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錬金術


 メアリーを倉庫に案内してやると、彼女は夢中で素材を漁りはじめた。


「すごい! 新鮮な魔物素材が! こんなにあるなんて! あっ赤色魔石だわ!」

「赤いと何か違うのか……?」

「全然違うわ! 普通の青い魔石って魔物の体内にある間に魔力を集めるんだけど、赤色魔石は魔力じゃなくて魔法を集めるの。ある意味、魔法陣みたいなもので……」


 早口で語ったあと、彼女は赤色魔石に魔力を通した。

 メアリーの体が赤色の光に覆われる。


「これは〈マッスル〉の魔法ね! 単純に、力が強くなるわよ!」


 近くに転がっていた酒樽を、彼女は一気に持ち上げた。

 ……後でハンナに伝えて、赤色魔石の査定を変えておかないとな。


「わあ、すごい! 私もやっていいかな!?」

「いいわよ!」


 〈マッスル〉の魔法を掛けてもらったロンデナが、樽を持ち上げる。


「すごい! 魔法ってこんなことも出来るんだ!?」

「そうよ、魔法はすごいのよ! 可能性に満ち溢れているでしょう、ロンデナ様!?」

「私にも出来るかな!?」

「……ええっとですね……神の持つ神力と魔力はちょっと違うので、神が魔法を使うのは大変なんですよ、ロンデナ様」

「そ、そっか」


 彼女は目に見えて気を落とした。

 俺としても残念だ。何かロンデナの趣味にできることがあればいいのだが。

 成長している街の神にして領主なのに、その本人がただの神輿として退屈な日々を送るのでは勿体ない。

 街が神に影響を与えるように、神もまた街に影響を与えるのだ。

 ……それに、暇を持て余した神はろくなことをしない。


「メアリー、この倉庫の素材で、なにか農業に使えるような魔法はできないのか?」


 俺が思っていたよりも、かなりメアリーは魔法に詳しい。

 せっかくなので専門家の意見を聞いておこう。


「〈グロース〉の魔法なら、ここの触媒でも行使できるわよ」

「栽培の加速か? 〈神力農法〉と同じデメリットがありそうだが」

「そうね。でも、どんどん焼き畑で広げていけばいいんじゃないかしら?」

「広がりすぎれば守りにくい。魔物がいる以上、要塞化した村の中に畑を収めておきたいんだ。それに、土を駄目にしながら広げていくと、将来的に困りそうでな……」

「私としても、土地を駄目にするやり方は嫌だなあ。街の外の土地だって、半分は私みたいなものだから」

「ロンデナ様がそう言うなら、〈グロース〉はなしね。なら……おっ、これは!」


 メアリーは巨大なアリの死骸に目を留めた。

 〈ビッグアント〉と呼ばれる魔物で、これは湿地帯の上流へ登っていったジャンたちのパーティが討伐したばかりの新種だ。

 解体の方法が分からないので、とりあえずそのまま置いてある。


「このアリはね、強い酸を吐くのよ。体内に酸の袋があって」

「ああ。ジャンもそう言っていた」


 〈サポーター〉役が足止めに放った鉄の鎖を、酸で溶かしたのだとか。

 厄介な敵だ。無策で戦っていれば防具ごと溶かされていた可能性もある。

 俺の教えた〈サポーター〉と〈アタッカー〉に別れる戦い方ならば、実力さえあれば封殺できるし、実際にこうして討伐されたわけだが……。


「いろいろな使いみちがある魔法の酸なのよね。こうして甲殻を剥がしたあと、切り取っていけば……よし、分離できたわね。あとは……」


 メアリーが倉庫を歩き回り、魔石と薬草類を集めた。


「そこの錬金術セット、借りてもいいかしら」

「ギルドの所有品だ。自由に使え」


 材料とガラス製の錬金術器具が机に並ぶ。

 ロンデナが目を輝かせていた。

 自分の巫女が活躍するところを見れて嬉しいのだろう。


「まず、酸を抽出するわよ」


 大きな酸の袋をナイフ二本で漏斗に乗せて、彼女は指を鳴らす。

 魔法で袋が押しつぶされた。中から溢れた毒々しい液体がフラスコに集まる。

 ロンデナがもっと目を輝かせた。……あれ? こいつ、そういう趣味?


