魔物の巣
十層に到達すると、買取価格がソコソコ高い魔物が出現しだした。
「〈一角豹〉だ。コイツは高いぞ」
シオンが宝を見つけた盗賊のような表情を碧眼に浮かべた。
一角豹は、豹に似た外見をした角ある動物型の魔物である。額にあるツノは、買取価格が銀貨一枚。中々良い。
そして、B級の魔物なのでシオン達が討伐しても不審に思われない。
「クレア、お前が仕留めろ」
クレアに戦闘訓練を積ませるために、シオンが命じる。
「はい」
クレアが、素速い動作で弓に矢をつがえて射る。
魔力のこもった矢が宙空を走り抜け、一撃で一角豹の胴体を貫き、心臓を破壊して絶命させる。
シオンが、一角豹の死骸からツノを剥ぎ取って収納魔法で保管する。
「この調子でドンドン行こう」
「了解です」
「はいなのです!」
クレアとペイモンが答える。
シオン、クレア、ペイモンは、B級の魔物を次々と討伐した。そして、素材を回収して行く。
やがて、シオンはダンジョンの一角に魔素が非常に濃い領域がある場所を発見した。
淀んだ邪悪な魔素が、その領域にたまっている。
こういう場所は、魔物が大量発生し易い。
「良い狩り場がある。行くぞ」
シオンが先導する。
三十分後、行き止まりの広間に行き着いた。
そこも岩場で地面は硬い砂地で、天井は三百メートルほどもある。
そして、あちこちに岩の柱がそびえ立っていた。
この階層には、光を発する苔が自生しており、光量は一定に保たれている。だが、この広場は心なしか、一際薄暗く気がした。
「なんだか、不気味ですね……」
「気持ち悪い感じがするのです」
クレアとペイモンは、魔素の異常さに気づき、警戒を強めた。
(成長したなぁ)
とシオンは嬉しく思った。
「ここは『狩り場』『魔素溜まり』『魔物の巣』と呼ばれる領域だ。ダンジョンにある魔素の濃度が濃い場所や、魔物が大量発生し易い場所を指してそう呼ぶ」
シオンが説明した直後、『魔物の巣』の各処で不気味な光が湧き起こった。妖しい光とともに数十体の魔物が出現した。
「〈死霊騎士〉か」
シオンが呟いた。
シオン達を包囲した魔物は、〈死霊騎士〉と呼ばれている。
外見は全身鋼鎧をつけた騎士で、全員が巨大な大剣、槍、斧などで武装している。
鎧兜の中身は空っぽで、ダンジョンで死んだ人間の怨念をエネルギーとして活動している。
現世と彼岸の狭間を行き交う存在である。
完全に破壊すれば、その魂は救われ、神々の元に召されると言われている。
死霊騎士達は、シオンたちを包囲した。
動きが手練れている。
死霊騎士達は、シオン達の実力を測り、かつ逃さないように連携して包囲を狭めている。
シオンは、探知魔法で死霊騎士達の数を把握した。総数は五十三体。
この程度ならば、クレアとペイモンだけで倒せるだろう。
「クレア、ペイモン。二人だけで倒せるか?」
「出来ると思います」
クレアが、弓に矢をつがえた。
「ペイモン達だけで倒せるのです」
ペイモンが、細剣を油断なく構え、四方に視線を配る。
「では二人だけでやってみろ」
「了解です」
「はいなのです」
クレアとペイモンが、ほぼ同時に答え、死霊騎士達に攻撃を開始した。
クレアが、エルフが得意とする樹霊魔法を無詠唱で発動させた。
魔物の巣の床が光り、そこから木の枝とツルが伸びて、死霊騎士達の足に絡まる。一瞬で、死霊騎士達が動きを止められる。
同時にペイモンが、同じく無詠唱で、結界魔法を発動する。
シオン、クレア、そして自分に魔法障壁を展開して防御。
そして、細剣に魔力を込めて、跳躍する。
ペイモンの肉体が宙空を弾丸のように走る。
そして、死霊騎士に細剣を突き刺す。
魔力を込めた細剣の一部が死霊騎士の鎧に触れると、爆発したように死霊騎士の鎧兜が吹き飛ぶ。
クレアは弓と矢に魔力を込めて、死霊騎士達に速射した。
魔力のこもった矢が、死霊騎士達を数体まとめて射貫く。射貫かれた死霊騎士達は爆発するようにして、鎧兜の破片を四散させる。
死霊騎士達は何とかクレアとペイモンに反撃しようとする。だが、クレアが、行使した樹霊魔法
(プラント・マジック)の木の枝とツルが下半身に絡まり、まともに動くことが出来ない。
あっと言う間に、死霊騎士達はクレアとペイモンによって全滅させられた。
後には、死霊騎士達の残骸の破片が残るだけだった。
「死霊騎士の鎧の破片は素材として買い取ってもらえる。それと魔晶石があったら、探してくれ」
シオンが命じる。
魔晶石とは魔力のこもった鉱石である。
魔物の体内に魔晶石がある場合もあり、冒険者ギルドで買い取って貰えるのだ。一般的に高レベルの魔物の魔晶石の方が値段が高くなる傾向がある。
「魔晶石を見つけたのです!」
ペイモンが、赤い魔晶石を指でつまんで高くあげた。
「綺麗ですね」
クレアが、感嘆の吐息を出す。
魔晶石は、赤いルビーのように輝いていた。
魔物の巣で、シオン達は死霊騎士達の素材と魔晶石を手に入れた。
死霊騎士はちょうどB級の魔物なので、B級冒険者であるシオン達が討伐するには適してる。大成功と言って良いだろう。
「クレア、ペイモン、見事だ。強くなったな」
黒髪碧眼の少年が褒めると、クレアとペイモンは頬を染めて喜んだ。
シオン達は気分を良くして、魔物の巣を去った。




