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ゲリラ戦


 じりじりとした時が流れていた。一つの血も流されないまま、睨み合いが続く。

 俺はガリシッドの部隊を使い、村の正面を固めるサハギンに小競り合いを仕掛けた。

 有利になったところで、案の定、丘からぞろぞろとサハギンの大軍が現れた。

 そこでガリシッドが戻ってくる。サハギンたちは丘へ戻り、追撃は来ない。


「なるほど」


 俺たちのいる街道南側の小高い土地を欲しがっているなら、必ず追撃が来た。

 つまり、敵の指揮官はここを欲しがっていない。

 丘さえ押さえていれば十分だ、という発想だ。


「どう出る気だ……?」


 このまま囲み続けるのか、どこかで村を攻め落とすのか。

 分からない。これが人間の軍隊なら、作戦の狙いが分かりやすいのだが。

 相手は魔物だ。理由もなく人間を襲うことがある。

 ”何のために”という動機が分かりにくい。


 そもそも魔物は魔力がメインの栄養源だ。食事もするが、必須ではない。

 人間と違い、補給線や政治状況から敵の限界を探ることもできない。

 相手の考えが読めない。


「ガリシッド。山の北西に……いや。やっぱり、川に近づいてみてくれ」


 読めないなら確かめるまでだ。

 小競り合いを繰り返し、敵の反応を探る。

 その結果、おおむね敵の配置が判明した。


挿絵(By みてみん)


 川を使って村を囲む部隊と、丘に陣取って脱出を防ぎ援軍へ対応する部隊。

 この二つに別れているようだ。

 下手に片方へ攻撃をかければ、もう片方から囲まれてしまうだろう。


 やむなく街道の南側へ布陣したが、ここは場所が悪い。

 川から右翼側を囲まれる可能性がある。

 狙ってきてもおかしくないと思うのだが、敵の動きはない。


「何かを待っているのか?」


 何を待っているんだ。タイミングか。増援か。

 それとも、夜か? 一般的に、魔物は夜に凶暴化する。


「……夜だな」


 魔物は強くなる一方で、人間は連携が取りにくくなる。

 サハギンは海中の魔物だ。遠くを見れない状況に慣れ親しんでいる。


「よし。読めた」


 狙いが分かれば対策できる。

 だが同時に、敵の〈リーダー〉も俺たちへの対策を考えているだろう。

 一手先では不十分。敵の応手を含めた三手先までの読みが最低ラインだ。


 読みを深めているうちに、冒険者の本隊が到着した。

 部隊を二つに分けて、街道上と街道南のジャングルに布陣する。

 まだ睨み合いだ。

 だが、相手の狙いは夜襲だと読めた。このまま睨み合うのは不利だ。


 指揮官を努めているジャンがあちこちを駆け回り、勝手に動くなと冒険者たちに釘を差している。

 それでも、本隊を離れてどこかに消える冒険者のパーティがちらほら出た。


「ギルドマスター、指示を無視してるやつらがいる! どうすりゃいい!?」

「放っておけ。どうせしばらく敵の動きはない」

「う、動きはないんだな! ギルドマスターが言うならそうなのか! 了解!」


 ジャンは素直に頷いた。

 ……しばらくあと、陣地を離れた冒険者たちがサハギンの首を手に帰ってきた。


「なあ! ギルドで買い取ってくれよ! 戦だろ、普段より上乗せで!」


 命令無視。だが、戦果は戦果だ。

 これを認めれば、冒険者たちの規律は乱れることになるが……。


「そうだな。ハンナ、連れてきた職員でギルドの出張査定所を作れないか?」

「……え!? そんなことやって大丈夫ですか!?」

「好き勝手に行動して、戦列が乱れて隙を付かれる、と言いたいのか?」

「は、はい」

「それでもいいんだ。ここの戦力は大半が冒険者だからな。逃げながらパーティ単位でゲリラ戦をやれば、正面からぶつかりあうよりも有利になる」


 敵戦力を削りつつ、あわよくば敵を誘い出す。

 それが狙いだ。好き勝手でまとまりのない集団だと思われれば得をする。

 だいたい、冒険者なんて好き勝手にやっているときが一番強いに決まっている。


「……それで、査定所を? ギ、ギルドマスター……!」

「どうした」

「私、感激しました……! まさに神算鬼謀……!」

「どこがだ。いいから出張ギルドの準備をしてくれ」


 そういうわけで、戦場に冒険者ギルドが作られた。

 冒険者たちが報酬目当てで魔物の討伐に向かっていく。

 ここが戦場であるということを除けば、普段とまったく同じ光景だ。


「討伐へ向かう者へ、一つだけ決まりを定める! 大砲の音が聞こえたら、その瞬間にここへ集合すること! 以上だ、行ってこい、稼いでこい!」


 冒険者たちが喜び勇んで金を稼ぎに向かった。

 ただし、ジャンとガリシッドのパーティにだけは討伐に行くなと言ってある。

 この二人は指揮官だ。流石に居なくなると困る。


 四方にバラけた冒険者たちが、サハギンへちょっかいをかけていく。

 サハギンの一部隊がその挑発に乗り、山から降りてジャングルの中まで冒険者を追いかけた。


「おばかなのだ」


 木に登って戦場を眺めているエクトラが呟く。

 そうだな。あのサハギンたちの末路は決まった。

 指揮官が居るとはいえ、末端は所詮サハギンだ。


 しばらくすると、サハギンの死体を丸ごと抱えた冒険者たちがやってくる。

 ハンナが査定を行い、彼らに払うべき報奨金をしっかり書類に記した。


 似たような調子で、サハギンがちまちま倒されていく。

 まっとうにぶつかりあう戦いが起こらないままに、敵の戦力が削れていく。

 嫌気がさしたか、あらかたのサハギンが丘の上に引きこもった。


 それでもまだ冒険者たちのゲリラ戦は続く。

 連携の取りにくく障害物の多いジャングルは、完全に冒険者の領分だ。

 あまりに報奨金の額が膨らみ続けるので、俺とギルド職員は焦りだした。

 戦果が上がりすぎて、ギルドの金がなくなるかもしれない……!


「……ギルドマスター……輸送部隊、到着しました……」


 街道をたどってきた大砲の輸送部隊が到着した。


「引き続き、往復での輸送を手配済みです……次は食料を……」

「待ってくれ。食料より、野戦築城の資材を優先したい。あとは大量の明かりを」


 夜間へともつれ込ませる気はないが、万が一もつれた場合のために必要だ。


「……夜襲を見込んでいるのですね……わかりました……」


 相変わらず一瞬で俺の狙いを見抜いたファルコネッタが、手早く部下に指示を出す。

 運ばれてきた小型(ミニオン)砲五門の要員と共に、彼女は戦場に残った。


「……冒険者が好き勝手しているようですが……止めるべきでは……?」

「いや。あれは俺の指示だ」

「……?」


 たっぷり数十秒ほどファルコネッタが考え込んだ。


「冒険者だから可能な戦い方ですか……恐ろしい人ですね、あなたは……」



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