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羊肉のサンドイッチ

シオンは無視して、羊肉をフライパンで焼き続けた。


「あ、あのシオン様。後ろに大鶏尾蛇コカトリスが二体いるのですが……」


 クレアが、シオンの小声で注意する。小山のように大きな大鶏尾蛇コカトリスが、ズシン、ズシンと足音を響かせてすぐ近くを徘徊する。


「ああ、知っているよ。魔物はカンが良いからな。なんとなく感覚的に俺たちを探っているんだろう」


 シオンが、大鶏尾蛇コカトリス二体に背をむけた状態で言う。


 大鶏尾蛇コカトリスは、シオンの言うとおり、カンでこの場に来た。


 魔物の本能が働き、なんとなく不穏な空気を感じ取ったのだ。


 シオンの魔法障壁と隠蔽魔法は高度で、二体の大鶏尾蛇コカトリスは、シオン達の気配、魔力、音、生命反応を感知できなかった。


 だが、野生の直観で、シオンのいる辺りを訝しげに見る。


「な、なんだかペイモン達が見えている気がするのです」


 ペイモンが、クレアの腕をとって後退る。

 二体の大鶏尾蛇コカトリスが、クレアとペイモンのいる辺りを赤い瞳で窺っているのだ。


 シオンはなおも完全に無視して、背をむけたまま料理をしていたが、さすがに鬱陶しくなってきた。


「なんだか、料理に集中しにくいな」


 シオンは、フライパンを持ったまま後ろも見ずに背後の大鶏尾蛇コカトリス二体にむけて魔法を発動させた。


 シオンの〈魔力衝撃波〉が、二体の大鶏尾蛇コカトリスに直撃し、轟音が弾けた。

 大鶏尾蛇コカトリスの巨体が、五十メートル以上も後方に吹き飛ぶ。


 同時にシオンは、〈理力フォース〉で、大鶏尾蛇コカトリス二体の心臓を破壊した。


 〈理力フォース〉は物体を操作する魔法である。


 それを応用すると、敵の心臓や脳だけを破壊することも可能なのだ。

 二体の大鶏尾蛇コカトリスは、一瞬で絶命して地面に倒れた。


 クレアとペイモンが、ポカンと小さく口をあけて佇んだ。


 あまりのシオンの強さに茫然とする。

 シオンは、フライパンで羊肉を焼きながら、S級の魔物二体を倒してしまったのだ。

シオンが強いことは理解していた。


 だが、その強さを何度見てもクレアとペイモンは驚愕してしまう。

シオンは黙々と料理に熱中し、やがて、


「よし、出来た!」


 と端正な顔に笑みを浮かべた。

 


    

シオンが作ったのは羊肉のサンドイッチである。

 塩コショウで焼いた羊肉と、レタス、火であぶったとろけるチーズを黒パンでサンドイッチにしたものだ。


 単純な料理だが、サンドイッチには羊肉の肉汁が滴り、チーズの匂いとともに何度も美味そうな香りを漂わせている。


 シオンは料理のセンスが良いので、見た目も良い。

 シオンたちは焚き火のまわりに座ると、皿の上においたサンドイッチを食べた。


 シオンが、羊肉のサンドイッチを豪快に頬張る。


 咀嚼すると羊肉、チーズ、レタス、黒パンの硬い感触が、口内で溢れる。肉汁が、チーズとあいまって芳醇な味わいがする。


「うん。我ながら良い出来だ」 


 シオンが自画自賛する。


「お肉とチーズが口の中でとろけます……」


 クレアが、幸福そうな顔をする。


「とっても美味しいのです」


 ペイモンが、満面の笑みとともにバクバクと食べる。

 この地方は牧畜が盛んで、牛や羊の肉やチーズが美味い。

 材料が良いと、こういう単純な料理でも非常に旨いものとなる。


 最近、牛肉ばかりだったので、羊肉というのも新鮮だ。

 三人とも、腹が減っていたので、シオンはサンドイッチを四つ、クレアとペイモンも三つほど食べた。


 食事が終わると風呂の用意をはじめた。

 実家で作って持参した木製の巨大な風呂桶を〈収納魔法〉で取り出す。


 風呂桶は、5人くらいが入れる巨大なものだ。

 そこにシオンは水魔法と火魔法でお湯を満たす。


 そして土魔法で壁を作り上げて、風呂桶の四方を囲った。

 土で壁を作ったのは気分的な問題である。


 シオンたちがいる空間は広すぎて落ち着かないのだ。壁をつくって狭い空間にした方が気分良く入れる。


「まさか、ダンジョンでお風呂に入れるとは思いませんでした」


 クレアが、服を脱ぎながら嬉しそうに言う。


「汗をたくさんかいたからお風呂が嬉しいのですぅ~」


 ペイモンが、下着を脱ぎながら言う。

 シオンも服を脱いだ。そして、三人は風呂桶に浸かる。


「極楽だなぁ~」


 とシオンは呟いた。


 日本人としての意識が強く残っているので、風呂が楽しくて仕方ない。

 風呂に入り、さっぱりするとシオン達は天幕の中に入った。 

 天幕にある実家から持ってきた天蓋付きの大きなベッドに入る。

 そして、シオン、クレア、ペイモンはいつものように川の字になって寝た。

 

  

◆◆◆◆



翌日。三人は鋭気を養い、すっきりとした表情で目覚めた。

 クレアとペイモンも精神的な疲労がぬけて、心身ともに万全の状態になった。


 シオンはクレアとペイモンの魔力を見た。

 魔力をみるとその人間の総合的な戦闘能力をある程度読み取れるのだ。


(クレアもペイモンも、ずいぶん強くなったな)


 シオンは心中で微笑した。

 クレアもペイモンも、ダンジョンに入る前と現在では全くレベルが違う。

 多くの魔物を倒した事で、大量の魔力を取り入れ、強くなっている。


 当然、シオンもレベルアップしている。


 準備を整えて、軽い朝食を食べた。


 そして、天幕を片づけると迷宮守護者討伐にむけてダンジョン探索を再開した。


「クレア、ペイモン。体調はどうだ?」


 シオンが一応、口頭で確認する。


「心身ともに絶好調です」

「ぐっすり寝れて疲れたが取れたのです」


 クレアとペイモンが、溌剌とした笑顔を見せる。


「よし。じゃあ、今日こそ、迷宮守護者討伐に行こうか」

「承知致しました」

「了解なのです」

 




 


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