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準備

 パリス王国にあるヴァーミリオン伯爵家。

 パリス王国建国以来の名家であり、尚武の気風で知られる家系である。


 ヴァーミリオン伯爵家の居城は、レンガ作りの白い豪壮な城塞で、城の各処には、ヴァーミリオン伯爵家の紋章である黄金の有翼獅子グリフォンの紋章が刻まれている。


その城に併設してある小屋で、三人の少年少女が、何かを熱心に作っていた。


 一人は黒髪碧眼の少年。端正な顔立ちをしており、細身だが引き締まった肉体をしている。

 名前をシオン=ヴァーミリオンという。年齢は一六歳である。このヴァーミリオン伯爵家の次代の当主だ。


少女の内の一人は銀髪金瞳のエルフだった。

 エルフ特有の神秘的な美貌を有し、形の良い胸、細い腰、優美な手足をしていた。

 彼女の名はクレア=ペルガモン。年齢は一二歳。

 シオンの近衛侍女である。

 


 もう一人の少女は、亜麻色の髪と翠緑色エメラルドグリーンの瞳をしていた。クレアには及ばぬまでも十分に美しい容貌をしており、愛らしい顔立ちだった。

 大きな胸と細い腰、優美な手足をしている。

 彼女の名は、ペイモン=トリグラフ。年齢は一二歳。

 クレアと同じく近衛侍女である。

どことなく子犬のような愛嬌のある少女だ。



 現在、シオン、クレア、ペイモンの三人は一年後の旅立ちにむけて準備中だった。

 旅立ちとは、冒険者として活動する事である。

 パリス王国の貴族は家督を継ぐ前に騎士か冒険者として活動して世間を知る修行をする。

 修行は大体一六歳から、一八歳くらいに開始されるのが通例であり、シオンは既に、一年後に一七歳になったら、冒険者として活動しようと決めていた。


(ま、冒険者として活動よりも、ノンビリと旅行を楽しむのがメインだけどな)


 とシオンは胸中で思う。


 前世では、《英雄》朝木玲司として三百年間働き詰めだった。自分で言うのもなんだか、相当、世のため人のために貢献した。

 現世で、旅行ぐらいしても罰は当たるまい。


 前世では、仕事で大陸中をまわったが、仕事で行くのと旅行で行くのでは、全く違ったものになるだろう。

 当然、街の様子や、文化、風習も異なっているだろうし、新鮮な旅を満喫できるに違いない。


「楽しみだなぁ」 


 シオンは独り言を呟きながら、金槌で釘をうつ。

 現在シオンたちは、旅行に使うための馬車を制作中だった。


 箱馬車の外見は、普通だが、中身はシオンの魔導具マジックアイテムや魔法が、大量に使用されている特注製だ。


 軽量化、強靱化、衝撃吸収、耐熱、耐寒、魔法障壁などの魔法と魔導具マジックアイテムが使用され、非常に快適なものになっている。


 軍馬にも魔導具マジックアイテムを使用させて能力の向上をはかる予定なので、機動能力は非常に高いものとなるだろう。

 クレアとペイモンも、一生懸命、箱馬車の塗装をしたり、部品を組み立てたりしている。


「あと一年ですか、……楽しみです」


 クレアが、鼻歌を唄いながら塗装をする。


「旅行を~したら~、美味しいモノを食べて~、綺麗な景色を見て~、たくさん眠るのですぅ~」


 ペイモンが、自作の歌を唄いながら部品の組み立てをする。


「いや、旅行先でたくさん眠ってどうする。もったいないだろう?」


 シオンが、ペイモンの歌にツッコミを入れた。


「うふふぅ~、シオン様は分かっていないのです。旅行先で、美味しいものを食べて、綺麗な景色を見た後で寝たら、気持ち良く眠れる上に素晴らしい夢を見れるのです」  


ペイモンが、柔らかい性質の美声で答える。


「ふむ。旅行先での睡眠は格別……という事か?」

「そうなのです」


 ペイモンが、腰に手を当てて形の良い大きな胸をはる。


「まあ、楽しいなら眠るのも悪くないか」


 シオンはなんとなくペイモンに説得された。時折、ペイモンは奇妙な説得力を発揮する。

 馬車の制作を一段落させると、次は小屋の中で衣装の製作を開始した。

 これはシオンの変装用である。

旅行先でシオンの超人的な強さがバレたら、前世と同じく権力者に利用されたり、無用なトラブルに巻き込まれかねない。


 よって、今回の旅行では、シオンは変装用の衣装を用意する事にした。

 顔を隠すための銀色の仮面。黒を基調として銀色で装飾された衣装。ローブ、外套。これらを用意して、いざという時に備える。

 クレアとペイモンの変装用衣装も作る予定である。

 ペイモンは衣装の作成が得意なので、


「ペイモンがやるのですぅ~」


 と申し出て作成はペイモンを中心に進められた。

 ペイモンは手先が器用で、華麗な刺繍をドンドン作っていく。


「あまり懲りすぎなくても良いぞ?」


 とシオンが言うと、ペイモンは首を振る。


「お洒落に手をぬいたら駄目なのです」


 といつになく強い意志を感じさせる口調で言った。どうやら、ペイモンは、服飾の才能があるらしい。デザイナーの才能があるのかも知れない。

 シオンとクレアは、ペイモンの指示通りに衣装を縫っていく。


「なんだか楽しいですね」


 クレアが、夢幻的な美貌に微笑をたたえた。


「ああ、とても楽しい」


 シオンも微笑しながら裁縫をする。


(旅行の準備ってこんなに楽しいものなんだなぁ)


