ギルドカードと冒険者ランク
ファルコネッタとの商談を経て、冒険者ギルドはひとまず完成した。
冒険者が魔物を狩り、その素材を買い取り、加工して輸出する。
その輸出で得た金を使い、武器防具や薬を安く売り、冒険者を強くする。
そういう形で金の流れを作ることができた。無限ループだ。
「次はどうするかな……」
他の街に支部を作るのはまだ早い。
今の流れを続けつつ、冒険者の強さと装備の質を上げていくのが重要だ。
そのためには近場のゴブリンではなく、もっと強い魔物に挑んでもらう必要がある。
だが、不慣れな冒険者を危険な場所に送れば死人が出るかもしれない。
できれば慣れた者だけを送りたいが、今のシステムでは無理だ。
奥地の魔物に高価な報奨金を賭けたら、その瞬間、冒険者になりたての人間もこぞって奥へ向かうだろう。
「何を悩んでるのだ、アンリ?」
エクトラがギルドの執務室に入ってきて、言った。
海で泳いできたのか、全身びちょびちょだ。床に点々と濡れができている。
後で拭いておかなければ。
「強い冒険者だけが、強い魔物に挑めるシステムを作りたいんだ」
「うーん? 強い魔物に挑んでいいよ、って免許でも出せばいいのだ」
「……確かに」
シンプルな発想だが、それで問題はない。
こんな単純なことをなぜ思いつかなかったんだ。
……疲労か。本当に、いったん休みを取るべきかもしれない……。
「別のギルドカードを発行するか? いや、それは手間が多すぎるな」
新しく作らなくても、今のギルドカードにはたくさん空欄を作ってある。
魔物ごとに狩る資格を分けておけば、それで十分だ。
だが、将来的に魔物の種類が増えていけば面倒なことになる。
いっそのこと、強さでランクを分けて、そのランクに応じた資格を出すか?
「ランク分けだと大雑把すぎるか? 殴り合いが強いからって、殴れないスライムみたいな魔物を狩る許可まで出るような事態になるかもしれない」
「強い冒険者なら、そのぐらいは自分で判断できると思うのだ」
エクトラは冒険者たちを信頼しているようだ。
「冒険者っていう仕事は、どうしたって危ないことなのだ。あまり守ろうとしすぎても、逆に甘やかされすぎた冒険者が出来るだけだぞー!」
「その通りだな」
細かく分ける必要はないか。
やっぱり、強さのランク分けで十分だな。
「よし。ニューロンデナム近郊でだけ活動できる〈Bランク〉と遠くでも活動できる〈Aランク〉に冒険者をランク分けしよう」
「おお、それっぽくなってきたのだ!」
「BランクからAランクになるためには、魔物の討伐数が一定以上、かつ……試験に合格するか、あるいはギルドが試験相当だと認めた依頼をこなすこと」
これでいってみよう。細かいところを書類にまとめていく。
エクトラが俺の椅子に寄りかかり、ふんふん言いながら頷いている。
「こんなところか。ハンナを呼んできてくれ」
「はーい!」
出来上がった書類を叩き台にして、さらに細かいところを詰めていく。
ギルドの業務が終わったあとも、俺達は仕事を続けた。
「何パーティぐらいAランクの冒険者に認定するつもりなんですか?」
「実績を見たかぎり、六パーティほど候補がいるな」
「六パーティも。数十人を相手に、一人づつAランク昇格試験ですか。ちゃんとした試験になるでしょうし、ギルドマスターの負担が大きすぎません?」
「だが、ここで半端な妥協はできない」
口頭で面接もしたいし、ちゃんと一人ひとりへのアドバイスもしたい。
時間はかかるが、人の命がかかっているだけに、妥協はできないところだ。
とはいえ、今の状況で一人ひとりに細かい面接をする時間は、さすがに……。
「よし、決めた。奥地への遠征を、BからAランクへの昇格試験とする」
「なるほど。全員まとめて見るつもりですね」
「ああ。内陸の探索も兼ねてな。一日ぐらいなら、領主業務をデーヴに、ギルド業務をお前に任せても問題ないだろう」
「……ま、任せてください! ばっちりギルドを回してみせますよ!」
ハンナが嬉しそうに言った。
「それってつまり! 将来的には、わたしが他のギルド支部でマスターになるってことですよね!? 夢の部下こきつかい系ふんぞり返り生活……!」
「気が早いぞ、ハンナ」
だが、その通りだ。あと数ヶ月後ぐらいには、近くの町へ支部を作りたい。
近くにあるといえば、林業が盛んなニュークールシあたりだろうか。
俺はニュークールシを含めた周辺一帯の領主なので、特に問題はない。
ニューロンデナム以外の街にも書類を通して指示を出している。
……おかげで忙しさが大変なことになってるんだが。
「とりあえず、今週末あたりに遠征を組む。周知はお前に任せるぞ、ハンナ」
「はいっ!」
「アンリ? もちろんわがはいも連れてくのだよなー?」
「当然だ」
「わーい、大冒険なのだー!」




