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海賊公の勧誘


 海賊をニューロンデナムまで運んだあと、俺たちは再び海に出た。

 彼らの裁判を見る必要はないし、まだ休みの期間が残っている。

 この機会にルバートを味方に引き込んでおこう。きっと役に立つ。


「ルバート、って人も海賊なんでしょ? 大丈夫なの?」

「心配するな、ロンデナ。何とかなる」

「でも、クリストフたちを捕まえたあとだよ? 片方は捕まえておいて、もう片方は見逃すようなことをすれば、理屈が通ってないと思われない?」

「そこも大丈夫。ルバートの悪評は、隠れ家を奪われたクリストフが嫌がらせに撒いたのが出処だ。事情を広めればみんな納得する。人間は”裏話”が好きな生き物だからな」


 だいたい、直接ルバートに襲われた人間は誰もいないのだ。

 彼がサハギンと戦っているのを見た、という者もいた。心配はない。


「それに、あの男が俺の思ってるような人材なら、きっと活躍で黙らせるさ」


 後方支援の人材が揃った今、冒険者ギルドに最も必要な人材は”英雄”だ。

 前線で並外れた活躍を出来るような者がいなければ、探索は進まない。


 〈エクトラ号〉は、クリストフの情報に従い、島の多い海域を進む。

 浅瀬を縫うように進んでいくうち、やがて大きな島が見えてきた。

 あれがルバートたちの隠れ家だ。


「……出てきましたぞ! ガレオン一隻、スループニ隻!」


 入り江の中から、三隻の帆船が姿を表した。


「白旗を掲げ、砲門を閉じろ!」


 交戦の意志はない、と示す。

 すると、向こうの旗艦が一隻だけで寄ってきた。


「また会ったな!」


 並走する船から、ルバートが叫んできた。


「クリストフを捕まえたらしいじゃねえか! 俺たちも捕まえようってか!?」

「違う! 冒険者ギルドを作った上で、また話をしにきた!」

「……大概しつこいやつだな、てめえ!」


 船の距離が縮まり、やがて飛び渡れるほどのところまで近づいた。


「そっちに行くぞ!」

「来るな! てめえが乗り込めば、一人で帆船を全滅させられるだろうが!」


 流石に過大評価だ。エクトラが居なければ難しい。


「この俺が騙し討ちをするとでも!」

「……いや。てめえはそういう奴じゃねえ。いいぜ、来い!」


 俺は単身、ルバートの船に乗り込んだ。

 海賊たちが遠巻きに取り囲んでくる。


「おう。話を聞かせてもらうじゃねえか」

「海賊を辞めて、冒険者になれ。略奪するよりも稼ぎがいいぞ」

「聞いたぜ。ゴブリン一匹で銀貨一枚。たいそうバラ撒いてるみてえだが」


 海賊たちがルバートを二度見した。

 インパクトのある額だ。中途半端に海賊をやるより稼ぎはいい。


「いつまでも維持できる価格じゃねえだろ。すぐに買い取り価格は落ちる。無限に魔物が湧いてくるわけでもねえ。維持出来る仕組みなのかよ、冒険者ってのは」

「可能だ。未踏破の領域はまだまだ広い」

「だが、楽に稼げるのは今だけだ。いずれ、危険な奥地の魔物を倒さなけりゃあ食い扶持も稼げねえようなことになるんじゃねえのか? ……てめえ、素材の買い取り口を冒険者ギルドで独占してるようなもんだろ。値段も自由自在だよな」


 目の付けどころがいい。

 確かに、冒険者ギルドは魔物素材の買取価格を自由に下げられる。

 その気になれば買い取りを二束三文にして荒稼ぎすることも可能だ。


「違う。素材買い取りを冒険者ギルドが独占してるのは、危険な素材を管理するためだ。その気になれば、魔物から作った武器防具で戦争を起こせるからな」

「自分たちが武力を独占するのは構わねえってか」

「まさか。冒険者ギルドは、冒険者への強制力を持たない。私兵としては使えないような仕組みにしてある」

「……なるほど」


 ルバートは俺の言葉を噛みしめた。


「確かに、お前は良いやつなんだろう。だがな、上手くいくとは限らねえんだ。俺だって、この海に来たときはただの商人だったんだからな」


 彼は過去を簡潔に語る。

 サハギンに襲われた村を助けているうちに、クリストフの悪評を知り、彼の隠れ家を襲撃してクリストフの海賊団を壊滅させた。

 しかし、彼を恨むクリストフに悪評を撒き散らされ、気付けば自分が海賊になる以外の道は絶たれてしまっていたのだという。


「冒険者ギルドだって、同じ道を辿るかもしれねえぞ。いいか……俺はな、何百人もの命を預かってるんだ。冒険者なんていう不確実なものに賭けて、そいつらの命を危険に晒すわけにはいかねえ。分かるだろう」

「不確実じゃない働き口があればいいのか?」


 彼の口元に笑みが浮かんだ。

 要するに、海賊たちの就職を世話してくれ、という話がしたかったらしい。


「そうだ」

「ある。ニューロンデナム周辺の開拓は、冒険者ギルドの主導だ。切り開かれた土地の権利も冒険者ギルドが持っているからな」


 冒険者が生まれたことで、土地を切り開くのは容易になった。

 これは極めて重要だ。

 この海域の街は、どこも魔物の襲撃が激しく、農地にできる土地も少ない。

 飢饉が起きるのも当然の状況だ。


「ルバート。もしお前が冒険者になるのなら、お前の部下へ土地の一部を与えても構わない。周辺の民を飢えから救うために、農民が必要だからな」

「交換条件ってわけだな。いいぜ」


 交渉は一瞬で終わった。

 それも当然で、俺たちは既に互いの狙いが分かっている状態だ。

 俺はルバートを冒険者にしたい。ルバートは部下に働き口を与えたい。

 互いに望む物を得られる以上、細かい交渉も必要ない。


「ただ、強制はするな。海賊たちの中に冒険者になりたい者がいれば、その道を選ぶのも自由。他の職に就くのなら、それも自由だ」

「甘ちゃんだな、てめえは。ま、嫌いじゃねえがな」

「人のことを言えた口か?」

「んだと、この大海賊ルバート様が甘ちゃんだってのか?」


 そうかもな、と彼は呟いた。


「アンリ・ギルマス。あんたを連れていきたい場所がある。俺の船に続いてくれ」


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