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万神殿の神々


 エクトラの世話をしながら、俺は信仰を集めるための策を練った。

 何をするにも一筋縄では行かない。

 なにせ、”冒険者”という存在を復権させるところから始める必要があるのだ。


 後ろ盾なしで行動すれば、他の神や国に邪魔されるだろう。

 できれば不要な争いは避けていきたいものだ。

 無理せず楽しくやっていくためには、そのほうがいい。


 ひとまず俺は古文書を読み漁り、冒険者についての記述を探した。

 あまり細かい資料は残っていない。いかんせん、冒険者が居たのは大昔の話だ。

 だが、断片的な情報を集めることはできる。


 なんとなく策が浮かんできたころ、俺の耳にニュースが入ってきた。

 〈降臨の儀〉で、ニューロンデナムという名の神が生まれたのだという。

 名前からして、明らかに国や都市を守護している類の神だ。


 ロンデナムというのはこの大陸にある〈アゼルランド王国〉という小国の首都だ。

 ”新しいロンデナム”。おそらくロンデナム出身の開拓者が名付けたのだろう。

 おそらく、この大陸からはるかな西方にある新世界にある街のはずだ。


 新世界にある街ならば、まだ魔物の危険があり、冒険者の需要がある。

 俺はそういう打算の下、エクトラを伴って会いに行った。


「わがはいはエクトラなのだ! お前は!?」

「ごほっ……ロンデナって呼んでほしいな……」


 色白の幼い神が、病床に臥せっている。

 汗の浮いた彼女の額を、巫女が甲斐甲斐しく拭いていた。


「……なによ、アンリ」


 俺の視線に気づいた巫女が言った。

 ロンデナに付いているのはメアリーだった。


「いや、別に。ロンデナ様、お話があるのですが」

「ええ……どうぞ」

「俺は、冒険者ギルドを作ろうと思っています」


 俺とエクトラで冒険者のための組織を再建し、冒険者という存在を復活させる。

 そうすれば、エクトラを信仰する人間も増えるはずだ。


「冒険者ギルド……それが、ごほっ、私となにか?」

「設立するのは、魔物が多い場所でなければいけない。ニューロンデナムなら条件に合うかと思いまして。魔物が少なくなれば、ニューロンデナムも発展するでしょう」

「そうかな……」

「そのために、あなたに許可を取っておきたい。物事をスムーズに進めるために」

「ははっ……ゴホッ、ゴホッ!」


 ロンデナは痩せた顔に自嘲の笑顔をにじませた。


「私に許可なんて出せないよ……所詮、植民地の守護神だから。アゼルに聞くといい」


 アゼル。アゼルランドか。

 〈アゼルランド王国〉の守護神。下っ端の神では門前払いされる格の神だ。


「紹介状を書くから……ゴホッ、よろしく伝えておいて……」


 彼女から紹介状を受け取り、一礼する。


「ロンデナ! よく休んでいっぱい食べるのだ! それで治るぞ!」

「はは。ありがとね、エクトラ……」


 退室した俺たちを、小走りの足音が追いかけてきた。


「待ちなさい」

「どうした、メアリー」

「……分かるでしょう。ロンデナ様の不調は、街の不調と連動しているのよ」

「だろうな」

「あなたたちに会うだけで、疲れこんで眠ってしまったわ。それぐらいギリギリなの」


 彼女は見るからにロンデナのことを心配していた。

 メアリーがこういう顔をしているところを、今まで見たことがない。

 ……成長したな。


「だから……頼むわ、アンリ。〈冒険者ギルド〉を作って、ロンデナ様を助けて」

「任せろ」

「……それと、ごめんなさい」


 メアリーが言った。


「反省してるわ。あんたは立派なやつだった……私なんかより、ずっと……」

「気にするな。親元を離れてこんな場所で一人きりなら不安にもなる。その不安や鬱屈を誰かにぶつけたくなりもするだろうさ。お前はよくやってるよ、メアリー」


 俺は謝罪を受け入れた。

 実際、投げられた悪口に対して常に皮肉や悪口を投げ返していたから、一方的にいじめられていたわけではないし……。


「あんた……一言多いけど、いいヤツなのね」

「そうだな」

「……そういうところが一言多いのよ」

「事実だ。まあ、互いに出来ることをやっていこう」



- - -



 馬車が何台も通れる幅の階段が、山の腹を真っ直ぐに登っていく。

 これはアゼルランドのためだけの神殿だ。万神殿と同じ山にあるが、独立している。

 小国とはいえ国を守護する神ともなれば、それぐらいの力を持つものだ。


