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エキノクシア商会


 スワンプヴィルを防衛してから時間が経ち、ギルドの雰囲気は少し変わってきた。

 すでに街の付近は安全になり、魔物を討伐するためには多少歩く必要がある。

 加えて、ギルドでの素材買い取りも徐々に安くしている。

 腕のある冒険者には、強くて価値ある大物を狙ってほしいからだ。

 冒険者たちはやみくもにふらつくことを止め、情報を集めてから遠征計画を立てたり、素材採取の依頼を受けてから動くようになりはじめている。


 自然と、〈スカウト〉として動く冒険者が現れている。

 単身ですばやく動き、情報を集め、それを冒険者へ売る。

 そういう仕事だ。〈アタッカー〉と〈サポーター〉に続く、新たな役割である。


 その〈スカウト〉の情報を待つ冒険者が、今もギルドの中にたむろしていた。

 どいつもこいつも勝手に椅子を持ち込んで座っている。図々しい。


「ハンナ、ギルドの中で待ってるやつが多いが。問題はないのか?」

「特にないですよ? 暇だからっていうんで、新人に技を教えたり、冒険者同士で模擬戦をやったりしてますし。冒険者の質が上がりますから、むしろ嬉しいですね」

「そうなのか? なら、集まれるようなスペースを用意してもいいかもな」


 今のギルドは殺風景だ。一階には窓口と依頼の掲示板とギルドの物販、あと裏に休憩室があるだけ。

 あとは二階の事務室に、別棟の訓練場と、地下の魔物・素材図鑑書庫ぐらいか。

 余っている空間はある。

 倉庫が出来て、魔物素材の査定窓口はそっちに移ったことだし。


「酒場……いや、カフェでも併設したらどうだ?」

「いいですね。冒険者にとっても嬉しいですし、職員の休憩にも使えます」

「ハンナ、カフェ作りはお前に任せてもいいか?」

「……! もちろんですよ、ばっちり仕上げてみせます!」


 彼女は胸を張り、さっそくデザインの下絵に書きはじめた。

 今は特に客もいないので、それぐらいの余裕はある。魔物素材の査定窓口を倉庫に作り、追加で専門の職員を雇ったおかげで、ハンナたち受付嬢の負担は減った。


「アンリ、ロンデナが呼んでるぞ! また商人が来てるのだ!」


 一方で、俺はまた忙しくなった。最近はひっきりなしに来客が来る。


「すぐ行く」



- - -



「まったく。ワタシは忙しいのだ。あまり待たせないで欲しいものだ」

「……時間通りに来たつもりだが」

「十分前に挨拶へ来るのが常識だろう? この程度のことも分からないようでは、取引する価値があるか怪しいものだ」


 態度の悪い商人が、ふん、と鼻を鳴らした。


「君が冒険者ギルドとやらのマスターか? 売り込みたまえ」

「……何様のつもりだ? 呼び出されたのは俺の側だぞ」

「ほう? この〈エキノクシア商会〉に、そのような態度を取ってもいいのかね?」


 その商会の背後には、ディラソル帝国が居る。

 以前にロンデナが応対したときも、かなり態度が大きかったとは聞いたが。

 ここまで悪いとは思わなかった。


「大商会の商人様がここまでご足労いただいているということは、俺のギルドが生む利益ぐらいは感じているんだろう。なら、最低限の敬意は払って頂きたい」


 同席しているロンデナが、わずかに頷いた。


「ふ。ワタシがその気になれば、ちっぽけなギルドごときいつだって潰せるのだぞ」

「お前がその気になれば? その権限があるようには思えないが」

「……いいのかね? まさか、ワタシの父親を知らないのか?」


 なんでこんな奴が商人をやっているんだ?

 エキノクシア商会の評判が悪いのもうなずける。

 きっと、帝国から与えられた商売の権利にあぐらをかいて、高圧的な取引ばかりを繰り返してきたのだろう。


「馬鹿馬鹿しい。これほど稚拙な経緯で俺たちに喧嘩を売ろうとすれば、お前の上司だって黙っていないはずだ」

「ふうむ。ワタシの力が分かっていないようだ。後で後悔しても遅いぞ?」


 商人がくつくつと笑い、立ち上がった。


「もしかして、ワタシが名乗っていなかったから、田舎者の君たちには気付けなかったのかな? ワタシは皇帝フェロスの五男、カルロであるぞ? ん?」


 俺はロンデナと目を見合わせた。

 そんなことは一言も聞いていない。もしかしてこいつ、わざわざ黙ってたのか……?


「皇帝の五男が何故商人をやっている? 爵位は無いのか?」

「ワタシは不当な陰謀によって爵位を失ったのだ!」


 本国から厄介払いされたんだろうな……。


「とにかく! ワタシへの非礼の数々、きっちりと本国へ報告させてもらおう! 沙汰を震えて待つがよいぞ。あるいは頭を地面にこすりつければ、許してやらんこともない」

「帰れ。エキノクシア商会に、もっとマシなやつをよこすよう伝えろ」

「なななっ……!? き、貴様! ワタシにそのような態度! 後悔するぞっ!?」


 カルロは顔を真っ赤にして逃げ去っていった。

 ……さて。


「こじれないうちに先手を打つぞ。神殿からアゼルに連絡しよう。アゼルを通じて、ディラソル帝国の守護神に……あ、いや。あの国の守護神は、いまこっちの世界に居ないか」


 あの国の神はものすごく気まぐれで、退屈だからと神の国に帰ったばかりのはずだ。

 そのうちすぐ〈降臨の儀〉で戻ってくるだろうが、今はいない。


「アゼルから、アゼルランド王国を通じてディラソル帝国に連絡を入れてもらおう」

「でも、アゼルランド王国とディラソル帝国って、仲は悪いんだよね?」

「悪くても外交の窓口はある。手紙ぐらいは届くはずだ」


 あと……あの国の皇帝は、俺の名前を覚えてるだろうしな。



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