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凍てつく玉座の女王

「くだらん」 


 シオンが、冷たく言い放った。

 フリードリッヒは何を言っているのか分からず茫然とする。


「召喚術士が志す者が、その程度で満足なのか? ヒュドラ程度を使役する事が、お前の目標か?」


 シオンは、ゴミを見るような眼をフリードリッヒにむける。

直後、シオンの身体から、暴風のように魔力が噴き上がった。

 濃密かつ錬磨された剣のような魔力が、大気に蠢く。


「最後に教えてやる。召喚術とはこういうものを言うのだ」


シオンが、召喚魔法を発動した。シオンの前に青い巨大な積層型立体魔法陣が出現し、そこから、青く輝く巨大な召喚精霊が出現した。


 その召喚精霊は、あまりに美しく、そして荘厳だった。

 体長は五メートルほどで人間の女性の外見をしており、美麗な顔立ちをしている。

 青い豪奢なドレスを纏い、寒風とともに服が流れている。


 召喚精霊の周囲には、凍てつくような冷気が渦巻き、周囲の温度が一挙に下がりだし、大気が凍り出した。


 この召喚精霊の名は、〈フローズンてつく玉座スローンズ女王クイーン〉。

 氷雪系最強の精霊である。


「な、なんだ……これは……」


 フリードリッヒは、唖然として〈凍てつく玉座の女王〉を赤瞳で見た。

 あまりに桁違いの魔力と威容に気圧される。


 〈凍てつく玉座の女王〉の魔力は、異常だった。

 魔力には特有の空気がある。

 森羅万象に魔力が存在し、人間にも魔人族にも動植物にも、石や植物にも内在している。

 魔力には清浄なもの、邪悪なもの、不快なもの、あらゆる『匂い』の様な空気があるのだ。 


 〈凍てつく玉座の女王〉の空気は、あまりに神秘的で底知れず、恐ろしく、そして美しかった。

 フリードリッヒは、震えた。


 恐怖、敗北感、劣等感、絶望が、フリードリッヒの胸中を駆け巡る。

 やがて、〈凍てつく玉座の女王〉が、動き出した。

 それは典雅な舞うような仕草だった。


 凍てつく玉座の女王が腕を軽く振る。

 その刹那、ヒュドラの巨体が一瞬で凍りつき、その巨体が氷で覆われた。

 巨大な氷の牢獄が、ヒュドラを封じ込める。

 ヒュドラは氷の中に囚われた虫のようになった。


 次の刹那、巨大な氷が砕け散り、ヒュドラも同時に砕け散った。ヒュドラは無数の氷の粒とかして大気に溶け込み、一辺の肉すら残さず消滅した。


「あ、ああ……」 


 フリードリッヒが、かすれた声を漏らした。もはや、動くことすら出来ない。

 圧倒的にして、完全なる死が訪れる事を悟った。そして、逃れる術がない事も。


 〈凍てつく玉座の女王〉が、フリードリッヒに端麗な顔をむけた。

 ただそれだけで、フリードリッヒの肉体が細胞の内部まで凍りつく。


(全て無駄だった……)


 フリードリッヒの肉体が、分子レベルで凍結していく。


(私が、何百年努力してもシオンという小僧の領域に届くことはない……。ヒュドラさえも、あの小僧の前では虫ケラに等しかった……)


 召喚術士として、研鑽を積み、研究を重ねてきた。

 だが、それは全て無駄だったのだ。


 私の人生も、私の存在さえも無意味であり、無価値だった……

 フリードリッヒの心に虚無と絶望が満ちた。同時に、フリードリッヒの肉体が数千万の氷の破片となって砕けた。




「現代の魔人族もこんな程度か、前世とほぼ変わらんな……」


 シオンは、氷の細片となって砕け散るフリードリッヒを見ながら思う。


(唯一違う点が有るとすれば、フリードリッヒが、『唯一神』とやらを信奉していた事だ。いずれ調べて見る必要性が生じるかも知れない)


 シオンは空に浮かびながら思った。


「さ、寒い……」

「し、死んじゃうのですぅうう……」


クレアとペイモンの声が背後から聞こえて、シオンは振り向いた。

 クレアとペイモンは、二人とも〈凍てつく玉座の女王〉の余波を受けて、寒さに凍えていた。


「あ……」


シオンは、しまったという表情をして、二人をすぐさま治癒した。



◆◆◆◆



 川辺で巨大な焚き火が焚かれ、三人の男女が暖を取っていた。


 一人は黒髪碧眼の少年、シオン=ヴァーミリオンである。


 二人の少女の内、一人はエルフで、銀髪金瞳の夢幻的なまでに美しい少女、クレアだ。


 もう一人は、亜麻色の髪と翠緑色エメラルドグリーンの瞳をした可愛らしい外見をした美少女、ペイモンである。


 クレアとペイモンは、一糸まとわぬ全裸に大きなタオルをまいた姿で焚き火にあたっていた。

 シオンの召喚魔法である、〈凍てつく玉座の女王〉の影響で、氷の結晶がついて服が凍り、その後、氷が水になって濡れてしまったのだ。


 シオンは、亜空間に物質を収容できる収納魔法があり、そこから、クレアとペイモンの替えのタオルや服、下着を出して、せっせと用意する。何年も二人の面倒を兄代わりとして見てきたので、こういうのは慣れている。


(以外に俺は専業主夫に向いているかもな)


 とシオンは思った。


「し……死ぬかと思いました」


 クレアが、彫刻のような美貌を蒼白にしていた。全裸のまま大きなタオルにくるまり、身体を震わしている。


「ペイモンも、絶対、凍死すると思ったのです……」


 ペイモンも、未だに寒さに震えている。


「いや、本当にごめん。まだ二人のレベルではきつかったな。反省している」


 シオンが、心からクレアとペイモンに頭を下げた。

 シオンは前世において、単独で戦う事が多かった。その為、パーティーメンバーのレベルに合わせるという配慮が足りなかった。


(今後、注意して反省しないとな)


 とシオンは自分を戒める。

 シオンが頭を下げるのを見て、クレアとペイモンは慌てた。主人であるシオンに頭を下げられるのは近衛侍女として恥である。


「あ、頭をお上げ下さい、シオン様!」

「ペイモン達に頭を下げたらダメなのです!」


 クレアとペイモンが、恐懼きょうくして言う。


「いや、これは俺のミスだ。間違ったら謝るのが当然だ」


 妹同然の二人に対する配慮が甘いのは兄代わりとして失格だろう。


「二人とも、よく身体を温めろよ。その後、魔人族フリードリッヒの研究所の調査をする」

「「はい」」


 クレアとペイモンが、同時に頷いた。


 

 



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