「この液体に、まず魔石を入れる」


 緑色の液体に、青の魔石が落ちる。

 すると魔石が激しく泡立ち、やがて液体の中に溶けた。


「これをしばらく放置しておくと……液が上下に別れてるのが見えるかしら?」

「ほんとだ! 青い水が上にある!」

「魔石が溶かされて液化したのか?」

「その通りよ。この上澄みだけを採取して、そこに毒消しの薬草を浸す」


 青色の液体に薬草を入れて、彼女はフラスコを振った。

 すると、青色がみるみる消えて、わずかに濁った無色透明の液体に変わる。


「な、なんで色が!? 魔法みたい!」

「魔法成分が中和されたんですよ、ロンデナ様。詳しく説明すると長いですが」

「長くていいから説明してほしいよ!」


 ロンデナは目を輝かせている。


「だってこれなら、私も勉強すればメアリーみたいに魔法が使えるんだよね!?」

「いえ、これは錬金術ですから、魔法とは別ですよ?」

「錬金術! それはそれでカッコいい!」


 確かに、彼女が物質を操作する様子は魅力的だ。

 学んできた知識と経験を感じさせる。

 何でもそうだが、”プロ”ってやつは格好がいいものだ。


「それほどでもありませんが。ありがとうございます」

「っていうか、メアリーもタメ口でいいんだよ? アンリみたいに」

「出来ませんよ。そこの不良と違って、私は真面目な巫女ですから」

「誰が不良だ」


 マジで言ってんのかお前、みたいな顔でメアリーが俺を見た。

 マジなんだが? という顔で彼女を見返す。


「何よその顔。……手順を進めるわよ。酸の毒成分が中和されて、純粋な魔石液を作ったところだったわね。あとは蒸留で瘴気を分離すれば、上質な魔力肥料になるわ」


 彼女は濁った液体を蒸留した。黒い濁りと透明な液体に別れる。


「ただし、肥料にするなら薄める必要があるわ。この原液は肥料じゃないのよ」

「なら何なんだ?」

「〈ハイポーション〉。万病を治し、失った四肢すら生やす上位のポーションね」

「なに!? もう上位のポーションが作れるのか!?」

「作れるわよ」


 メアリーは見事なまでのドヤ顔を浮かべながら、〈ハイポーション〉に口をつけた。


「か……かっこいいな……私もやりたい……」


 ロンデナは感動に震えている。


「……瀕死のアンリに、口移しで薬を……」

「は?」

「ロンデナ様?」

「……私は瀕死のアンリに口移しで薬を飲ませてあげたい!」

「どうしてハッキリ言った!?」

「ロンデナ様……?」


 何なんだこいつ。……そういえば、神って基本的にこういうやつらだったな。

 万神殿に居たとき間近で色々な神を見たが、どいつも我が強かった。

 エクトラだって我が強いのは同じだ。


「ねえメアリー、私でも錬金術って出来るの? それとも神の力が悪さしちゃう?」

「いえ……瘴気を浄化する特性は、むしろ良い方向に働くとは思いますけど」

「じゃ、教えてよ!」

「いいですけど……痺れ薬とか媚薬の作り方は教えませんよ?」

「……や、やだなあ。そんなもの作るわけがないよ。あ、はは……」


 身の危険を感じる……!

 何より、俺に毒なんか盛ろうものならエクトラが怒り狂ってロンデナを殺しに行くこと間違いなし! 二重に危険だ!


「やめておけよ。死人が出るからな。本気で」

「だから、やらないってば」


 

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