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島への遠征


「なかなか悪くないんじゃないか?」


 完成した倉庫を見回して、俺は呟いた。

 コンクリートがむき出しの飾りっ気のない作りだが、機能に支障はない。


「急な無茶に答えてよくやってくれた。しっかり休んでくれ」

「なあに、この程度屁でもありませんわ! おれたちもね、ちょうどコンクリートが試してみたかった所でっせ! こりゃワクワクする新素材ですわ!」

「そうか。なら、近いうちにまた依頼させてもらう。次もよろしく頼むぞ」

「こちらこそ! ギルマスさんが来てから儲かって仕方ありませんわ、ハハハ!」


 大工たちを労い、港の倉庫から新しい倉庫へ魔物素材を移す。

 港のほうに食料が運び込まれ、アゼルランド商会の船団が港から出ていった。


「あと数週間で、本国からの食料が届くんだよな?」

「……はい……新たな船団が加わりますよ……それまでに、商館が出来ているといいのですが……」


 仮の足場に覆われた大きな商館を見上げて、ファルコネッタが言った。

 度重なる襲撃で荒れ果てたアゼルランド商会の商館はいま修繕工事の真っ最中だ。

 その工事の監督と俺への連絡役をするために、ファルコネッタは街へ残っている。


「もうそろそろ、他の商会もこの街に目をつける頃ですからね……」

「ああ。既にいくつかの商会が、魔物素材の買い取りを打診してきてる」

「……競争の始まりですね……お互い、油断しないようにしましょう……」

「そうだな」



- - -



 領内の島々に遠征へ出ていた冒険者たちが帰還し、ギルドに依頼を報告した。

 島のゴブリンを全て掃討したそうだ。

 町長からの手紙では、冒険者ギルドへたいそう感謝している旨が記されていた。


「第一陣は成功か。他はどうなるかな」


 ジャンやルバートはともかく、ガリシッドあたりは心配だ。

 ……しかし、仕方がないとはいえ、どいつもむさ苦しい男ばかりだな。

 強くてかわいい女の冒険者は出てこないものか。


「ギルドマスター。報告ですぞ」


 手紙を携えたデーヴがギルドを訪れた。


「ああ、定期便の報告か? ありがとう」

「それもあるのですが、もう一つ。ルバートが苦戦しているようですぞ」

「そうなのか? あいつは心配してなかったんだが」


 俺ほどではないが中々の武力だ。

 ルバート自慢の重ガレオン船は人手不足で港に係留されたままだが、本人は十分以上に強い。


「何でも、実体のない魔物が多いそうなのです。炎の精霊、のような雰囲気だとか。この報告にも図が乗っておりますぞ」


 燃え盛る炎が空中に浮かんでいる絵が描かれていた。

 〈フレイムスピリット〉と呼んでいるそうだ。

 万神殿の古文書では見たことのない魔物だ。新種か?


「そうだな……こういう敵なら、やはり魔法使いが得意なんだろうが……」

「魔法使いですか。おりますかな?」

「確か、ガリシッドのツッコミ役が魔法使いだったはずだ。あとはメアリーだな」


 ひとまずハンナに地下の書庫にある〈魔物図鑑〉へと新種を書き足すよう指示した。

 名前と姿しか分からないが、とりあえず書いておくべきだろう。

 そうすれば〈鑑定〉したとき名前のついた存在だと分かる。


「あれ、アンリ? 奇遇だね」


 メアリーたちを呼びに領主館へ向かう途中、二人とばったり出会った。


「ちょっといいかな? 〈エキノクシア商会〉っていうところが沖合で入港許可を求めてるみたいでさ。とりあえず許可はしたけど、アンリ、なにか知ってる?」

「いや」


 仕事が被った。エキノクシア商会か。いい評判は聞かない。俺が応対したいところだが……ギルドマスターとしては、苦戦している冒険者を助けるほうが優先だ。


「ロンデナ、遠征に出たルバートたちが苦戦しているそうなんだ。魔法使いが必要なんだが、少しメアリーを借りてもいいか?」

「ん? 本人がいいなら、いいよ」

「私は構わないわ。……でも、ロンデナ様一人で商人と面会させるの? 不安ね」

「官僚の一人とファルコネッタを同席させて助けてもらえ。それで十分のはずだ」

「でも……」

「メアリー。気持ちは分かるが、彼女は街の領主だ。独り立ちする必要がある」

「うん。私は一人でも大丈夫だよ。頼れる味方もいるから」

「分かりました。お気をつけてくださいね、ロンデナ様。安易に相手の言葉を信じないように。商取引で揉まれてきた商人は、信頼を稼ぐのが上手いですから。信頼できそうに見える人間だからといって、本当に信頼出来るとは限らないということを……」

「メアリー。信じてやれ」


 心配すぎて早口であれこれ言い出した彼女を制する。


「向こうもいきなり大きな話は持ち込まないだろう。任せたぞ」

「うん。アンリも気をつけてね。何か貴重な素材が取れたら、工房に回してよ?」

「そうしよう」


 ロンデナと別れ、デーヴとメアリーを引き連れて港へ向かう。

 今日もエクトラが水中をすいすい泳いでいた。

 俺の姿を見たとたん、ざばあっ、とトビウオみたいに港へ飛んで戻ってくる。


「うおっ!?」


 一緒に水飛沫が飛んでくる。ずぶ濡れになるかと思ったが、その水が空中で止まった。

 メアリーが紋章の輝く右腕を振るい、空中の飛沫を海へと払う。


「そういえば。お前は〈魔術神〉の祝福も受けているんだったか」

「まあね。私のとこは魔術師一家だから。生まれた直後に洗礼で、ね」

「ぶるぶるぶる!」

「ちょ、おいっ!?」


 犬みたいにエクトラが全身を揺らして水を飛ばしたので、結局ずぶ濡れだ。


「せっかく私が格好良く防いだのに……!」

「アンリ、何かやるのだな!? 言わずともいいぞ! わがはいが助けてやるのだ!」

「あ、ああ。苦戦してる冒険者を助けに行くところだ」

「いいぞー! 久々の冒険なのだー!」

「ホッホッホ、相変わらず元気でよろしいですな。それでは、私は水兵を集めてきます」


 そして、俺たちは〈エクトラ号〉で現地へと渡った。

 


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