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神力農法


「んん……いい朝だ」


 大きく体を伸ばし、窓からニューロンデナムの街を見晴らす。

 綺麗に修繕された港町を荷車が行き交い、港からは何隻もの漁船が出ていく。

 ギルドのあたりに目を向ければ、若い冒険者たちが笑顔で駆け出していった。

 朝から活気あふれる光景だ。


「おはよう、皆」

「おはようなのだ!」

「おはよ、アンリ」


 エクトラとロンデナは、すでに食卓へついていた。

 みんな住んでいるのは領主館だ。毎朝のように顔を合わせている。

 アゼルの連れてきた官僚たち、それとデーヴもここに住み込みだ。

 もちろんメアリーも居る。料理を作っているのは彼女だ。


「領主稼業には慣れてきたか、ロンデナ?」

「ちょっとはね。でも、アゼルの連れてきた官僚が優秀だし。私なんて置物だよ」

「大丈夫だ。お前にしか出来ない仕事がたくさんある」

「……そうかな」

「そうだ。皆、体にお前の紋章を刻んでるだろう。自分の信じる神が自分たちを見守ってくれているし、なんなら直接話すこともできる。それだけでも十分だ」

「うん……ありがと、アンリ」


 領主の座についたロンデナは、どうも職を持て余し気味だ。

 何かやりたいことが見つかればいいのだが。


「で、今日は何をするのだ!?」


 目玉焼きを口の端にくっつけたエクトラが、目を輝かせながら俺に言った。


「食料を確保しようと思う」

「うん?」

「この周辺は、どこの街も食料が不足気味らしいからな。冒険者ギルドで切り開いた土地を畑にしたい。そのために、実験畑を作って農作業だ」

「えー……」


 エクトラは机に突っ伏して、全身でめんどくさ感を表現している。


「ふてくされるなよ。みんなに感謝される立派な仕事だ」

「海賊の人たちにやらせればいいのだー」


 確かに、彼らの大半は農民になることを選んだのだから、筋ではある。

 それに、処刑したクリストフの部下もいる。彼らの刑罰は強制労働だ。

 彼らが畑を作ればいい、と言いたくもなるだろうが……。


「誰も、このあたりで農業が上手くいくのかどうかなんて分からないからな。畑を作れと言っても、実例がない。まずは俺たちで実験しないといけないだろ」

「ええー」

「だいたい、街道を作るのに人手を回してるんだ。今は農業に回す余裕がない」


 元海賊たちはいま、ニューロンデナム周辺の街道整備に従事している。

 砦へ繋がる道はもちろん、奥地の湿地帯へ向かう方向の道も作る必要がある。

 冒険者が遠くに行きやすくなれば、それだけ探索の成果も上がるのだ。


「というわけで、食事が終わったら農具を持って城壁の外に行こう」

「えええー」

「暇ならロンデナも来ないか?」


 街の守り神である彼女は、たぶんこの街における農業の守り神でもあるはずだ。

 案外、農業にハマってくれたりするかもしれない。


「アンリが言うなら……」


 やる気はなさげだが、彼女もついてくることになった。



- - -



 かつては城壁の外に出た瞬間からジャングルだったのが、今は視界がいい。

 木は伐採され、草もけっこう刈り込まれて見通しがよくなっている。

 ジャングルの中に立つ大きな砦の姿も、いつの間にか見えるようになっていた。

 今となっては、あの砦は不要だ。そのうち解体するべきだろう。


 その砦へと向けて、街道を整備している人々がいる。

 軽く土を掘りさげたあと上に砂利を敷くだけの簡易な道だ。

 とはいえ、周辺の草木を刈り払う必要もあり、楽な作業ではない。


 この街道作りは、冒険者ギルドからルバートに斡旋した依頼(クエスト)という形になっている。

 せっかくのギルドなのだから、これを活かして内政を進めていきたい。


「さて、やるか!」

「えー……」

「アンリがやるなら、私もやるけど……」


 やる気ゼロの神々を連れて、スコップで土を起こし、クワで耕す。

 海沿いだから塩っぽいかと心配していたが、土の状態は良好だ。

 元はジャングルが生い茂っていただけあり、栄養は豊富にある。


「これなら、〈神力農法〉で実験できるな」

「なにそれ?」

「神の力を作物に注いで、一瞬で植物を育てる方法だよ」

「そんなのあるの!? 神さえいれば、食事が作り放題なのだ!?」

「いいや。これをやると、土地に大きなダメージが入る。使ってしまえば土が細って来年からはずっと不作だから、緊急時でもなければやらない」

「ええ? そんな危険な農法、ここで試していいわけ? たぶん、それをやるのって私だよね?」

「心配はいらない。将来的にニューロンデナムの人口は増えるはずだ。そうなれば、城壁のすぐ外側なんて市街地になるだろう? ここが細っても問題はない」


 将来的にずっと使い続けるような畑は、街道の先の湿地帯に作るつもりだ。

 そこを村にして、元海賊の農民たちを住まわせる。


「というわけで、耕すぞ」


 俺は率先して畑を作っていく。


「あ!」


 渋々クワを振っているエクトラの顔が明るくなった。


「なんか楽しくなってきたのだ!」


 力任せにブンブンとクワを振り回し、猛烈な勢いで耕していく。


「うおおおー! 足の爪も使っちゃうのだー! ダブル耕しー!」


 エクトラのおかげで、実験畑はすぐに完成した。

 とりあえず、この新世界に自生している作物……じゃがいもとトウモロコシを植える。

 どちらも新しい作物で、育てるノウハウはない。


「栄養のある水をたっぷり用意して、と。ロンデナ、力を注いでみてくれ」

「やってみるよ」


 土から猛烈に水を吸い上げながら、埋めた種がみるみるうちに芽吹いていく。

 数十分もしないうちにすっかり収穫可能なところまで育った。


「特に問題なく育ったか」


 とりあえず、出来たじゃがいもとトウモロコシを塩で茹でてみる。


「なんだ!? 神々しい味だぞ!?」

「めちゃくちゃおいしいのだ!?」

「おいしいね! さすがアンリ!」

「いや、俺? お前が〈神力農法〉をやったおかげじゃないか……?」


 神の力がたっぷり注がれて瑞々しい味だ。

 食いきれないくらい出来たので、余ったぶんを街道整備中の人員に振る舞った。


「う……うめえ……無料で食っていいのかよ……」

「こんなもんを食えるなんて……海賊やめてよかった……!」


 好評だ。よかった。


「食えるだけじゃないぞ。こういう作物を自分で作れるんだ。頑張れよ」

「ああっ! 頑張るよ、ギルドマスター……!」


 神力農法の結果を使って宣伝するのは詐欺な気もするが、まあやる気を出してくれたのだからいいんだろう。

 ともかく、土質に問題はないようだ。これならすぐに農業を始められる。

 今から農村を作るとして、収穫後は半年後ぐらいか。

 食糧問題の解決に目処が立ったな。


「さて、半年後までの食料は……」


 さすがに全部を〈神力農法〉でまかなうのは無理だ。

 商会を通して旧大陸から買い付ける必要がある。

 デカいコネを使うとするか。


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