アダマンタイト
シオンの碧眼が僅かに動いた。
〈雷精の射手〉の魔法を無詠唱で発動する。 強烈な雷が、宙空を迸り、オルトロスの全身を灼いた。オルトロスは全身を雷撃に受けて絶命し、床に倒れる。
クレアが、矢を放った。矢がオルトロスの頭に直撃しそうになる。
その寸前、オルトロスが、頭部をひねるように避けて矢をかわした。だが、矢は誘導ミサイルのように、天井近くで軌道を変えて、オルトロスの背中を直撃し、そのままオルトロスの心臓を破壊した。
オルトロスが苦悶のうめき声を上げて倒れる。
ペイモンは、〈結界〉の魔法を発動した。
小型の四角い〈結界〉が、オルトロスの頭部を囲み、そのまま結界が発光する。〈結界〉が消えると同時に、オルトロスの頭部が消滅した。
〈結界〉で空間ごとオルトロスの頭部を削り取ったのだ。
ペイモンは結界魔導師で結界系統の魔導を得意としている。
結界は防御にも向いているが、こうして攻撃する事も可能なのだ。
一瞬で、オルトロス三体を仕留めると、シオンたちはオルトロスの素材回収を始めた。
毛皮を剥いで、魔晶石を探す。運良く、一体が魔晶石を体内に持っていた。
(オルトロスは確かA級の魔物だったな)
シオンは魔物図鑑の記録を思い出す。
オルトロス程度で、A級の魔物とは随分と前世と現代の差が激しい。
オルトロス程度は前世の世界でランキングするなら、おそらくE級クラスの魔物だったろう。
シオンは収納魔法から、魔物図鑑を取り出して、オルトロスの魔晶石の値段を見た。
なんと、銀貨三百枚だった。
(随分と高く買ってくれるものだな)
シオンは軽い驚きを碧眼に映した。オルトロス程度の魔晶石にこんな値段がつくとは予想外だ。
シオンは素材と魔晶石を収納魔法で格納すると、さらに奥に進んだ。
やがて、シオンたちは六十三階層にまで到達した。
六百体をこえるS級やA級の魔物を倒し、魔力を吸収してレベルアップした。
やがて、シオンは岩壁に鉱脈を発見した。
シオンは岩壁に近づき、子細に観察し、数秒後に確信した。
「間違いない。アダマンタイトがあるぞ」
「アダマンタイトですか?」
「伝説級の金属です~」
クレアとペイモンが、端麗な顔に驚きの表情を浮かべる。
アダマンタイトはミスリルを超える希少性をもつ鉱石で、アダマンタイト製の武器、防具は国宝レベルである。
「ダンジョンは稀少金属の宝庫だからな」
シオンは前世でもダンジョンで金や銀、ミスリルやオリハルコンを調達していた。シオンにとっては慣れた作業である。
シオンは、医者のように岩壁を触診して進む。
やがて、シオンが立ち止まった。
「クレア、ペイモン。下がっていろ」
クレアとペイモンが、素速く後方に跳躍して下がる。
シオンは、右手に魔力を集中させた。
シオンの右手が、青い魔力光で輝く。
「しッ!」
シオンが軽い気合いの声とともに、右手の魔力を岩壁にぶちあてた。
〈魔力衝撃波〉である。
文字通り魔力を利用した衝撃波で、単純だが利便性が高い。
シオンの魔力衝撃波で、岩壁がひび割れて崩壊する。
山崩れのように岩肌が、破壊されて崩落した。
やがて、土塵がおさまり、内部が見えると銀色に輝く鉱脈が見えた。
「凄い……」
「綺麗なのです……」
クレアとペイモンは、アダマンタイトの鉱脈に心を奪われて見惚れた。
原石状態のアダマンタイトが、岩にまじってキラキラと銀色に光っている。
「錬成をはじめるぞ。よく見ておけ」
シオンが、地面に膝をついて、砕けた岩を物色する。
「勉強させて頂きます」
「ペイモンも、しっかり勉強するのです」
クレアとペイモンが、興味津々といった表情を浮かべる。
シオンは、融解魔法でオリハルコンを含んだ岩を溶かし、水魔法で冷却して、再結晶化をした。
そのサイクルをくり返す。そして、磁力魔法で、アダマンタイトのみを選別する。
やがて、アダマンタイトの巨大な結晶ができる。
その後、アダマンタイトの製錬を開始した。アダマンタイトを再度、融解魔法で溶かす。
そこに土魔法で生み出した鉄分を合金させる。
そして、アダマンタイトの結晶と鉄分を合金させながら、魔力で剣の形に変えていく。
物体を動かす〈理力〉の魔法を並外れた制御力で行使し、精錬する。
「シオン様は、なんでも出来るのですね」
「刀鍛冶みたいなのです……」
クレアとペイモンが、驚嘆の声をもらす。
やがて、シオンはアダマンタイトの長剣を作り上げた。
銀色に輝く刀身は、妖しい程に美しかった。
シオンは、自らが作り上げたアダマンタイトの長剣を手に持ち、握り具合と重さを確認した。
(久しぶりだが、上手くいったな)
まだまだ、腕は鈍っていなかった。
シオンは、少し離れた岩壁に歩み寄る。
そして、軽くアダマンタイトの長剣を袈裟斬りにふった。
斬撃が岩壁をバターのように斬った。
抵抗なく、豆腐を切るように岩壁が、切り裂かれた。
「なんて切れ味……」
「さすがシオン様なのです」
クレアとペイモンの目が驚愕に彩られる。
アダマンタイトの長剣は、殆どなんの抵抗もなく、硬い岩壁を斬ってしまった。こんな切れ味は見たことがない。
シオンは、アダマンタイトの長剣の刀身に碧眼をむけた。
アダマンタイトの刀身は発光したように銀光を発している。
(切れ味は良好だ。だが、少し刀身が目立ちすぎるな)
シオンは土魔法で鉄を生成した。
そして、アダマンタイトの表面に薄く塗装するように鉄分を付着させていく。アダマンタイトの長剣が、見た目はただの鋼鉄製の剣に見えるように細工する。
「クレア、ペイモン。どうだ? 普通の鉄製の剣に見えるか?」
「はい。鉄の剣にしか見えません」
クレアが、エルフの優れた視力で確認する。
「せっかく綺麗なのに~」
ペイモンが、やや不満そうに言う。
「アダマンタイトの長剣など持っていたら、目立ちすぎるからな」
シオンが苦笑する。
「次は、クレアとペイモンの武器をつくるぞ」
「わ、私たちにもアダマンタイトの武器を下さるのですか?」
「やったのです!」
クレアは驚き、ペイモンは嬉しさで拳を握りしめる。
「すぐに作る。二人とも、よく見ておけ。精錬はお手本になる人間のやり方を真似るのが一番だからな。これも勉強だ」
シオンの言葉にクレアとペイモンが頷く。
シオンは魔力を集中させて、武器を作り始めた。




