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冒険者ギルドの拡大


「ハンナ。頼んでいた資料は出来たか?」

「はい。ロンデナ様の鑑定ギフトが普及した結果、薬草を初めとする各種素材の採取数は五倍近くまで跳ね上がりました。詳しいデータは、この資料にまとめてあります」

「五倍? すごいな」


 資料に軽く目を通す。確かに、〈鑑定〉のギフトが出た後から数字が跳ねていた。


「全体的に、素材が採れすぎて加工が間に合わなくなっていませんか?」

「そうだな。薬草だけなら、ロンデナの錬金術工房で何とかなりそうだが」


 彼女の工房は街の人間を従業員として何人も雇ったという。

 ロンデナがいろいろな実験をする傍らで、未経験の”見習い錬金術師”たちに既存レシピの量産をやらせるつもりだそうだ。


「あとは、武器防具の生産が本気で間に合ってないんだよな……」

「いっそ、他の街の鍛冶師と契約して生産してもらいませんか?」

「だが、ニューロンデナム近辺に鍛冶師のいるような規模の街はないだろう」

「……そうですね。アゼルランド王国の領土だと、ここしか。ポルト・セントラルあたりの大都市なら、いくらでも鍛冶師がいるでしょうが」

「あそこはディラソル帝国の領土だろう? 〈黄金の帝国〉には手を出せない」


 俺たちを庇護するアゼルランド王国は、あまり力のない小国だ。

 一方、ディラソル帝国といえば、先に開拓をはじめたアゼルランド王国を軍事力で黙らせながら新世界の南側を開拓して大量の金銀鉱山を掘り当てた〈黄金の帝国〉であり、世界最強と言っても過言ではない。

 ポルト・セントラルは黄金を積んだ船団が寄港する中継地であり、新世界で最も大きな都市だ。


「他の国から見れば、冒険者ギルドなんてアゼルランド王国の私兵だからな。そんな連中が自分の街にちょっかいをかければ、快くは思われないだろう」

「そうですかね? ちょっとぐらいなら何とかなりませんか?」

「駄目だ。今はまだ、他所で動く段階じゃない」


 冒険者ギルドという組織が十分に成熟し、国の枠に囚われないものだという評判が広まって、ようやく他国領土で活動できる段階になる。

 まだまだ実績も人材も足りていない。


「ちょっかいを出して、怒った〈無敵艦隊〉がうちに来たらどうするつもりだ? 大砲百門の大型ガレオンが百隻だぞ? 一万の砲門に狙われれば、さすがに勝ちようがない」

「大砲が一万……た、たしかに。慎重になったほうがよさそうですね」


 気が早いハンナも、さすがに落ち着くしかないと納得したようだ。


「他の街は無理だが……そろそろ、領内を回ってみるべきかもしれないな」


 ニューロンデナムの他に訪れたことがあるのは、林業の町ニュークールシぐらいだ。

 小規模な町や村が、アゼルランド王国の領土に十は点在している。


「もしかすると、鍛冶師の一人ぐらいは隠れているかもしれないし」

「ですね。せっかくだから冒険者を連れて行って、魔物を掃討したらどうですか?」

「悪くない」


 ギルドから冒険者たちへ、領内の町へと遠征を依頼してもいい。

 安全の確保と引き換えに銀貨数十枚を支払えば、そう悪くない仕事のはずだ。

 いや……だが、出来れば町からギルドへ依頼してもらう形のほうがいいか。


「デーヴに町を回らせて、ギルドの助けが必要か聞かせてみよう」



- - -



 わずか数日で周辺を巡ってきたデーヴが、俺に報告をまとめた。

 どの町も状況は悪くないし、魔物の出現も減少傾向にあるそうだ。

 アゼルランド商会からの食糧援助もあり、情勢は安定しているという。


 鍛冶師もついでに探したが、一人も居なかったようだ。仕方がない。


「どの町でも、冒険者になりたい、という若者が押し寄せてきましたぞ。今回は手早く街を回る必要がありましたから、誰も連れては来れませんでしたがな」

「そうか。冒険者になろうと思っても、そう簡単にニューロンデナムへは来れないか。定期的な船便があるわけでもない……」

「でしたら、私にいい案がありますぞ。私がクリストフの配下を預かっていることは覚えておりますか?」

「覚えてる。素行は改善されたか?」

「ええ、いくらかは。〈エクトラ号〉から船長や士官を選抜した上で、クリストフの配下だった者を定期便の船員に任命してはいかがですかな? ルバートから譲り受けたスループ船もありますし」

「いい案だ。さっそく取り掛かってくれ」


 デーヴは船員の選抜や航路の設定などの仕事に取り掛かった。

 一方で、俺にも別の仕事がある。


「海なのだー! 風が気持ちいいのだー!」

「ニューロンデナム以外の町はどんな場所なんだろう? 楽しみだね、アンリ」


 〈エクトラ号〉に神々を乗せて、俺たちは自ら町を巡った。

 この機会に領主のロンデナを町長たちと会わせ、統治を安定させておくためだ。

 副領主にしてギルドマスターの俺もいるから、要望があればすぐに答えられる。


「何か必要なものはあるか?」

「いえ。我々を見守ってくださる神様とのお目通りが叶っただけでも恐れ多いですから。魔物を退治してくださるギルドのマスターまでおりますし。これ以上の頼み事など」

「遠慮するな。この港に必要なものがあれば、何でも言ってくれ」

「でしたら……冒険者を少し貸していただきたいのですが」


 最も多かったのは、そういう要望だった。

 冒険者を貸して欲しい。つまり、魔物討伐の依頼だ。


「聞いていると思うが、冒険者ギルドでは依頼を受け付けている。魔物討伐の依頼を出してもらえれば、いつでも受けるぞ」

「ですが……依頼を行うためには、直接出向く必要があるのでしょう?」

「いや、手紙でも構わない。それで今まで依頼を出していなかったのか?」

「いえ、手紙を乗せてくれる船がいるとも限らず」

「なら安心しろ。これから定期の船便が航行するようになる」

「おお!? ついに、おらが村にも交通が!」


 そういう調子で、どこも俺たちへの反応は上々だった。

 ロンデナも、俺も、冒険者も船便も、諸手を挙げて歓迎されている。


「定期便の開通後、すぐに依頼を出させていただきます!」


 どこの町でも、そういう話がまとまった。

 以前はバラバラにサバイバルしているだけだった周辺の島々も、このままいけばニューロンデナムの経済圏に組み込まれることになる。

 その中心になるのは冒険者ギルドだ。

 全員が利益を得られるよう、うまく舵取りをしなくては。


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