冒険者ギルド物販
ギルドを立ち上げた翌日、俺は領主代理のほうに集中していた。
しばらく溜まった業務をさばき、要人と面会し、街の修繕計画を立て。
仕事の範囲はニューロンデナムの中だけではなく、周辺の様々な街や城を治めるのも領主の仕事であり、その代理をやっている以上どうしても仕事量が増える。
領主業に一段落がついたころ、既に時刻は夕方だ。
「デーヴ! 服屋と薬屋と鍛冶屋に会いたいんだが!」
「私に言われても困りますぞ! ご自分で街に出られるのがよろしいかと!」
確かにその通りだ。今から呼びつけるのは時間的にも無理だし。
俺はギルドマスターとしての仕事をするべく、エクトラを連れて領主館から出かけた。
通行人に店の場所を聞き、まずは服屋へ向かう。
「どうだ? ゴブリンの毛皮は加工できそうか?」
「おおっと領主様、これはこれは。まずお茶の一つでも」
「代理だ。あと、そういうのはいい。お茶を飲む時間もないんだ」
「そ、そうですか。まこと身を粉にして働かれているようで。流石ですよ。新しい領主様も、前領主に負けず劣らず良いお人だと、いたるところで噂になっております」
……街を解放して死ぬほど仕事しながらギルドを作って、ようやく評判が並ぶのか。
前の領主、すごい人だったんだな……。
「アンリはいらなくても、わがはいはお茶が欲しいぞ! 持ってくるのだ!」
「はいはい、少々お待ちを」
お茶菓子つきの麦茶を出してもらい、エクトラが満足気に尻尾を振った。
「さてゴブリン毛皮の鎧ですが、試作品がこちらに」
脱色して灰色になった毛皮が、鎧らしい形に整形されている。
試しにパンチしてみた。衝撃の加わった箇所が、青く輝く。
「領主様の言われていた通り、残留した魔力が衝撃を吸収しているようで」
「よく出来ているな。まずは外に流さず、冒険者を相手に売ってくれるか?」
「ええ。そうすれば、もっといい鎧が作れるのでしょう?」
「そうだ。原料の供給も増えるし、上手く魔法金属の鉱脈でも見つければ街が出来るぐらいの一大産業だからな。冒険者の探索能力を上げることが最優先だ」
服屋、よし。冒険者ギルドが買い取ったゴブリンの毛皮は、服屋へ売れる。
その服屋は冒険者に加工品を売る。将来的には輸出する。これで上手く回るはずだ。
次いで、俺たちは薬屋に向かった。
「あ! 領主様! ポーション作れましたよ! ほんとに簡単なんですね!」
「領主代理だ」
薬屋の娘が、錬金術の釜でまとめてポーションを作っている。
「エクトラちゃん! 飲む!?」
「ポーションはキライなのだ! 苦いのだ!」
「えー、おいしいのに」
怪我しているわけでもないのに、薬屋の娘はポーションに口をつけた。
特に問題はない。むしろ病気も防止できるし、健康になる。
「明日からは、注文通りの量でポーションをギルドに納入出来ますよー」
「分かった。よろしく頼む」
俺はギルドの窓口でもポーションを販売するつもりだ。
ギルドへ寄るついでに消費アイテムを買えれば便利だろう。
あと、運転資金は借りてあるとはいえ、できればギルドでも客に直接物を売ることで赤字を減らしておきたい。
「で、なんでしたっけ? 海向こうへの輸出は辞めといたほうが良いんだっけ?」
「そうだ。運んでいる最中で効果が弱くなるからな。この街の客へ売りつつ、可能なら近隣の都市にもポーションを広めてほしい」
「はいはーい、了解でーす」
ひとまず、魔石は薬屋に売る。
魔力の溜まった魔石はどこでも需要が出てくるはずだが、今はポーションにする。
ポーションを他の街に広めれば、冒険者ギルド支部を作る布石にもなるはずだ。
薬屋、よし。
「なんじゃい! わしは仕事しとんじゃ!」
「俺も仕事をしているところだ」
「そうだぞー! わがはいも仕事してるのだー!」
「ふん! まあ水でも飲んで待っとれ! こっちは熱いから気をつけるんじゃ!」
鍛冶屋の偏屈爺が、槌を叩いて大きな剣を作っている。
魔物を倒すための武器の各種は、全てこの爺さんに発注したものだ。
鍛冶には時間が掛かるので、海を渡る前に手紙で依頼をしてある。
「で! なんじゃい!」
「骨武器の件で来た」
「ああ! あの妙ちくりんな!」
爺が壁から骨の槍を握り、俺に投げ渡した。
「なーんで鍛冶屋に発注するんじゃ、そんなもん。骨なら葬儀屋にでも扱わせときゃよかろ」
「いや……。……金属に近い強度だし、武器だからな」
迷ったが、真面目に突っ込んでしまった。
「んなこたわーっとるわい!」
木の柄の先に骨の穂先がついた槍を、軽く振り回す。
悪くない。
魔物の骨はたいがい武器にできる。強度では金属に劣るが、硬く軽く鋭い。
穂先を使い捨てと割り切れば、槍としても有用だ。
「おらよ、骨矢じゃい! 矢なんて作るの、いつぶりかのう!」
骨で作られた矢の入った樽が、どかんと置かれた。
もちろん矢としても、魔物の骨は強い。
すぐに割れるが威力はある。
「あと、杖じゃ! 鍛冶屋の仕事かね、こんなもん!」
骨を継ぎ接ぎして作った魔法の杖が、ごろごろと転がった。
これが本命だ。
”魔法の杖”というものは、もちろん魔法の素材でなければ作れない。
魔物が全滅した旧大陸では、杖が貴重品だった。
そのせいで魔法を習えるのは貴族ぐらい。
だが、冒険者が魔物素材を集めてくるようになれば、魔法の杖ぐらい楽に作れる。
「どれもいい出来だ。明日、まとめて引き取らせてもらう。またお願いする」
「ふん、頼まれりゃあ嫌とは言えんわ!」
鍛冶屋、よし。
冒険者ギルドで売るための武器も防具もポーションも、ひとまず確保できた。
これで冒険者たちを支援できる。




