魔物の倒し方
翌日。俺は領主館の庭にいた。自警団に稽古をつけるためだ。
「おっす! 人を集めてきたぜー!」
自警団のリーダーが手下を連れて現れる。
みな日焼けした肌だ。いかにも肉体労働者といった風体をしている。
「ギルドマスター、オレたち何すればいいんだ!?」
「名前を教えてくれ」
「お、おう。オレはジャン! 自警団のリーダーだ!」
ジャンに続いて、自警団のメンバーが名前を名乗った。
脳裏にしっかり記憶しておく。
「とりあえず、そこの丸太を斬ってみろ。地面に固定してあるから」
「任せろっ!」
ジャンがサーベルを抜き、全力で丸太に斬りかかる。
表面にわずかな切れ目が入った。
「もっと力を込めろ! 足から腰、腰から肩だ! 全力を出せ!」
「おうっ!」
彼は全力で丸太を斬ったが、弾かれるばかりだ。
「こ、このっ!」
「そこまででいい。お前らもやってみろ」
自警団の面々が、代わる代わる丸太を斬った。
誰もダメージを入れられない。
「こ、こんな丸太なんて剣で斬るもんじゃないだろ!?」
「そうかな?」
彼らを下がらせ、俺は剣を抜いた。
力強く踏み込み横薙ぎを放つ。丸太が上下に両断された。
「おおっ!? すっげ!? さっすがギルドマスターだ!」
「ジャン。俺の剣を使ってみろ」
「いいのか!? やったぜ!」
剣を渡すと、ジャンがよろめいた。
「重っ!?」
「そうでもない。重量のバランスだ。斧だと思って持ってみろ」
「……ほんとだ!」
ジャンが両手で剣を構え、斜めに斬り込んだ。
丸太に深く切り込みが入る。
「あれっ!?」
「いい一撃だ。魔物の硬い毛皮が相手でも通るだろう」
「この剣、すげえのか!? サーベルは全然通らなかったのに!」
「目的が違う。この剣は魔物用の武器で、サーベルは人間用の武器だ」
自警団の面々へ、この二つを持たせ比べさせる。
「魔物に苦戦してるのは、人間用の武器をそのまま使ってるからだ。専用の武器を使うだけで、だいぶ戦いは楽になる」
「けど、こんな重い剣じゃ攻撃が当たらないだろ!?」
「そうだな。だから、当てるために工夫をするんだ」
近くに立て掛けた武器のラックから、俺は投げ縄を拾い上げる。
「役割を分ければいい。動きを止めるための〈サポーター〉と、重い武器を持った〈アタッカー〉でな。〈サポーター〉がネットや縄で絡め取ったり、抜けにくい武器を突き刺したり、動きを鈍らせる魔法を当てたりしたところへ、〈アタッカー〉が全力の一撃を当てるんだ」
冒険者がたくさん居た時代は、冒険者向けの守護神もたくさん居て、こういう役割ごとに祝福を与えていたらしい。
今の時代からじゃ考えられないな。
「な、なるほど……!?」
「そのための武器は持ってきた。役割を決めて、試してみろ」
〈サポーター〉用には投げ縄や網、フックのついた槍に鎖を放つクロスボウ。
それと、読みあげれば誰でも使える使い切りタイプの魔法書まで。
〈アタッカー〉用も種類は負けていない。
重心バランスを前に寄せた、重厚長大な武器の各種を集めてある。
古文書を参考に今の技術で作った対魔物用の装備だ。
「二人一組を作れ。〈サポーター〉が丸太を妨害したあと、〈アタッカー〉が攻撃する。その流れを体に叩き込め」
自警団の面々が、目を輝かせて好みの武器を手に取った。
それから、並べた丸太を相手に訓練を始める。
元が肉体労働者だけあって、構えは不格好でも威力に不足はない。
まるで薪割りのごとくバカスカ丸太が割れるようになった。
「コツは掴んだな? ついてこい」
俺は館の裏に回った。そこに置かれた鉄檻から布を外すと、中にはゴブリンが居る。
「実戦だ。ジャン、やってみろ。今までよりもずっと楽に倒せるはずだ」
ジャンと彼の〈サポーター〉が前に出て、それぞれの武器を構えた。
俺は檻の扉を開け放つ。
中から飛び出したゴブリンの足元へ、クロスボウから放たれた鎖が絡んだ。
「ギッ!?」
転んだゴブリンめがけ、ジャンが両手斧を振り下ろす。
その一撃でカタがついた。
「どうだ? 自分たちでも楽に魔物を倒せるんじゃないか、って気にならないか?」
「ああ、ギルドマスターはすげえや! これならオレでもいけるかも!」
「こうして倒した魔物をギルドに持ち込めば、ギルドから賞金が出る。今のゴブリン一匹で、銀貨の一枚ぐらいにはなるだろう」
「銀貨!? そんなにか!?」
魔物の素材があまり出回っていない今ならば、高めの賞金を払っても黒字のはずだ。
これだと、冒険者はゴブリンを一匹倒すだけで日給ぐらいは稼げることになる。
十匹倒せば十日分だ。
「ジャン。この情報を、戦い方と合わせて皆に広めてくれるか? それで冒険者が増えれば、きっと魔物の襲撃へ自力で立ち向かえるようになる」
「ああ! 任せてくれよ!」
ジャンは暑苦しくサムズアップしたあと、両手斧を抱えて街へ向かっていった。
……武器を渡すつもりはなかったんだが。まあ、いいか。よし。