「すごいのだ! でっかいのだ! わがはいもこういう神殿が欲しいのだ!」


 守護神アゼルと面会したエクトラが、いきなり言った。


「うふふ……神殿を褒められて悪い気はしませんわ」

「エクトラ様。頭を下げなくては」


 よくわかっていない様子で、エクトラが俺にならって膝をつき頭を下げた。

 同じ神とはいえ、さすがに格の差がありすぎる。


「まあ、そんなことを気にする必要はありませんことよ! われわれはみな、同じ神殿に住む仲間でしょう? 頭をお上げになって?」

「では、アゼルランド様のお言葉に甘えて……」


 優雅なドレスを纏った貴婦人アゼルが、扇子で口元を隠している。

 けっして金にあかした装いではない。

 神殿の側も、小ぶりなステンドグラスがあるぐらい。装飾は控えめだ。


「話は聞きましたわ。冒険者ギルド設立の認可を求めているのですわね?」

「はい。エクトラ様への信仰を確保するためにも、俺は冒険者稼業を復権させたい」

「まこと見上げた心がけですわ。よい騎士を持ちましたね、エクトラ」

「巫女です」

「え? あら、まあ……ずいぶんと男らしい……」

「男ですから」

「?」


 アゼルは困ったように扇子をぱたぱた煽ぐ。


「しょるい? の間違いがあったのだ!」

「まあ」


 エクトラが尻尾を振った。何かを伝えられたのが嬉しいらしい。

 その様子を見たアゼルが、頬をぴくぴくとさせる。


「か……かわいいわ……!」

「わがはい? かわいいのだ? えへへ……」


 エクトラが首をかしげて、照れたように笑う。


「あああっ! 辛抱たまりませんわ!」


 アゼルが勢いよく玉座から立ち上がった。


「エクトラちゃん! なにか欲しいものはあるかしら!?」

「……おにく!」

「わかったわ! 食事にしましょう!」


 ……面会のはずが、食事会になった。

 テーブルと食事が運び込まれてくる。


 俺はエクトラを伴い下座に座る。

 ……すると、アゼルはエクトラの隣に移ってきた。

 気にしてないなら、まあいいか。

 近いほうが話しやすい。


「これ、全部わがはいが食べて良いのか!?」

「もちろん」

「はぐっ……うまうま……」

「うふふ、まだまだあるわよ……いくらでもお食べなさいね……」


 アゼルが孫を溺愛する親戚のおばあちゃんと化している。

 これはもう、俺が何かをする必要はなさそうだ。

 間違いなくエクトラの味方になってくれるだろう。


「おいしかったかしら、エクトラちゃん?」

「おいしかったのだ! でも血の味がもっと欲しいのだ!」

「あらまあ。ごめんなさいね、そういう趣味だったの」

「おいしかったからいいのだ!」

「うふふ……エクトラちゃんはかわいいわね……あら、じっとしてて」


 エクトラの口についた汚れを、アゼルが拭き取った。


「さて。冒険者ギルドの話だったわよね?」


 エクトラの頭を撫でながら、彼女は本題に戻ってきた。


「もちろん認可するわ。必要な資材と人員はいくらでも……」


 そのときアゼルに仕える巫女が寄ってきて、彼女に耳打ちした。


「……だ、出せる限りで出させてもらうわね」


 財政が厳しいのだろう。アゼルランドは小国だ。

 あまり多くを要求しては悪いな。


「感謝します。冒険者ギルド本部の建設にかかる費用と資材の計算は、ここに」


 懐から書類を出して、眠そうなエクトラの頭上越しに手渡す。


「もう纏まってるの? 優秀なのね。これは……たったのこれだけ?」


 アゼルの巫女がすっと寄ってきて、数字に目を通しアゼルへ頷く。


「でも、いいのかしら? 本部はもっと大きく作るべきではありませんこと?」

「何をするかも分からないうちに箱だけ作っても意味がありませんから。テストを兼ねて小規模なところからギルドを立ち上げ、ノウハウを積んでからでも拡大は遅くない」

「その通り。……いきなりドカンとやりたがる神にも見習って欲しいです」


 アゼルの巫女が言った。


「わがはいはドカンとやりたいのだ!」

「ねえ、やっぱりもう少し予算を増やさない?」

「駄目です」


 俺と巫女が声を揃えて答えた。


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[一言] >俺と巫女が声を揃えて答えた 巫女と巫女じゃないか、わざわざ区別しないでも
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