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食料確保と湿地帯


 俺はデーヴを使者に出して、アゼルランド商会の責任者を呼んだ。

 彼が領主補佐業から解放された今、〈エクトラ号〉を自由に動かすことができる。

 こういう連絡のために海を駆け回ってもらうことになるだろう。


「私をお呼びですか……ギルドマスター……?」


 数日後に、ファルコネッタ・ヤーコプが会いに来た。

 相変わらず、服の上からでも分かるものすごいサイズ……いや。

 彼女が責任者ということらしい。好都合だ。


「半年後までの食料の継続的な購入について、話がしたい」

「半年……。農業のうまくいく目処が立ったのですね……」


 相変わらず眠そうな彼女の瞳が、俺をじっと見つめた。


「……食料の値下がりは、半年後……いい情報を、ありがとうございます……」


 やっぱり頭の回る女だ。部下に欲しい。


「今は風が旧大陸から新大陸へ吹く時期ですから……旧大陸から、追加で船を送ることになりますが……魔物の素材と加工品で、費用は十分にまかなえるでしょう……」


 冒険者が強くなり、狩りの効率が上がったことで、余剰の素材も増えてきた。

 今の所、他の商会が素材を欲しがったりはしていないので、彼女のアゼルランド商会がそのほとんどを買いつけている。

 なんなら食料を無料で送っても黒字になるぐらい、彼女は儲けているはずだ。


「……帰る時にはものすごい額の商品を積むことになりますから……護衛の意味でも、船を追加で送るのは合理的ですし……互いに利益がありますね……」


 俺たちは細かい価格を詰めたあと、握手で商談を終えた。

 一ヶ月後には十分な量の食料が届く。

 それまでの間も、他国の開拓街から食料を買い付けて届けてくれるそうだ。

 周辺の小さな町を含めて、飢える心配はなくなった。


「もしよければ、ですが……この街に、商館を作らせてもらっても……?」

「まだ無かったのか?」

「昔はありましたが……魔物の襲撃で壊れてしまい……」


 それもそうか。

 この街は滅びかけだったんだし、商会の人間を常駐させたくないだろうな。


「もちろん許可する。土地はあるのか?」

「ええ、跡地が……ありがとうございます……」


 ところで、とファルコネッタが話題を変える。


「アゼル様はお元気でしたか……?」

「元気すぎて困るぐらいだったな。毎日のように快速帆船を乗り回して周辺を探索してた。サハギンぐらいぶっちぎれるから、襲撃されても困らないんだと」


 小国とはいえ国の神がこんなところで遊んでて大丈夫なんだろうか、と思いはしたが。

 一週間ぐらい存分に遊んだあとで、彼女は国へ帰っていった。

 南国へ来たのは、彼女にとって休暇のようなものだったのだろう。


「ふふっ……アゼル様らしい……」


 彼女がギルドの窓から外を見る。

 穏やかなエメラルドブルーの海が、はるかな水平線まで広がっていた。



- - -



 商談を終えた俺は、その足で街道の工事現場に向かった。


「ルバート! 街道の整備状況はどうだ!」

「ああん?」


 冒険者らしい革鎧に身を包んでいても、海賊風の帽子だけはそのままだ。

 多少はプライドがあるのだろう。


「見に来たか。なあ、工期で賭けたのは忘れてねえよな?」

「ああ。覚えてる。それがどうかしたか」


 この前こいつと飲んだとき、何故かヒートアップして賭けに発展した。

 何故か分からないが、こいつとは毎回のように飲み比べの腕比べになってしまう。

 まあ、嫌いじゃない。


「かなり前倒しだぜ。お前のより俺の予想が正しいってことだな、グアハハ!」

「今の所はな。湿地帯で工事は難航するはずだ」

「まあ見とけよ。水の処理なら海の男に任せやがれ!」

「無茶はするなよ?」

「ああ? この俺が無茶しねえと勝てねえとでも言いてえのか?」

「そうだな。お前はおとなしく負けを認めるだろう」

「言ったな? 見とけよ」


 フレンドリーな煽りあいのあと、俺は街道を見学した。

 馬車がすれ違えるぐらいの十分な広さを持ち、左右には溝が掘られている。

 原野に比べればはるかに歩きやすく安全だ。


「街道がたどり着く先の湿地帯を見たいんだが」

「案内してやるよ」


 製作中の街道はすぐに途切れたが、すでに踏みならされた獣道がある。

 一時間ほど歩いた末に、俺は湿地帯にまでたどり着いた。

 すでに前回の試験でたどり着いた奥地よりも遠くに来ている。

 獣道だとしても、道があるだけでそれほどの差が出るのだ。


「魔物の襲撃は一回もなし、か」


 予想以上のペースで冒険者たちは街の周辺の安全を確保している。

 この調子で行けばむしろ魔物の方が尽きてしまうかもしれない。


「すごいもんだぜ。魔物をまともに倒すなんて、お前が来るまで選択肢にも無かったってのによ。今じゃみんな楽に狩ってる。たった一人で常識を変えちまいやがって」

「まあな」

「で、どうだ? この湿地帯が、村の候補地なんだろ?」

「ああ」


 水を透明な瓶に汲んでみた。透明だ。

 流れがあるようで、淀みは少ない。


「いくらか治水をやって、農業用水を引こう。灌漑して畑の生産性を上げる」

「……そんな大量に水が要るのか?」


 灌漑農法は、俺達のいた大陸西部ではあまり行われていない。

 平坦な土地が多く、畑を休められるだけの土地があったからだ。


「旧大陸と違って、休耕地を作るような余裕はないからな」

「お、おう?」

「とにかく、同じ土地でたくさん収穫できるようにする。栽培するのは、とりあえずジャガイモとトウモロコシの連作で行こうと思う」


 ロンデナに実験畑で植える物のパターンや順番を検証してもらった結果だ。

 とりあえずこれで行こう、という話になった。


「あー、あのゴロゴロした変なやつとツブツブで気持ち悪いやつか」

「美味かったぞ? 慣れれば平気さ」

「うへえ。ま、海上で食う保存食よかマシか……」

「で、どうだ? お前の部下だった連中が、ここに住むわけだが」

「……ろくに家も無かった連中が住むにゃあ、上等すぎるぜ。こんな静かな場所は」


 彼は湿地帯に背を向けて、街道へ戻っていった。


「ありがとうよ」

「気にするな」


 俺はその場に残り、周囲の地形を調べた。

 村の用水路を引くために、細かいことを調べる必要がある。


「……ふう。こんなところか」


 おおむね調べ終わったころ、湿地帯の奥から逃げてくる冒険者たちの姿が見えた。

 逃げながらもときどき立ち止まり、後方へ矢を射掛けている。


「どうした! 大丈夫か!」

「あっ、ギルドマスター!」


 冒険者たちが俺の姿を見つけて、安心したように胸を撫で下ろす。


「大変なんだ! サハギンの大群が!」

「……なに!?」


 どうしてこんな陸の奥地にサハギンが出るんだ!?


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