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二人で


 領主代理としてなんとか街を統治しながら、冒険者ギルドの準備を進める。

 内装は完成し、ハンナ以外にも数名の職員を雇い、討伐報酬を決め。

 あらかたの準備は終わり、ギルドが開く日付も決まった。


「アンリぃー」


 ギルドが動き出す前日。

 領主館で書類仕事をしている最中、エクトラがとことこ現れた。


「構ってほしいのだ……」


 しょぼくれた尻尾が、地面をずるずると滑っている。

 しまった。仕事が忙しくて、エクトラを放っておく時間が長すぎた。

 それじゃ神の付き人として失格だ。


「よし、分かった。二人で仕事をしよう」

「二人で? わがはいも?」

「ああ。街の付近を軽く探索しておきたい。散歩がてらに、どうかな」

「行くのだー!」


 彼女は尻尾をぶんぶんと振り回した。

 よかった。喜んでくれたようだ。


「デーヴ、後は任せる」

「仕方ありませんな。ああ、私も海に出たかった……」


 くっきり目の隈が浮かび上がった彼は、激務のせいか少し痩せたようにも見える。

 いま、〈エクトラ号〉は水兵たちの手で海に出ている。

 安全な近海で釣りをして、食料の足しにするためだ。


「悪いな。もう少し人材が集まるまでは俺の補佐に徹してくれ」

「もちろんです。喜んで補佐させて頂きますとも。私なんかより、領主代理とギルドマスター、それに神の付き人を兼ねるあなたのほうが、はるかに忙しいですからな」


 言われてみると滅茶苦茶だ。陸に上がってから一回も、ちゃんと寝た覚えがない。

 領主代理の部分だけ、全部デーヴに丸投げできないだろうか……。


「というか、あなたの仕事量はちょっとおかしいですぞ?」

「まあ、仕方ない。俺がやるべき仕事だからな。さ、行くか、エクトラ」

「わーい!」


 そういうわけで、俺たちは街を出た。

 切り開かれた密林に、ちょっと上等な獣道がある。

 この道はニューロンデナム近郊にある砦に繋がっているはずだ。


「ところでアンリ。最近、わがはい調子が良いのだ。アンリのおかげなのだ」

「それは良かった」


 二人並んで、道をぶらぶら歩く。

 南国の強烈な日差しが密林にきらきらと跳ね返っている。

 潮風の心地よい、黄金色の午後だ。


「街の人にもよくしてもらってるのだ。みんな、わがはいを見るとおにくを持ってきてくれるのだ!」

「あまり食べすぎると、太るぞ?」

「わがはいは運動してるからいいのだ! 太らないもーん!」


 エクトラはぴょんぴょんと跳ねた。

 彼女の着ている南国風のポンチョがめくれて、柔らかそうな腹が見えている。

 腰のあたりにちらほら強固な鱗が見えるせいで、ぷにぷに感が強調されていた。


「……いつも言ってるだろ。パンツだけじゃなくて、ズボンもちゃんと履け」

「だって、爪とか鱗に引っかかってめんどくさいのだ!」

「だったらせめて、ただのパンツじゃなく水着だとかな……」


 しかし、エクトラがこのまま信仰を集めていけば、いずれ大人の姿になるのだろうか。

 そうなると、少し困ることがある。


 エクトラの手は鋭い爪が生えていて不器用だから、彼女は自分の体を洗うのが下手だ。

 彼女を風呂に入れてやるのも俺の仕事のうち。

 ……大人になって、エクトラの体が魅力的になってしまうと、少し気まずい。


「アンリ、わがはいの体を見てなに考えてるのだ!? えっちか!?」

「ああ……俺は、神に仕える者として失格なのかもしれない……」


 そもそも巫女は身辺の世話が仕事だ。

 だから変なことを考えないように、神と同性、つまり女に限定されている。

 ……でも、万神殿では女と女で付き合ってるやつらばっかりだったが。

 そう考えると無意味な規則だな。魔法で性別変えれるし。


「ホントに何考えてるのだっ!?」

「お前が成長したら、風呂に入れるときとか意識して困るな、と……」

「正直っ!? ……待つのだ!」


 エクトラが俺の正面に立った。


「わがはいは既にえっちなのだが!?」

「え?」

「えっちなのだが? アンリなら、好きに見てもよいぞ? ふふん」

「……えっちではないだろ」

「はー!? この立派な角とか翼が目に入らないのかー!?」


 困る……ちょっと人間には分からないアピールポイントだ……。


「見る目がないなー、アンリはー!」


 そんな調子で、だらだら会話しながら街の周囲を散歩した。

 ついでにちょっと砦の様子を見たり、人の手が入ってない密林へ入ったり。

 道を外れた瞬間、あちこちにゴブリンの痕跡が見つかった。

 本当に、街の外はまだ未探索のようだ。


「これなら、冒険者たちが開拓するべき土地はいくらでもありそうだな」


 魔物が綺麗に掃除されたら、密林を焼いて農地にしてもいいかもしれない。

 そうすれば今の食料難も解決だ。


「うむうむ、まさに冒険者の出番なのだ! がんばって祝福を授けるのだー!」


 エクトラは笑顔で密林を駆け回っている。

 この世界に来たばかりの頃とは比べ物にならないほど明るい笑顔だ。

 エクトラは自分の存在する意味を取り戻した。

 ……俺も、彼女のおかげで自分のやるべきことを得られた。


「二人でがんばろうな、エクトラ」

「うん、がんばるのだ!」


 さあ、明日から俺は冒険者ギルドのマスターだ。

 頑張って、冒険者ギルドを作っていこう。


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