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昇格と交信


「よーし、撤収作業も終わったな! 帰るぞーっ!」


 ジャンが号令をかけて、俺たちは帰途へついた。

 迷わないよう、道中には目印を用意してある。


 遠征は成功だ。探索の結果、まだまだ陸地に先がありそうなことが分かった。

 魔物の討伐も上手く行っている。

 オーガ二匹を筆頭に、いくらか上等な魔物の素材が得られた。

 買取の代金だけでギルドから銀貨五十枚ほど支払うことになる計算だ。

 だが、買い取った素材を加工して売れば、すぐに素材代の元は取れる。


「……以上、十八名をAランク昇格とする」


 街のすぐ近くで、俺はAランク昇格試験の合格者を発表した。

 酒を飲んでいた連中を除いた五パーティが、無事にAランクへと上がったことになる。

 仕事ぶりを間近で見た限り、彼らなら奥地を探索しても大丈夫だろう。


「合格できなかった者も、気は落とすな。実力はある。気を引き締めて、どれだけ危険なことをやっているかの自覚を持てば、すぐに次の試験で合格できるからな」

「はい……」


 反省している顔だ。自覚があるらしい。

 ならよし。人間には、いつだって次のチャンスがある。


「さて。解散前に、少しだけ俺の話を聞いてくれ」


 みんなが疲れているのは分かるが、それでも話しておきたい。


「冒険者ギルドはまだ軌道に乗ったばかり。冒険者という職も、まだ生まれたばかりだ。これから冒険者はどんどん増えていくだろう。そうした後輩が手本にするのは、君たちAランク冒険者の姿だ」


 ぐっと拳を握るもの。当然だ、とうなずくもの。にやけるもの。

 反応は様々だ。


「君たちの行いが、冒険者ギルドの未来を決める。そのことを自覚し、ランクに恥じないよう精一杯に励んでくれ。以上、解散!」


 明るい未来に満ち溢れた冒険者たちが、思い思いの方向へと散っていった。



- - -



 そのあと、俺とエクトラは街の神殿に呼ばれた。

 ロンデナ様が俺たちと話をしたいのだという。


 神殿はすっかり綺麗になっていた。魔物に侵入された痕跡はどこにもない。

 神官長に連れられて、俺たちは魔法の道具が揃った儀式場に足を踏み入れた。

 蝋燭に火が灯り、祭壇の魔法陣が輝く。


「こちらを」


 儀式のための茶を口に含み、瞳を閉じて集中する。

 暗闇の中にぼんやりと光が見えた。


「アンリ、こっち!」


 トンネルを抜けたように、視界が開けた。

 万神殿の一室が見える。


「ロンデナ様。体調はいかがですか」

「おかげさまで最高だよ!」

「ロンデナー! 元気になったなー! わがはいも嬉しいのだー!」


 かつて寝込んだきりだった少女は、一人で床に立っていた。

 顔色は明るく、ふらついている様子もない。


「運動だって出来ちゃうんだ!」


 ロンデナは軽く飛び跳ねてみせた。

 隣に控えるメアリーが止めないということは、本当に元気なんだろう。


「今なら何でもできる気がするね! 今日なんか無性に弓矢が使いたくなって、訓練場に押しかけて教えてもらっちゃったよ!」


 ……もしかして、〈アンリ式矢じり〉が街で話題になったせいか? いや、まさかな。


「何よりです」

「ねえアンリ、何でかしこまってるの? エクトラは呼び捨てるのに」

「そうだぞ! ロンデナは友達なのだ、気にすることないのだ!」

「な、なら。普通に接させてもらうが」

「それでいいんだよ。だって、私はアンリのものだもんね?」

「そ、そうか?」


 いや、たしかに……領主代理だし、そう言えなくもないが……。

 絶対、ニュアンスが違うよな? これ?


「そうだよ。今の私がいるのは、全部アンリのおかげだから」

「……ぐるる」

「あはは、エクトラちゃん……威嚇しなくても大丈夫だって。私はアンリのものだけど、アンリは私のものじゃない。それぐらい、分かってるからさ」


 彼女は部屋の窓から遠くを見つめた。その横顔は弱々しい。

 健康の問題ではなく、これは心情によるものだ。

 俺にはどうにもできない。諦めてもらうしか。


「……ロンデナ……」


 エクトラが威嚇をやめた。


「……ちょっとぐらいなら、分けてやってもいいのだ!」

「いいの?」

「うん! 友達だからな!」

「後から、やっぱなし、なんて言わないでよ?」

「心配いらないのだ!」


 二人は友情を確認するかのように頷きあった。

 いや、その、なんかちょっとイイ話みたいな空気出してるけどさあ。


「勝手に俺を分割しないでほしいんだが」

「いいじゃん! 私たちは神様だもん、ねー!」

「ねー!」

「よくないんだが!?」

「メアリーも良いって思うよねー?」

「ええ。アンリ、神のわがままに付き合うのも巫女の仕事よ。諦めなさい」

「くっ……!」


 三対一……劣勢っ……!


「あ、ちょっと交信が不安定になってきたかな?」


 言われてみれば確かに、見える景色が滲んでいる。

 こういう交信は繊細だ。あまり長時間維持できるものではない。

 難易度も高く、才能がなければ声を聞くことも叶わないぐらいだ。


「危ない危ない、伝えそこねるとこだった。アンリ、私もそっちに行くよ!」

「そうか、そこまで体調が良いのか」

「うん! アゼル様が高速船で送ってくれるって! 二週間かからないよ!」

「アゼル様が自ら? あの人は結構忙しいんじゃないのか」

「今のニューロンデナムと冒険者ギルドは、それだけ重要なんじゃない?」

「どうだろうな。単にエクトラの顔が見たいだけだったりして」

「あはは、ありうるー!」


 景色の滲みが加速し、声が遠くなってきた。


「そろそろ限界かな。じゃ、次は実際に会って話そうね、じゃあねー!」


 お互いに手を振って、俺たちは交信を終えた。

 目を開く。体がだるい。さすがにかなり体力を使った。


「すさまじいですね」


 神官長が温かい飲み物を俺たちに差し入れた。


「一瞬で交信に入るとは。しかも、声だけでなく姿も見えている様子。流石、万神殿の……巫女? だけはあるのですね」

「まあな。万神殿に入れるぐらいの才能はある」

「わがはいの下僕だからなー! おっとと」


 立ちくらみでもしたのか、エクトラが転びかけた。そっと支えてやる。


「さて……まずは領主業からだな。仕事の時間だ」

「だ、大丈夫なのですか? だいぶお疲れの様子ですが」

「心配するな。一区切りはついた。近いうちに、バカンスでも取るさ」


 体の頑丈さに自信はあるが、ちょっと疲労が重なりすぎている。

 せっかくの南国なんだ。そろそろ大きな休みを取って、まったりしよう。


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