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開戦


 冒険者たちがゲリラ戦を開始してから、既に数時間が経つ。

 このままいけば、正面からは一戦も交えないまま夜がくるだろう。


 相変わらずスワンプヴィル村は囲まれたまま。

 門周辺の敵戦力は少ないが、包囲を破ろうとすれば山から援軍が来る。

 それでも、村の包囲を破って合流しておきたい状況だ。


「そろそろ集合させるか。ファルコネッタ、大砲を丘に撃ってくれ」 


 到着した大砲を並べ、丘の上へ数発を放つ。

 どれもわずかに狙いが外れた。

 そもそも、今の大砲はまだ上下方向を正確に狙うことができない。

 というのも、大砲の後ろに木を挟んだり抜いたりすることで土台の高さを調整し角度を変える、という原始的な仕組みで狙いを付けているからだ。


「……申し訳ない……商船ですから、あまり砲手の練度が……」

「気にするな。ただの合図だ」

「……なるほど……」


 大砲の音を聞いたら戻れ、という指示を冒険者に出してある。

 陽も落ち始めてきた。ゲリラ戦は終わりだ。

 夜が来る前に、正面から一戦を交えるとしよう。

 指揮官クラスの人材を集めて、指示を出す。


「ジャン。お前は右翼の担当だ。本隊を率いて村へ向かい、合流しろ。ファルコネッタは中央にとどまり、大砲への指示を出してくれ。ガリシッドは左翼側に回り、丘の西側から敵軍を牽制しろ。念のために、図を書いて説明すると……」


挿絵(By みてみん)


「こういう形になる。俺とエクトラは予備兵と共に中央で待機だ」


 大雑把な指示を出したあとで、俺は詳細な作戦を伝えていった。


「おっし、村を助けたあと敵に当たればいいんだな! 〈ロンデナ自警団〉、集合!」

「西で暴れりゃいいってわけか! 戦功第一はこの〈大熊の〉ガリシッド様が頂きだぜ! 悪いなエクトラ、オレが最強の座を頂いちまうぜ! ガハハ!」

「わがはいは切り札だからな! 最強だから温存しておく必要があるのだ!」


 冒険者たちがそれぞれの持ち場へ行き、準備を整えていく。


「……砲撃は……丘から敵を追い出すための圧力ですか……?」


 冒険者たちと比べると、ファルコネッタは視点が一段高い。

 さすがに商会の責任者だけはある。


「その通りだ。敵を丘から引きずり出して、村を解囲したジャンの主力部隊とぶつけたい。そのタイミングで西からガリシッドが丘を取れればベストだな」

「了解しましたが……私が敵の指揮官なら、主力を避けて中央の大砲を狙いますね……兵数が少ないのに、左右へ分散させるというのはいかがなものかと……」

「だろう? 人数だけで言えば、ここが薄く見える」


 俺はにやりと笑った。

 だが、俺とエクトラが居る。実際は中央こそが最も強固だ。

 守っている間に主力が来れる。それで包囲が完成する。


「……なるほど。あなただけは敵に回したくない……」

「説明してないのに理解してるお前だって、敵に回したくない女だがな」


 そんな話をしている間に、攻勢の準備が整った。


「さあ、行け! サハギン共に地獄を見せて、たんまり報奨金を稼いでこい!」


 おおっ、と冒険者たちが鬨の声を上げて、村へめがけて突っ込んでいく。

 その反対側では、ひっそりとガリシッドが迂回を開始していた。

 五門の大砲が丘をめがけて火を噴き、両軍から降り注ぐ矢が天を覆う。

 後ろにいる非戦闘員のハンナたちも、マスケット銃を握り魔物へと射撃を開始した。


「どう出る、〈リーダー〉。そこにいるんだろう。要所だと分かっているはずだ」


 右翼側で、ジャンの率いる主力がサハギンとぶつかった。

 数で負けているにも関わらず、冒険者たちがサハギンを囲む形になった。

 一箇所にまとまっているサハギンと違い、冒険者はパーティ単位で戦っている。

 いくらでも部隊を分けて、左右から別々に攻撃をかけることができるのだ。


 左右から半包囲されたサハギンの部隊が、一瞬のうちに敗走する。

 俺は丘を注視した。

 さあ、どこへ動く。


「来た! 中央だ! 予備兵、構えろ!」

「……砲手、散弾を装填……よく引きつけ射撃後、すぐに退避を……」


 サハギンの大軍が、木々に覆われた丘を下ってくる。

 はっきりと姿は見えない。叫び声も聞こえない。サハギンには声帯がない。

 だが、響いてくる地響きの圧力だけで、相当な数だと分かる……!


「ハンナ! 職員を伝令に出せ! ジャンの部隊を丘の上に向かわせろ!」

「は、はい! 村の方には何か伝えますか!?」

「いや……ルバートなら状況は分かっているはずだ! まだいい!」


 ルバートは村の東側で指揮を取っているはずだ。

 今も東にいるサハギンの大軍を押さえているはず。その仕事を続けてもらえばいい。


「来ましたよ……」


 街道をサハギンが埋め尽くす。

 不気味な魚頭の魔物の中に、ひときわ目立つ個体があった。

 黒い鱗を光らせた巨大なサハギンが、はっきりと俺を見つめている。


「お前だけは逃さないぞ、〈リーダー〉個体……!」

「射撃……今……!」


 五門の大砲が火を吹いて、大量の鉄片がサハギンを襲う。

 その一撃で五十匹近くが倒れた。それでも構わず、彼らは襲いかかってくる。


「後は任せましたよ……」

「ああ」

「アンリ! わがはいの出番だな!?」

「そうだ。いくぞ、神様らしいところを見せてやれ!」


 大砲を捨てて後退するファルコネッタたちと入れ替わり、俺たちが前線に出る。

 予備兵の冒険者たちが弓矢を放ち、更に十匹以上のサハギンが倒れた。

 〈アンリ式矢じり〉は機能しているが、射撃戦はここで終わりだ。

 いざ、接近戦!



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