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海賊の宝


「さて。クリストフ。このまま行けば、お前は死刑だろうな」


 昔の裁判の事例だと、海賊の船長は死刑だった。当然だ。

 その下について働いていた海賊たちは、数年の強制労働で済まされたというが。

 俺もそうするつもりだ。

 やむなく海賊に身を落とした者もいるだろうし、今は人手が欲しい。


「何か言うことはあるか?」


 また手を後ろに縛られているクリストフが、俺を睨みつけた。


「おれの握った情報を知りたいんだろ? 先に減刑を約束してもらおうか」

「結構。そのまま処刑台に行け」

「ははっ、どうでもいいフリしたって無駄だぞ? 気になるんだろ」

「どうでもいい。デーヴ、護送の準備をしてくれ」


 このキャラック船は、エクトラ号とは違い、帆を操るために人手が必要になる。

 さっき砲撃で船底に開けた穴も、塞ぎはしたが水が染み出してくる状況だ。

 デーヴと水兵は全員この船に残る必要がある。


「お、おい……気になるだろ?」

「目的地はどうするべきだと思う? キャラック船をニュークールシに戻した上で、海賊共をエクトラ号に乗せて帰るべきか?」

「いえ。この船を修理するのはニューロンデナムの設備でなければ無理ですし、まとめて向こうに帰るのがよろしいかと」

「なるほど」

「わ、分かった! 話だけでも聞いてくれ!」

「……立場が分かったようだな」


 俺はクリストフに向き直った。


 それから、彼はぺらぺらと聞かれていないことまで喋り続けた。

 彼らが根城にしていた入り江をルバートに襲撃されたことから、ひたすら復讐の機会を狙って潜み続ける最中に女を騙してヒモになったことやら、彼の船へ密航するために港の職員を脅して樽に隠れた事やら。

 まるで自伝でも書いてるみたいに得意げだ。


「あいつらが乗ってる船、半分はもともと俺のなんだよ! 隠れ家を襲撃された時、船まで奪って行きやがったんだ!」

「……へえ」


 ルバートが「こいつの村を潰したのは俺だ」と言っていたのは本当だったのか。

 クリストフが海賊だったと言わなかったのは何故だろう。

 もしかして、更生していた可能性を考えたのか?

 クリストフが悪い印象を持たれないよう、自らが泥を被った?

 ……無駄に優しい奴だな。ルバートを海賊にしておくのはもったいない。


「許せねえよ! 仲間の仇だ! ジョンなんか、子供が生まれる前だったんだぞ!」

「子供が?」

「そうだ! ちょうど、さらってきた女の腹が……」


 俺の表情に気付いて、クリストフが口を閉じた。


「その女は、今どこにいるんだ?」

「し、知らねえよ! 襲撃の時に女も脱走しちまった!」

「ルバートに助け出されたとは思わないのか?」

「助けた? 何でだよ? そんなことする意味があるか?」


 話しているうちに、”死刑”という判断へのためらいが消えていく。

 こいつはどうしようもない。

 女をさらってきたことも気にせず、まだ仇を打つべき仲間だと思っているぐらいだ。

 残念だが、更生は不可能だろう。


「ま、待てって。なあ、宝の話が聞きたくないのか?」

「お前の口から聞く必要はない」


 もしルバートが俺の思っているような男なら、直接聞けば事情は分かるはずだ。

 冒険者ギルドも作ったことだし、そろそろ勧誘に行くべきかもしれない。


「……チッ。お見通しってわけか。いいぜ、好きに見ろよ」


 クリストフは観念したように膝をついた。


「……?」

「えっ……あっ!? き、気付いてなかったのか!?」


 勝手に勘違いしたようだ。


「……今の状態で、好きに見れるもの? 入れ墨か!? そいつの服を脱がせろ!」


 上半身に、海図が刻まれていた。

 そうか。そういうことか。


「お前が盗んだものは、それか?」

「……まあな。ルバートの部屋に忍び込んで、奴の宝の地図を盗んでやったのさ」


 クリストフは誇らしげだ。


「針とインクで写したところまでは上手くいったんだがな。捕まった上に、入れ墨にまで気付かれちまった。おかげで海に沈むところだったんだが」

「仇討ちが目的じゃなかったのか?」

「もちろん仇討ちが目的さ。……知ってるか? ルバートが魔物を操るってのは、何もホラ話じゃないんだぜ。本当の話だ。あいつは、そういう宝を持ってるんだよ」


 その宝の在処が、この海図のバツ印だというわけか。

 俺は海図を書き写した。


「あと、もう一つ。ルバートが根城にしている場所は知っているか?」

「ああ。教えてやってもいいが……減刑してくれよ、な?」

「いいぞ。減刑してやる」

「ほ、本当か!?」


 クリストフは大喜びで場所を教えてくれた。

 交易ルートから離れたところにある孤島の入り江だ。

 場所が分かっていれば、ニューロンデナムから半日程度でたどり着ける。

 

「それで、減刑は……」

「ああ。苦痛の少ない処刑で死なせてやる」

「そ、そんなんありかよ!?」


 クリストフの目に涙が浮かんだ。


「この人でなしっ!」

「お前にだけは言われたくない」


 俺はデーヴに後処理を任せ、エクトラ号へと戻った。



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