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 数日後。定期便が運行されると同時に、多くの若者がニューロンデナムへ流入した。

 船から降りてきた人々の大半が、まっすぐ冒険者ギルドへ向かってくる。


 彼らを列に並ばせるだけでも一苦労だ。バイトで雇った冒険者たちが、我先にと窓口へ向かおうとする若者たちを何とか押し留めて並ばせている。

 待機の列が屋内に収まらないぐらいだ。


「はい、次のパーティの方! どうぞ!」

「この物販窓口は冒険者専用となっております! 先に登録を済ませてくださいー!」


 邪魔にならない場所で、大忙しで仕事をさばいていく受付嬢たちを見守る。

 俺が変に窓口業務を手伝ったところで足を引っ張るだけだ。


「ああっ!? てめえ足踏みやがったな!?」

「んだよ踏んでねえよ!?」


 また喧嘩が勃発しそうになり、バイトの冒険者たちが慌てて割って入る。

 これで何回目だ?


「アンリ? ほんとに、わがはいは何もしなくてもいいのだ?」

「そうだな……ちょっと、冒険者たちを威圧してくれるか」

「任せるのだ! わがはいの威風を吹かせてくるのだー!」


 俺と一緒に見守っていたエクトラが、険悪な空気のところへ寄っていった。


「聞けー! われは〈冒険神〉エクトラであるぞー!」


 おおっ、と列にざわめきが走る。


「あれが噂の……!」

「うむうむ! 噂のエクトラ様だぞー!」


 彼女は両手を腰に当てた。見るからに調子に乗っている。


「わーはっは! 恐ろしいであろう! わがはいは最強だからなー!」

「いや……」

「噂通り、カワイイな……!」

「ぶひひ……小さくて快活で小動物っぽい愛らしさでごじゃるのう……」

「か、かわいくないのだ!? わがはいは強くてこわいんだぞー!」


 彼女は地団駄を踏んだ。

 ……かわいい。

 険悪だった空気が晴れて、和やかなムードでみんなが微笑ましくエクトラを見ている。


「そう、それでいいのだ! 喧嘩はやめて、わがはいに畏怖と信仰を捧げるのだー!」


 畏怖かどうかはともかくとして、若者たちの喧嘩は収まった。

 直々に信者になると宣言し、エクトラから祝福を受けている者もいる。

 思っていたのとは違う結果だが、上手くいったならいいか。


「よっし! 試験やるぞ! もちろん、二つの役割は知ってるよなー!」 


 訓練場の方から、ジャンの大きな声が聞こえてきた。

 普段通り、彼には試験官を任せている。


「おいおい!? 役割、知らないのか!? ま、まあ、他所の島だし伝わってなくても仕方ない! 本当なら不合格だけど……よし、特別に俺が教えてやるからよく聞けよ!」


 自警団のリーダーだけあって、ジャンはわりと面倒見がいい。適任者だ。

 慌ただしくも順調に、冒険者登録が済まされていく。


 同時に、他の島からの依頼が次々と舞い込みはじめていた。

 依頼者用の窓口でハンナが応対し、張り紙を作って掲示板に張り出していく。

 魔物討伐や、町の外における探索や採取の護衛が依頼されている。

 ようやく、冒険者ギルドに”何の変哲もない依頼”が舞い込むようになってきた。


「ギルドマスター! 新人冒険者がガリシッドに喧嘩を売って、外で揉め事が!」

「すぐ行く」

「ギルドマスター、物販に並び直して何回も銅貨五枚でポーション買おうとした奴が!」

「名前をメモっておけば十分だ」

「ギルドマスター! サインください!」

「分かった。決裁書類はどこだ」

「そうじゃなくて! ファンです! サインください!」

「……あ、ああ。欲しいなら、書くが」


 問題を起こしたバカの対処や謎のファンサービスをしつつ、ギルドを見守る。

 俺が何か口を出すまでもなく、みんなきっちり仕事をこなしていた。

 高めの給料を出して、ちゃんと休みを取らせている甲斐はありそうだ。


 新人の流入が一段落した夕方頃、Aランクの冒険者たちがギルドを訪れる。

 目当ては遠くの町からの依頼だ。

 Bランク冒険者は町の近辺でしか活動できない制限がある。

 依頼を受けるのは、当然、彼らAランクの冒険者パーティということになる。


「依頼か! この程度、〈大熊の〉ガリシッド様にかかれば一発だ! ガハハ、全部まとめて受けちまえ!」

「許可するわけがないだろう。バカか?」

「すいません、この人バカなんですよ」


 彼のパーティメンバーの少女に、低姿勢で謝られた。


「気にするな。知ってる」

「あん!? 誰がバカだと!?」

「いいんだ、ガリシッド。バカにしか出来ない仕事もある」

「お、おう? そうか。ありがとうよ、ガハハ!」

「それ褒め言葉として受け取る時点でバカって認めてない!?」


 苦労してそうな子だなあ……。


 とにかく、Aランク冒険者たちはこぞって町からの依頼を受けた。

 冒険者ギルドで報酬を上乗せして増やしたのが功を制したのだろう。


「いいんですか、ギルドマスター? また赤字になってしまいますよ?」

「いいんだ、ハンナ。ギルドの評判を上げて冒険者たちに遠征経験を積ませるための必要コストだ。それに、稼ごうと思えばアゼルランド商会を通して稼げる」

「じゃ、今すぐにもっと稼ぎません?」

「駄目だ。堅実に、一歩一歩進んでいくぞ。今はまだ、な」


 

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