コカトリス
125階層までシオン達は到達した。
前衛はシオン。後衛はクレアとペイモン。
シオンが、アダマンタイトの長剣で魔物を薙ぎ払い、クレアが弓矢で後方から狙撃。ペイモンが、結界魔法で全員をサポートする作戦で進んだ。
シオン一人で、魔物を全て討ち取る事も可能だが、クレアとペイモンにも戦闘訓練を積ませないといけない。
よって、シオンは魔物の一割程はクレアとペイモンが倒すように指導して戦闘した。
クレアとペイモンは、昨日シオンに作ってもらったアダマンタイトの武器の破壊力に瞠目していた。
クレアの弓矢は、一撃で複数の魔物を貫通して倒し、ペイモンの細剣は、バターのように魔物を切り裂いた。
眼前の魔物を全て倒した後、クレアは感歎の思いとともに口を開いた。
「シオン様の下さったこの弓は本当に凄いです」
クレアの弓に付与された〈風霊の加護〉は、風の大精霊シルフの加護が付与されている。
クレアの放った矢は、最上級の風系統魔法の威力に比する攻撃力が出せるのだ。
「アダマンタイトの武具の長所がそれだ。付与した魔法の力以上の威力を産み出すことも出来る。それに俺とクレアは〈誓約〉で魂が連結しているから俺の魔力を供給できる」
シオンが説明を続けた。現段階のクレアのレベルでは、風の大精霊シルフの加護を使用すると魔力がすぐに枯渇してしまう。
だが、シオンとクレアは〈《眷臣の盟約》〉で誓約し、魂と魔力が一部連結している。
よって、シオンの膨大な魔力を供給できるので、クレアは魔力切れを心配せずに弓矢を使える。
そして、クレアがレベルアップすれば、今以上の威力を出せるようになる。
「必要があれば、クレアとペイモンにまた武器や防具を作ってやる。だが、まあ、今の所はこの程度で十分だろう」
「この程度というには凄すぎる武器な気が致しますが……」
クレアは畏れ多いという表情をつくった。風の大精霊シルフの加護が付与された弓など持っている者がいるのだろうか?
「ペイモンは、この細剣だけでも十分に思うのです」
ペイモンが、素直に答えた。
この細剣で攻撃すると魔物を水を切るように切断できる。これ以上の武器が必要とは思えない。
「二人とも存外無欲だな。強欲よりは遙かに良い美徳だ。偉いぞ」
シオンは二人の美少女を褒めると先に進むように命じた。
◆◆◆◆
百五十八階層まで到達した。
魔素は益々濃くなり、禍々しい空気が淀んできた。
ダンジョンの通路は巨大になり、幅は最低でも百メートル以上となった。
「魔物のレベルが一段上がったな」
シオンが、感知魔法で魔物のレベルを感知した。
「クレア、ペイモン。奥の通路から魔物がくるぞ。〈大鶏尾蛇〉だ」
シオンが、注意をうながすと同時に、通路の奥から大鶏尾蛇が姿をあらわした。
体長は二十メートルほど。
鶏に似た顔。体躯も後ろ足も鶏に似ている。
尻尾は巨大な大蛇だった。
前足には太い鉤爪のある腕が生えている。
残忍かつ狡猾な表情が、赤い瞳に浮かんでいた。
大鶏尾蛇は、シオン達に赤い瞳をむけた。
そして、愉悦の笑声をもらす。
シオン達が年若い子供だったからだ。子供の肉は柔らかく美味い。久しぶりの上質の獲物に大鶏尾蛇は歓喜した。
「ギャォオオオオオオオオ!」
大鶏尾蛇が、奇怪な叫び声をあげた。
同時に大鶏尾蛇の顔の前に魔法陣が浮かび上がる。
〈石化〉の魔法を大鶏尾蛇が放った。
大鶏尾蛇は、シオン達の足首を石化させて機動力を奪い、生きたままシオン達を喰おうとしたのだ。
大鶏尾蛇の瞳に残忍が笑みがよぎる。
若い子供を生きたまま喰らう。人間の絶望に歪む顔と、絶叫を想像して、愉悦がこみ上げる。
だが、次の刹那、不可思議な事がおきた。
〈石化〉が、発動しないのだ。
シオン達の足首は石化していない。
大鶏尾蛇は、予想外の事態に戸惑った。
シオンが、アダマンタイトの長剣を握りしめて、大鶏尾蛇に歩み寄った。
その歩みは気負いもなく、怒りもなく、自然な歩調だった。
「〈石化〉は、無効化したぞ。お前ごときの魔法は俺には通用せん」
シオンの強大な魔力障壁が、大鶏尾蛇の〈石化〉を無効化したのだ。
〈魔法完全無効化能力〉は、シオンの得意な魔法の一つだ。
だが、その事を大鶏尾蛇は理解できなかった。
そして、シオンが自分よりも遙かに格上の怪物だということも大鶏尾蛇には理解できなかった。
「ギャアアアアアアアアアアアアア!」
大鶏尾蛇は怒りの咆吼をあげた。自分の思い通りにならない事態に苛立ち、シオンにむかって突撃する。
魔法がダメならば、クチバシで突き殺す。大鶏尾蛇は、そう判断したのだ。
シオンが、アダマンタイトの長剣を走らせた。
銀色の剣閃が宙空に走る。
それはあまりに美しく、あまりに速過ぎた。
剣閃が消えた直後、シオンの身体は〈大鶏尾蛇〉の後方にいた。
同時に大鶏尾蛇が、二十個以上に切断された。
大鶏尾蛇は、肉片となって、地面に倒れた。
自分が死んだ事さえも、大鶏尾蛇は気付かなかった。
クレアとペイモンは驚嘆した。
シオンの動きがあまりに速過ぎて、視認できなかった。
まるで瞬間移動のようにシオンが消えて、いつの間にか大鶏尾蛇は肉片となって絶命していた。
「なんという御方……」
クレアは無意識に呟いた。
クレアの胸中には、愛情、尊敬、崇拝、畏敬、感動、いくつもの感情が入り乱れていた。
ペイモンも、神に祈る信徒のような表情でシオンを見る。
二人の美少女の胸が、愛するシオンへの思いで震える。
クレアとペイモンも無意識に頬を染めていた。
そんな中、シオンはアダマンタイトの長剣を血振りした。
そして、碧眼を大鶏尾蛇の肉片に注ぐ。
(まだまだだな……)
とシオンは思う。
まだ前世の強さの千分の一程度だ。
剣技も魔法も全てが弱くなってしまった。
だが、落胆すると同時に仕方ないという気持ちも浮かんでいる。
なにせ俺は前世では百年以上かけてあの強さを手に入れたのだ。
まだ現世では生まれて十七年しかたっていない。
単純に努力の時間が違うのだ。
(ま、少しずつ強さを取り戻せば良いか……。前世での記憶と経験値があるし、これから旅の途中で多くの魔物を狩る。比較的短期間で全盛期の力を取り戻せるだろう)
シオンは首をふり、クレアとペイモンに顔をむけた。
「大鶏尾蛇の魔晶石があったぞ。それと素材回収を一応しておこう。大鶏尾蛇の内臓は薬の材料に適しているんだ」
「はい」
「了解なのです」
クレアとペイモンは、愛する男にたいして張り切って答えた。
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