休みだ!
大きな休みを取ろうと決めたのはいいものの、中々そうもいかない。
そろそろ行けるか、と思った瞬間にかぎって仕事が入る。
そんな調子でずるずると休みは後退し、気付けば二週間後。
アゼル様がロンデナを連れてくる日だ。
「結局休めてないんだが……っ!」
「それは私も同じなのですぞーっ!」
「ギルドも……誰も休めていないんですけど……!」
「わがはいがお仕事を変わってあげたいけど、さすがに無理なのだ……」
出迎えのために集まった幹部陣は、誰も彼も疲弊している。
人材を探してはいるのだが、見つからない。
旧大陸と違って人口が少ない上に、有能な人間は今みんな冒険者を目指してしまう。
「アゼル様に直談判する……っ! 俺たちに残された希望はそれしかないっ!」
沖合に見える帆船が近づいてくるのを、俺達は今か今かと待ち構えた。
水飛沫をあげながら、アゼルの操る非武装の高速帆船が波を割って港に入る。
減速する様子がない。帆を全開にしたまま突っ込んでくる。
「お、おいっ!?」
「ぶつかるのだーっ!?」
「いや、まだギリギリですぞっ!」
船首から錨が投げ落とされた。
急減速しながらドリフトする船が大波を作る。
港に押し寄せた波が壁にぶち当たり、俺達の目前で天高く水飛沫を吹き上げた。
「ごめんあそばせーっ!」
まったく悪びていない様子で、アゼルが船から飛び降りた。
開いている日傘で防いだのか能力なのか、一人だけ水に濡れていない。こいつ。
「会いたかったわ、エクトラちゃーん! 元気にしてたかしらー!?」
「元気なのだ! 皆によくしてもらってるのだ!」
アゼルに続き、船から何人も人が降りてくる。
その中にロンデナの姿も見えた。色白だった肌が、ちょっと日に焼けている。
「アンリ! あなた、人材不足で苦労していると聞いたのだけど」
「は、はい。それで、是非本国から支援をお願いできないかと」
「そう言うだろうと思っていましたわ。彼らが応援にあたります」
いかにも内政屋といった雰囲気の男女が、俺に一礼した。
「王国の官僚から選抜しましたの。彼らなら、領主が居なくとも業務を回せますわ」
「お、おお……っ! ありがとうございますアゼル様っ……!」
「ありがたい、ありがたいですぞおっ……!」
「ん? デーヴ? あなた、王国海軍旗艦〈アゼルランド〉の副長よね……?」
「ええ、まあ、そうでしたな」
「何で……ああ、アンリに引き抜かれたのかしら? まあ、許すわ! エクトラちゃんのためになるものね!」
ふ、副長? 旗艦の?
優秀だとは思ってたが、そんな重要な船の偉いポジションだったのか。
アゼルが味方じゃなきゃ危ないところだった……。
「あと、アンリ。領主代理業、まことにお疲れさまでした。今日から領主になる方を船でお連れてしましたわ」
おっと。そういうことか。
まあ、流石に手が回らなかった。ギルドマスター業に集中できるならありがたい。
「さ、新領主様? ご挨拶なさい?」
「えーとアンリ、なんかね……私が領主になるらしいんだ」
不安そうなロンデナが言った。
「ロンデナが? 務まるのか?」
彼女は生まれたばかりの神だ。
エクトラに比べれば落ち着いた気質だが、経験はない。
「寝込んでる間、本はいろいろ読んだから……」
「何とかなるわ。そのために官僚を連れてきたんだもの」
「にしても、大丈夫なのか? 領主はここ以外の街も統治する立場なのに。ニューロンデナムの神が領主になったら、他の街が怒ったりするんじゃないか?」
「心配いりませんわ。この時をもって、あなたを正式に副領主として任命します」
「……えっ?」
「アンリ、あなたは他の街でもけっこう人気があるのよ? あなたが副領主に就けば、そうそう文句は出ないわ。冒険者ギルドの拡大も楽になるでしょうし」
し、仕事が楽になると思ったのに……。
なんか特に減らない気がしてきた……。
っていうかそれ、ロンデナはお飾りで、俺が実質的な領主のままなんじゃ……。
「つ、謹んで拝命いたします」
「嬉しくなさそうね。そんなに仕事が忙しかったのかしら」
アゼル様は、俺とデーヴとハンナの疲れ切った顔をまじまじと見た。
「分かったわ! 今日から一週間、あなたたちは休みなさい!」
「えっ、私も!? 冒険者ギルドの手が足りなくなるんですけど!?」
「心配いらないわ。ギルドの方にも助っ人を出すし、私も手伝うもの。上の者がしっかり休みを取らないと、下も休めなくなって雰囲気がブラックになってしまうわよ?」
み、耳が痛い……。
「あ、あの! アンリが休むなら、私も休みたいなーって」
「……んー? んんー??」
もじもじしているロンデナの様子を、アゼル様がじっと見つめた。
「そういうことなら仕方ないわね! 休んでよし!」
いいんだ……。