 シオンは鼻歌を唄いながら、裁縫をすすめた。




◆◆◆◆ 

 

 

午後二時。

 昼食を終えたシオン、クレア、ペイモンは、城の北にある森にいた。

 森で魔物を倒す為だ。

 

 今回、シオンはクレアとペイモンに戦闘の殆どを任せていた。

 一年後の旅行にむけて、クレアとペイモンをレベルアップさせねばならないからだ。

クレアとペイモンは、シオンに指導されたお陰で驚異的にレベルアップしていた。

 既に無詠唱呪文をマスターし、得意な魔法で戦う戦術を幾つも身につけている。


「シオン様、北西の位置に魔物がいます。距離は二百メートル程。音からして蛇系統の魔物です」


 クレアが、エルフ特有の驚異的な聴力と感知魔法を駆使して、魔物の位置と形態を特定する。

 クレアは、魔力のコントロールが上手く、精緻な魔力操作を身につけていた。


「蛇の魔物は可愛くないから、好きじゃないのです~」


 ペイモンが、ショートカットにした亜麻色の髪を弄りながら言う。


「可愛いか、可愛くないかの問題ではないと思うがな」


 先頭にいるシオンが冷静に突っ込み、前を向いたままクレアに問う。

「クレア、他に警戒すべき魔物がいるかどうか、分かるか?」

「いえ、警戒すべき魔物は、『蛇』の魔物だけです」


 クレアが、感知魔法で探知しながら答える。


「正解だ。大分、感知魔法の精度が上がっているな」


 シオンが褒めるとクレアが頬を染めた。


「シオン様の御指導の賜物です」


 クレアが慇懃に一礼する。


「さて、魔物を狩るとするか」


 シオンが走り出した。クレアとペイモンも無言で走る。既に言葉にしなくても、連携が取れるレベルになっていた。

 言葉や念話テレパティアで指示を出さなくても動けると戦闘時のロスが減る。


「いたぞ!」


 シオンの視界に巨大な蛇の魔物の姿が映り込む。

 体長10メートルをこえる赤い大きな蛇。


 〈赤色レッド大蛇スネーク〉である。

 シオンは、木の上に飛び乗り、クレアとペイモンに戦闘を任せた。

 既に赤色大蛇程度なら、二人だけで楽に倒せる。


 赤色大蛇が、クレアとペイモンの闘気に気付いた。

 巨大な口を開き、牙を剥きだして威嚇する。

 クレアが、無詠唱で《樹霊プラントチェイン》という魔法を発動した。


 赤色大蛇のいる地面が盛り上がり、地中から、数十の木の枝が伸び上がる。そして、赤色大蛇の巨躯を、木の枝が縛り上げた。


 赤色大蛇が苦悶の叫びを上げる。幾十もの木の枝が赤色大蛇の肉体を縛り上げて締め付ける。

 赤色大蛇は、何とか頭部を動かして、クレアとペイモンめがけて、毒液を吐き出した。

 紫色の毒液が、クレアとペイモンめがけて降り注ぐ。


 ペイモンが、クレアをかばうように前に出て、魔法障壁を展開させた。 ペイモンは優れた結界術士として成長していた。 


 強固な魔法障壁の結界が、クレアとペイモンを包み込む。

 赤色大蛇の放った毒液は、魔法障壁の結界に阻まれ、弾かれた。クレアとペイモンには一滴の毒液もかかっていない。


 クレアが、《樹霊の鎖》を更に強めて赤色大蛇の肉体を完全に捕縛する。

 ペイモンが、動きを止めた赤色大蛇にむけて疾走した。

 身体強化の魔法で、身体能力を向上させ、疾風のように走る。細剣レイピアを鞘から抜刀し、駆け抜けながら赤色大蛇の胴体を横薙ぎの斬撃で切り払う。


 細剣レイピアから魔力の含まれた斬撃。《魔力斬撃》が飛び、赤色大蛇の胴体が、半ば切断される。


 赤色大蛇が、恐怖と苦痛で悲鳴をあげた。

 クレアが、弓を構え、矢を射る。魔力の込められた矢が、青い光をまとって赤色大蛇の頭部にむかって宙空を走る。


 矢が、赤色大蛇の目を貫いた。

 そのまま矢は赤色大蛇の脳を貫通し、脳を破壊した。

 赤色大蛇は、巨体を激しく痙攣させた後、無言でゆっくりと倒れた。

 地響きとともに地面に赤色大蛇の巨体がくずおれる。


 しばし、クレアとペイモンは赤色大蛇から距離を取って、戦闘態勢のまま赤色大蛇を観察した。

 魔物は生命力が強い。死んだと思っても、まだ生きている可能性がある。油断して反撃を受けて負傷したり、死亡する例は非常に多いのだ。 やがて、赤色大蛇の生命反応が完全に消えた事を確認した。


「ペイモン、お見事です」

「クレアも凄いのです~」


 クレアとペイモンは、笑顔を浮かべてハイタッチした。

 そして、二人は褒めて欲しそうな顔で、木の枝の上に立つシオンに顔をむけた。

 そして、期待の眼差しで、黒髪碧眼の主人を見る。


「二人とも、強くなったな」


 シオンが、微笑した。

 クレアとペイモンは、頬を染めて喜んだ。


「さて、あと一年修行期間がある。もっと強くなるように指導するからな」


 シオンが木の枝から飛び降りて地面に立つ。

「はい」     

「はいなのです」

 クレアとペイモンが嬉しそうに答えた。


  

 




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