ミノタウロス
シオン達は、ダンジョンを進んだ。
そして、大刃蟷螂、大鶏尾蛇、死屍鬼騎士などの魔物を倒していく。
五時間後、シオン達は、199階層に到達した。
199階層に到達した直後、シオンは感知魔法を発動し、
「この階層に迷宮守護者がいる」
と断言した。
「この階層にいるのですね」
「緊張してきたのです……」
クレアとペイモンの全身に緊張が走る。
「心配しなくていいぞ。俺がいる。クレアとペイモンは俺のサポートに徹しろ。危険だと感じたら俺をおいてすぐに逃げるように」
「し、シオン様をおいて逃げることなどできません!」
「シオン様の盾になって死んでも御守りするのです!」
クレアとペイモンが、叫ぶような語勢で言う。
「お前達の忠誠心は嬉しいが、これは命令だ。俺が本気で戦闘する場合、局地的な天災にも等しいものとなる。その場合、俺は安全でもお前たちの命が危ない。
だから、本当に『危険だ』と感じたら、絶対に逃げろ」
シオンが、二人の近衛侍女に諭すように言う。
クレアとペイモンは、しばし沈思し、互いに視線を交差させた。やがて、不承不承ながら頷いた。
「二人とも偉いぞ」
シオンは心から褒めた。
「ま、このダンジョンの迷宮守護者程度なら、楽勝だがな」
シオンが、アダマンタイトの長剣を抜いた。
やがて、巨大な扉の前にたどり着いた。
高さが十メートル以上ある扉で、宝玉が埋め込まれた華美な装飾がなされていた。
「扉の奥にいるのが、私にも分かります」
「強いのです」
クレアとペイモンが、ごくりと唾を飲んだ。
クレアとペイモンの感知魔法でも十分に理解できる。
この迷宮守護者は、大鶏尾蛇の数十倍の強さを持っている。
「さて、行くか」
シオンが気軽な口調で言い、〈魔力衝撃波〉を扉にむけて放った。
巨大な扉が、シオンの〈魔力衝撃波〉で吹き飛んだ。
シオンが、中に進む。
クレアとペイモンも後に続いた。
シオン達の視界に広大な空間が映り込む。
丸い半球形のドーム型の空間だった。
各処に巨大な岩や砂地の丘があり、起伏が激しい。
シオンが、迷いない歩調で前に進む。
やがて、シオンが立ち止まり、前方の丘に碧眼をむけた。
クレアとペイモンも、立ち止まり丘の上に視線を投じる。
「います……」
クレアが、緊張をはらんだ声を出した。
「あの丘の向こうに迷宮守護者がいるのです」
ペイモンが、翠緑色に緊張の波をゆらす。
その直後、巨大な咆吼が轟いた。
轟音で大気がゆれる。
牛と人間の叫び声が混ざったような咆吼だった。
そして、咆吼とともに迷宮守護者が、丘の上に出現した。
「〈牛頭怪物〉!」
クレアが、鋭く叫ぶように言う。ペイモンが、怯えて身構えた。
シオンが冷静に碧眼を〈牛頭怪物〉にむける。
牛頭怪物は身長三メートルほどもある。
頭部は牛に似ており、赤い眼が生者への憎しみで炯々と光っていた。
頭部から下は人間の身体に似ており、全身が隆々たる筋肉におおわれ、その上にアダマンタイトの鎧をまとっている。
右手にはアダマンタイトの戦斧を握りしめていた。
(迷宮守護者だけはある。大鶏尾蛇とは雲泥の差だ)
シオンが、心中で感心する。
シオンは、牛頭怪物の戦闘能力をざっと測った。大鶏尾蛇の20倍はあるだろう。
牛頭怪物が、再び吼えた。
牛の目に殺意を宿してシオン達を見据え、召喚魔法を展開した。
牛頭怪物の周囲の地面に魔法陣が浮かぶ。
やがて、赤黒い光を放った魔法陣から、屍肉騎士が出現した。
屍肉騎士は、A級の魔物である。
シオンは屍肉騎士の戦闘能力を測り、クレアとペイモンだけでも十分倒せると即座に判断した。
「クレア、ペイモン。戦闘訓練だ。お前達だけで、屍肉騎士を倒せ。俺が〈牛頭怪物〉を倒す」
「はい!」
クレアが、弭槍を構える。
「了解なのです!」
ペイモンが、細剣を構えた。
直後、屍肉騎士の群れが、シオン達めがけて襲いかかってきた。
シオンは跳躍した。
身体強化魔法で、身体能力を強化して、〈牛頭怪物〉の前まで一気に跳躍する。
そして、牛頭怪物めがけてアダマンタイトの長剣を振り下ろした。
牛頭怪物は、後方に下がって、シオンの斬撃をよけた。
「反応が良いな。褒めてやるぞ」
シオンは心から褒めた。
牛頭怪物が、怒りの叫び声を上げる。
丘の上で、シオンと牛頭怪物が激突した。
牛頭怪物が、アダマンタイトの戦斧を振り下ろす。シオンが、長剣で斬撃を弾き返す。
牛頭怪物が、戦斧を振り回して波状攻撃をしかけるが、シオンがアダマンタイトの長剣で、それらを難なくかわし、弾き、受け止める。
シオンに取っては気軽な剣撃の練習のようなものだった。
牛頭怪物(ミノタウロス〉は強い。決して弱い魔物ではない。だが、シオンはそれを遙かに上回る戦闘能力を持つ怪物なのだ。
シオンは牛頭怪物と戦いながら、横目でクレアとペイモンの様子を見た。
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