シオンは思う。
「クレア、ペイモン、歌劇場で歌劇を観たいか?」
「歌劇を見せて頂けるのですか?」
「凄いのです!」
クレアとペイモンが、顔を輝かせた。興味津々である。
クレアとペイモンは、ヴァーミリオン伯爵家にいた頃、多くの本を読んだ。その中には歌劇の題材となる本も多数あり、クレアとペイモンは歌劇に憧れていた。
「で、できれば歌劇を観たいです」
クレアがモジモジとし、頬を染めて黄金の瞳を上目遣いにする。
「ペイモンも歌劇が観たいのです!」
ペイモンが、テーブルの上に身を乗り出した。
「分かった。歌劇場に行ってみよう。そして、席が取れるようなら歌劇を観ることにしよう」
シオンが告げると、クレアとペイモンが顔を見合わせてハイタッチした。
宿屋を出るとシオン達は、歌劇場を目指した。
人混みでごった返す街路を歩いて、歌劇場にむかう。
歌劇場は中央市街地にあり、そこは歓楽街として有名な場所であった。
石畳の街路は整然としており、幅は五十メートル以上ある。
馬車の通る道と歩道とで別れており、二十一世紀の日本のように左側通行となっていて、四車線があり馬車が車のように行き来している。
車線があるのは、便利である。流通量が飛躍的に上がる。その分だけ物流が盛んになり、経済が活性化する。
車線があるのは、おそらく地球人の「来訪者」の仕業だろう。
やがて、円形の広場に出た。
歌劇場は広場の奥。一番目立った場所にある建物だ。
壮麗かつ巨大なコンクリート製の歌劇場だった。
凝灰岩と石灰岩の2種の砕石を混ぜたローマン・コンクリートと建築で、外観の装飾も見事だった。
「豪華な建物ですね」
「綺麗なのです」
クレアとペイモンが、感心した表情を浮かべる。
シオンは歌劇場の受付で、歌劇場の入場券を三枚購入した。
演劇が開始されるのは、夜8時。大型の振り子の時計塔が、街中に多数設置してあるので、時間に遅れることはないだろう。
シオンは、入場券を手提げ鞄に入れた。
その後、中央市街地を当てもなく彷徨った。
景観が良いので歩くだけで楽しい。
露天が各処にあり、うまい匂いがしてきた。
ふいに懐かしい匂いがした。
前世で、日本人だった時、これと似た匂いを嗅いだことがある。
シオンが碧眼をむけると揚げドーナツが露天で売っていた。
「クレア、ペイモン。揚げドーナツを食べるか?」
「シオン様が、食べろと仰せならば食べます」
クレアは、近衛侍女としての慎みを持って答えた。
「ペイモンはたくさん食べたいのです!」
ペイモンは欲望を優先させた。
シオンは、自分用に1個。クレアとペイモンに3個ずつ買った。
紙袋に包まれた揚げドーナツは、砂糖がまぶしてあり、熱々で旨そうだ。丸い団子のような形をしており、大きさは野球ボールくらいある。
シオンは、パクリと揚げドーナツを食べた。
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