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勧誘とランク分け


 水兵たちの反乱によりカルロは死亡し、敵船は降伏の白旗を掲げた。

 燃えている敵船の消火を手伝い、怪我人を治療する。

 重傷の者もいたが、ロンデナが手際よく作った〈ハイポーション〉を与えれば、みるみるうちに傷は治り、自力で歩けるほどに回復する。

 まさに”女神の奇跡”を目の当たりにして、水兵たちがロンデナへと感謝を捧げた。


 あまり死人が出なかったこともあり、場の空気はそれほど悪くない。

 これはカルロ一人の暴走だ。

 船長と話してみたが、彼もカルロにうんざりした様子だった。


「冒険者ギルドに所属を移したい?」


 話しているうちに、船長がそんな話を持ち出した。


「はい。縁故人事ばかりのエキノクシア商会より魅力的ですから」


 水兵たちも、直々に俺へ「冒険者になりたい」と話しかけてくる。


「わかった。望む者は全員を受け入れよう」


 歓声が上がった。

 ……エキノクシア商会との関係は悪くなるだろうが、彼らが冒険者になりたいと望んでいるなら、俺はその願いを叶えてやりたい。

 さすがに船は商会へ返却することになるだろうが。

 彼らには、陸で普通の冒険者として活動してもらうことになる可能性が高い。


 既にニューロンデナムは人間が増えすぎて窮屈な状態だ。

 受け入れのために拡張し、冒険者のための住居を用意する必要があるな。

 今後もしばらくは内政で忙しい日々が続きそうだ。


「アンリー」

「なんだ、エクトラ」

「わがはいは嬉しいぞ! アンリのおかげで、また冒険者が増えるのだな!」

「当然だ。俺はお前に仕えると誓ったからな」

「んー、嬉しいことを言ってくれるのだ! わがはいは幸せなのだー!」


 満面の笑みを浮かべたエクトラが、ばしばし尻尾で甲板を叩いた。

 彼女を怖がっていた水兵たちが、その様子を見て緊張を解く。

 当然だ。エクトラはかわいいからな。


 しばらくすると、後続のエキノクシア商会船も〈飛竜海峡〉を抜けてきた。

 転覆した一隻を除く四隻全てが降伏し、俺たちの指揮下に入る。

 全員を引き連れ、俺たちはニューロンデナムへと帰還する航路へ就いた。


 〈飛竜海峡〉は西から東への激しい潮流があるので、そのまま戻るわけにはいかない。

 〈飛竜列島〉と呼ばれている危険な島々を南から迂回して、時計回りに戻る。

 ……その名が指し示す通り、ここは飛竜の住み着いた危険な島だ。

 山にいる飛竜だけでなく、全体的に魔物の危険度が高く、入植はされていない。


「アンリ! あれを見るのだ!」


 船の近くを、怪物の巨大な影が横切った。

 曲がりくねった触手が集まったような不気味なシルエットだ。

 怪物はこちらに興味を示さず、海の向こう側へと消えていった。


「……確かに、ここは危険な場所らしいな」


 だが、ああいう強大な魔物を倒せれば、強力な素材を多量に得られる。

 選りすぐった天才的な冒険者だけを派遣することができれば、利益は大きい。


「冒険者のランク分類を増やすべきか?」


 こうした危険な場所へ向かえるかどうかの指標が必要だ。

 今の〈Aランク〉冒険者をここに派遣すれば、まず全滅する。


「もっと細分化して……今のAランクをEランクぐらいに改訂するべきかもしれないな」


 初心者のFランク。経験者のEランク。

 そこから先は実力に比例する形でランクを上げていけばいい。

 普通の人間の限界をAランクに置くか。そこから逸脱した人外が出てくることに備えて、念の為に特殊なSランクも設定しておくとして。

 細分化したついでに、ロンデナの鑑定スキルで見られる書庫の魔物図鑑へと”強さのランク”を設定してもいい。

 Eランクの魔物を狩るためには冒険者ランクE以上である必要がある、というように。


「悪くないアイデアなんじゃないか?」


 さっそく俺は重要人物を集め、アイデアを披露した。

 反応は好意的だった。


「おお、いいじゃん! 最近、身の丈に合わない無茶をやろうとする冒険者が多いんだ。ランクで討伐許可が出るようにすれば、そういうのもなくなる!」


 試験官でもあり、よく冒険者たちの面倒を見ているジャンも、そう言ってくれた。

 帰ったらハンナたちにも相談して、ランクのシステムの詳細を詰めてみよう。


「いいな! 燃えるぜ! この〈大熊の〉ガリシッド様が人類初のSランクになってやる!」


 ……バカにも意見を聞いてみたが、バカはバカだった。

 やる気を出してくれるならそれでいいか。

 しかし、こいつが今の冒険者ギルドで最強格なんだよな……。

 もっと別に、俺よりも強いぐらいのエースが欲しいところだが。

 旧大陸に冒険者の噂が広まるまでは、さすがに高望みか?



- - -



 五隻の船が、つつがなくニューロンデナムに帰港した。

 冒険者になりたいと希望した者を受け入れる。

 エキノクシア商会に残った人間は、ちょうど船の一隻を動かせる程度だった。

 彼らは商会へ報告するため、本拠地のポルト・セントラルに戻っていく。


 ……冒険者として受け入れたのはいいのだが、街に宿泊場所が足りなかった。

 スワンプヴィルには余分な寝床があるので、そっちの村に泊まってもらいつつ、大急ぎで拡大計画を進めていく。

 城壁の一部を壊して街を広げ、真っ先に住居区画を作った。


 人魚族との貿易で入手した珊瑚コンクリートは、家の建材としても有用だ。

 型に流し込むだけで頑丈な壁が作れるため、わりとすぐ家が建つ。


 それと同時に、俺はギルドのランクシステムを整備した。

 FからAまでの六段階に分け、旧BランクをFランクに、旧AランクをEランクに再分類する。

 加えて、一定の討伐数があればFからEまでは自動的に昇格できるようにした。

 冒険者の数が増えていけば、試験の労力もバカにならない。

 Eランクから先は、”Eランク魔物”の討伐数や依頼の成功数などの条件を満たせば俺からの昇格試験を受けれるような形にした。

 忙しくなるが、ジャンも試験官より冒険者として使いたいので仕方がない。


 同時に、冒険者ギルド主催のオークションも開催準備を整える。

 商会の人間だけでなく、誰でも自由に入札できる形式とした。

 今までは鍛冶屋や薬屋へと素材を個別に売っていたが、彼らも今後はこのオークションで素材を仕入れてもらうことになる。

 この街に新しく訪れた者が鍛冶屋や薬屋を興しやすくするためだ。

 既存の業者にとっては特権を失った形になるが……これも仕方がない。

 特に武器と防具の生産は、自由化してでも増やす必要があるのだ。


 ……とはいえ、商会と地元業者では資金力が違いすぎる。

 全ての素材が商会の手によって旧大陸へ転売されるのを防ぐため、俺はオークションを二部に分けた。

 ニューロンデナムの外へ持ち出さずこの街の中で加工品を売却することが条件になった午前中の部と、外への転売も許可した午後の部だ。


 諸々の調整と話し合いで俺の仕事量が爆発して寝る暇が無くなったころ、新たな頭痛の種がニューロンデナムに増えた。

 部下を俺に奪われて怒り心頭のエキノクシア商会長が、交渉のために訪れたのだ。



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[一言] ☓奪われた ○逃げられた 勘違い商会長登場か
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